西暦1486年 - 「魔女の鉄槌」の出版

1486年、ドミニコ会で異端審問官であったハインリヒ・クラマーとヤーコプ・シュプレンガーは、魔女に関する論文「魔女の鉄槌」をドイツで出版する。
本書には魔女発見の手順とその証明の方法について詳しく記されており、魔女狩りの時代を開くきっかけとなった。

1096年に始まった十字軍がマンネリ化し、その負担によりローマ教皇権は徐々に弱体化し、ヨーロッパの王権が強まる。1307年、フランス王フィリップ4世は、十字軍に参加したテンプル騎士団を異端審問にかけ、1309年には教皇をアヴィニョンに捕囚した。
1348年、ヨーロッパで黒死病が猛威を振るったときは、魔女の仕業としてユダヤ人が捕らえられ処刑された。
1431年、百年戦争の終盤、異端審問によりフランスの英雄ジャンヌ・ダルクが処刑された。
レコンキスタを完成させたカスティーリャ女王イサベル1世とアラゴン王フェルナンド2世は信心深かったがゆえ、他の宗教を徹底的に弾圧した。

ヨーロッパ・ルネサンスがはじまり、貨幣経済の発展とともに魔女狩りも増えてゆく。
ヨーロッパ人は金融業で財をなしたユダヤ人に反感を抱くようになってきており、これが魔女狩りと結びついた。ユダヤ人の安息日を意味するサバトが、魔女の集会を意味するようになった。

1517年、ルターが95ヶ条の論題を掲示して宗教改革が始まると、カトリックと新教の両方で異端の告発が行われるようになり、1600年頃に魔女狩りはピークを迎える。
1620年、天文学者ケプラーの母が魔女裁判にかけられた。
血液循環を発見した国王の侍医ウィリアム・ハーヴェーは、1633年、魔女として告発を受けた人々の検証を行い、全員が釈放された。
魔女狩りは新大陸にも飛び火した。1692年、アメリカでセイラム魔女裁判が起き、19名が処刑され、5名が獄死した。

啓蒙思想が広まっても魔女狩りは止まなかった。たとえばルソーは、『エミール』の中で反ユダヤ主義を唱えた。
こうして18世紀末まで欧米の各地で魔女狩りが続いた。魔女狩りによる犠牲者の数は、数万人とも数百万人とも言われる。
魔女狩りは、宗教や思想信条に関わらず、科学時代に入っても、共同体と相容れない構成員を排除する手段として利用された。多様性が叫ばれる21世紀において、はたして魔女狩りがなくなったと言えるかどうか、それは未来の歴史家でないと分からない。