子どものプライバシーが狙われている

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国民生活センターによると、2003年度の個人情報に係る相談の総件数は約3万6000件でしたが、とりわけ子どもの個人情報にかかわる相談件数の増加が顕著で、2003年度は1,409件に上り、前年度の300件に比べて5倍近く増加し、4年前の2000年度に比べると30倍以上も増加していたことが分かりました。子どもの個人情報に係る消費者トラブルの急増は、情報通信ネットワークの急速な普及と関連が深く、ネットワークを通じて取得された個人情報が利用されるケースが少なくありません。

2014年(平成26年)7月、ベネッセコーポレーションから「進研ゼミ」など通信教育サービスの顧客情報760万~2070万件が流出しました。データベース管理会社に派遣されているSEが名簿会社に情報を売ったもので、子どもの個人情報も含まれており、1件あたり5~30円で取引されたのではないかとみられています。

目次

子どもの個人情報にかかわる相談件数

子どもを相手に不正請求する業者

子どもの個人情報にかかわる相談にみられる典型的なケースは、子どもの携帯電話に有料情報サービスの高額な料金請求を受ける、子どもの名前で自宅に勧誘のダイレクトメールや注文した覚えのない商品が送りつけられる、といったものです。
国民生活センターには、次のような相談がありました。
【事例 1】
小学生の娘の携帯電話に広告メールが頻繁に届き、メールに記載されたホームページに アクセスしたところ登録したことになり、利用料金を請求されている。
【事例 2】
小学生の息子の名前宛で、貸金業者から融資するというハガキが何度も届いている。 業者に苦情を伝えると「放っておいたらいいじゃないか」と反省する様子がない。 子どもの個人情報がどうしてこのような業者に知られているのか不審である。
【事例 3】
中学生の息子の名前で、毎日膨大な量のダイレクトメールが送られて来るが、送付を止めさせる方法はないか。
【事例 4】
高校生の娘に名指しで電話が来て、着物が当ったのでプレゼントすると言う。 いらないと答えたが、相手がどうして娘の名前や自宅の電話番号を知っているか不審である。

子どもから個人情報を聞き出そうとする業者

子どもから個人情報を聞き出そうとする不審な電話や電子メールなども増えています。
いったん子どもの電話番号や住所などの個人情報が相手の業者に捕まれてしまうと、
年齢を問わない無差別的な勧誘や請求に、子どもが巻き込まれていくことになります。
中には脅迫まがいの請求もあり、親にも相談できずに、小遣いから支払ってしまう子どももいます。
また、子どもが興味を持ちそうなクイズやアンケートと称し、子どもから巧みに個人情報を聞き出したり、小遣い稼ぎになるなどと言って出会い系サイトに誘導する業者もいます。
国民生活センターには、次のような相談がありました。
【事例 5】
小学生の息子が留守番中、知らない者から電話があり、学校の連絡網に記載されている氏名と電話番号を尋ねられ答えたという。悪用されないか心配である。
【事例 6】
小学生の娘の名宛てで代金引換郵便の品物が届いているので、頼んだか否かの確認をしているという電話があった。他の子どもの分もあるので、クラス全員の名前の呼び方や電話番号をしつこく教えてほしいと言われたという。
【事例 7】
中学生の娘が留守番していると消防署員を名乗る男から電話があり、災害時の集合場所が変ったので学校の卒業生の名前と電話番号を教えるように言われ読み上げた。母親が帰宅し不信に思って電話をかわると切られた。
【事例 8】
女子中学生が路上で呼び止められ、エステに関するアンケートに応えて、名前・住所・電話番号なども記入した。その後、アンケートに答えた店から連絡があり契約を断ったが、それ以外の業者からも勧誘の電話が来るようになった。
【事例 9】
税務署の職員を名乗り、留守番の子どもに電話で「子どもの安全を守る会の関係で聞いている」「お母さんと前に話してきょう教えてもらうことになっていた」などと言って、児童・生徒の名前、電話番号を聞き出そうとする。
また、大分市内では2013年(平成25年)7月下旬以降、小中学生のいる家庭に、報道機関の職員を名乗る人物による不審電話が相次いでいます。子どもをターゲットに、「新番組に関するアンケートに答えてほしい」「答えてくれたら景品を渡す」などと言い、最終的には友人の電話番号を聞き出そうとするものです。
福岡県教育委員会は、「大人より警戒心の少ない子ども狙った電話。友人の電話番号を聞き出すことはありえない。十分に注意してほしい」と呼びかけています。

子どもが一人の時が危ない

業者は、子どもが一人の時をねらって近寄ってきます。
たとえば留守番中の電話や、登下校中や公園でのアンケート調査や勧誘です。また、Webサイトでのアンケートや懸賞応募にも注意が必要です。
業者は、「お試し無料」「登録は無料」「当選しました」などの甘い言葉を巧みに操り、個人情報を収集してきます。

子どもが加害者になる

子どもは被害者になる一方ではありません。加害者になる可能性があることも認識しなければなりません。

経済産業省が2007年(平成19年)2月に発表した「不正アクセス行為の発生状況及びアクセス制御機能に関する技術の研究開発の状況について」によると、2006年(平成18年)に不正アクセス禁止法違反で検挙された被疑者130人のうち、10歳代が40人(30.8%)にもなる。2000年(平成12年)に比べると6倍以上に増えています。
  2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年
10歳代 6 2 6 16 26 35 40
20歳代 13 28 30 26 21 40 44
30歳代 16 5 26 24 23 27 28
40歳代 2 16 7 9 17 9 15
50歳代 0 0 0 1 1 5 2
60歳代 0 0 0 0 0 0 1
37 51 69 76 88 116 130
不正アクセスに手を染めた動機は、「不正に金を得る」と「オンラインゲームの不正操作」が圧倒的です。いずれも、ネットオークションとオンラインゲームを悪用するものです。

