理科離れの原因は子どもにあるんじゃない

伊佐常正

発言者

  伊佐常正 (いさ・じょうせい) 伊佐常正
  久茂地公民館プラネタリウム(沖縄県那覇市)の操作技師。2006年9月に引退。
   
  2006年9月28日

場面

朝日新聞の記事から。

コメント

本土復帰後初代の知事となる故・屋良朝苗 (やら ちょうびょう) 氏が中心になって市民団体が募金を集め、1966年(昭和41年)に最新鋭のプラネタリウムを購入した。現館長曰く「本土との教育環境の格差に悩んだ先輩たちが、何とかしたいと努力したのでしょう」。
最新鋭のプラネタリウムといっても、手動操作で、ナレーションも「ライブ」である。私も、学生時代、同時代のプラネタリウムを操作し、学園祭ではナレーションを担当してきた。太陽を沈ませ、照明を落としていきながら、恒星のボリュームを上げていく。すると、会場から子どもたちの小さな驚きの声が耳に入ってくる。操作卓にいる自分も、小さい頃に連れて行ってもらった渋谷の五島プラネタリウムでの体験を思い起こし、いつも新鮮な気持ちで語ることができる。ライブならではの醍醐味だ。
当時からコンピュータに興味があったので、自動制御でプロジェクターも使えたら、もっと素晴らしい演出ができるだろうと考えていた。あれから四半世紀、10年以上ITの仕事に携わってきた。いまでは、自動制御でプロジェクターを使ったプラネタリウムが当たり前の時代である。手動プラネタリウムとしては最大級の規模を誇っていた五島プラネタリウムも閉館してしまった。

しかし、どんなにITを駆使しても、ライブ演出を超えることはできないのではないかと思い始めている。もちろん、生の星空を超えることは絶対に不可能である。
久茂地公民館プラネタリウムでは、小学校の集5日制が完全施行された2002年(平成14年)から、小学生向けの土曜上映会を始めた。関係者の「子どもたちのために何かをしてやらなければ」という気持ちが伝わってくる。

理科に限らず、勉強というのは、教える者と教わる者の間のキャッチボールが不可欠だ。一方的に情報を送ってくるコンピュータが、教える者になることはあり得ない。インターネットはコミュニケーションツールとしては強力なツールだ。だが、キャッチボールの主体は、あくまで教師と生徒である。インターネットやパソコンは、キャッチボールがしやすいように、両者の距離を縮めてくれるだけである。

記事の中では、このあとに「何もしてこなかった大人に責任がある」と続く。私は、キャッチボールをしないお父さんにはなりたくない。
(この項おわり)
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