同じ頃にネットスターが行った調査によると、「8割の子どもが保護者の目の届かないところでネットを利用」しているという結果が出ています。
また、2008年(平成20年)2月21日にシマンテックが発表した「ノートン・オンライン生活レポート」によると、「子どもがネットで何をしているか親子で話し合う」というユーザーは、世界8カ国(米国、イギリス、オーストラリア、ドイツ、フランス、ブラジル、中国、日本) 中で日本が最低(22%)でした。
子供のネット利用について、放任している親が多いようです。

また、警察庁のまとめによると、出会い系サイトに「18歳未満」と示して性行為を誘う「書き込み」をしたなどとして、少年少女が2007年(平成19年)に摘発された件数は61件で、前年の3倍以上に増えたことが分かりました。出会い系サイト規制法(インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律)違反(不正誘引)による摘発総数の半分を占め、子どもから誘いかけるケースが少なくない実態が浮かび上がったのです。被害者の97%が携帯電話からサイトに接続していたことも分かっています。
しかし、こうなってくると、子供は被害者なのか加害者なのか判然としません。

果たして彼ら/彼女らは、ネットでやって良いこと/悪いことの違いをきちんと認識できているでしょうか?

子どもを守るために

アメリカでは1998年(平成10年)に「子どものオンライン・プライバシー保護法」(Children's Online Privacy Act: COPPA)が成立し、2000年(平成12年)から施行されています。
COPPAの場合――
  • 13歳未満の子ども
  • 子ども向けのあらゆるウェブサイトの管理者およびオンラインサービスの提供者
  • 子どもとその家族に関する個人情報
――という点に対象範囲を具体的に限定したうえで法的規制を定めています。子どもの個人情報を収集する場合は、例外なく親の同意が必要であることを義務づけています。

一方、日本の個人情報保護法においては、子どもも大人と同様に扱われます。利用目的を明示して同意を得られるならば、子どもから個人情報を収集することは合法です。

したがって、私たちは子どもに対して、大人と同等のプライバシー保護の知識を与え、啓蒙する必要があります。
小学校低学年でしたら、携帯電話の着信制限を設けたり、インターネットのフィルタリングソフトを導入することも必要かもしれません。しかし、過度なアクセス制限やアクセス監視は、子どものプライバシーを侵害することになりかねません。そうなると、子どもは、親の目を盗んでネットにアクセスするようになるでしょう。その時、子どもは、知らないうちに加害者になっているかもしれません。

子どもに権利の何たるかを教え、自分自身を守れるようになると同時に、他人の権利を侵害しないように指導することが必要です。
残念ながら、こうした教育を、学校や塾に期待することは難しいでしょう。学校や塾は、まだ、こうした問題に対する準備ができていません。
このシリーズで紹介している情報を子どもに伝え、家族で集まって議論してください。できるだけ身近で具体的な場面を想定して、子どもと話し合いましょう。

子どもから社会人を対象とした「プライバシー保護検定」

特定非営利活動法人日本プライバシーコンサルタント協会は、2010年(平成22年)夏、児童・生徒・学生および社会人などを対象としたプライバシー保護のための検定試験「プライバシー保護検定試験」(略称:プラ検)を始めました。
インターネット(携帯も含む)時代における消費者の安心・安全を確保することを目的としています。
検定は、選択肢から選んで回答する形式で100分100問です。正答率によって初級(40%以上)、中級(65%以上)、上級(85%以上)と3段階を認定し、級に応じて「安全の証し」のマークを発行するということです。

スマホに潜む子どもの危険を疑似体験

2013年(平成25年)8月21日、情報セキュリティ企業のデジタルアーツは、未成年者がスマートフォンを安全に正しく利用できるよう、情報モラルを身につけてもらうことを目的とした教育用無料アプリ「スマホにひそむ危険 疑似体験アプリ」(iOS版・アンドロイド版)を提供開始した。保護者や教職員の方は試してみてはいかがだろうか。

このアプリは、スマートフォン利用時に未成年者が直面している危険を利用者自身で疑似体験できるというもの。現在問題となっている未成年者の利用上トラブルから、「出会い系被害」「個人情報漏えい」「高額請求」「ネットいじめ」の4つのテーマがそれぞれストーリー仕立てになっている。
疑似体験を通じて保護者や教職員が被害の起こる仕組みやその結果をより現実的に理解し、スマートフォン上で起こるトラブルを未成年者自身に回避させるだけの知識を身につけてもらうことが狙いだ。

対応機種は、iOS 5.0以降、Android 2.2以降。
アプリ紹介サイトはこちら

参考サイト

参考書籍

表紙 学校の個人情報保護・情報公開
著者 兼子仁/蛭田政弘
出版社 ぎょうせい
サイズ 単行本
発売日 2007年08月
価格 3,457円(税込)
ISBN 9784324081198
 
表紙 元刑事が教える子どもの安全新常識!
著者 中島正純
出版社 ベストセラ-ズ
サイズ 単行本
発売日 2006年10月05日頃
価格 1,320円(税込)
ISBN 9784584189573
元警察官が語る、事件の真相!家、マンション、学校、公園…犯罪は、身近にひそんでいます。
 
表紙 親子で学ぶインターネットの安全ルール
著者 いけだとしお/おかもとなちこ
出版社 ジャムハウス
サイズ 単行本
発売日 2006年07月
価格 1,650円(税込)
ISBN 9784434082184
インターネット&ケータイにはキケンな落とし穴がいっぱい!ウソつきメールにだまされない!出会い系サイトに近づかない!本名や電話番号は書き込まない!お父さん・お母さんも一緒に知りたい30の安全ルールを掲載。
 
(この項おわり)
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