Winnyユーザーは激増しているのか?

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Winny
2007年(平成19年)下期、ACCS(コンピュータソフトウェア著作権協会)などは「Winny利用者が3倍に増えた」と警鐘を鳴らす一方で、実測されたWinnyノード数は17%減少しているといいます。
この乖離はなぜ起きたのでしょうか。

2つの調査結果の違い

(社)コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)、(社)日本レコード協会(RIAJ)、日本国際映画著作権協会(JIMCA)が2007年(平成19年)9月に実施した調査によると、
「現在利用者」がインターネット利用者の9.6%との結果となり(2006年6月の調査では3.5%)、ファイル交換ソフト利用者の急増が明らかになりました
とのことです。

一方、Winnyのノード数を追跡しているネットエージェントの調査によると、2006年(平成18年)と2007年のクリスマス前後を比較し、
昨年度の数値と比較すると、平均で約6万ノード前後の減少となっています。
としています。全体で約35万ノードですから、17%の減少ということになります。

なぜこれほどの違いが発生してしまったのでしょうか。

調査方法が変わった?

ACCSの2007年(平成19年)版「ファイル交換ソフトの利用に関する調査 アンケート調査報告書」を読むと、
本調査は、(株)メディアインタラクティブが運営するアンケートシステム「アイリサーチ」のモニターを活用して行うWEBアンケート方式で実施した。
と記され、母数が20,301人であると明記されています。ところが、その後を読んでも、ファイル交換ソフト利用者の特性(性別、年代、職業)は出てくるものの、母集団の特性は記されていません。
次に、同じくACCSが公表している「2006年(平成18年)ファイル交換ソフト利用実態調査結果の概要」を読むと、
インターネットユーザーを対象として、ファイル交換ソフトの利用実態に関して、インタ ーネット上のWEB アンケートサイトを利用してアンケート調査を実施した。
と記され、母数が18,596人であることと、母集団の特性も明記されています。

つまり、ACCSなどによるファイル交換ソフトの利用調査については、2006年(平成18年)と2007年で調査方法が変わった可能性があります。
もし2007年度に使用したアイリサーチがhttps://www.i-research.jp/と同じサイトだとすると、2008年(平成20年)1月現在、93,230人登録されているモニターのうち12.1%がファイル交換ソフトを使用していることがわかっています。
つまり、2006年(平成18年)と2007年で母集団のファイル交換ソフト利用に関する属性が変化している可能性が高く、さらに2007年(平成19年)にはあらかじめファイル交換ソフト利用者の割合が判明している母集団に対する調査を行っているわけで、統計調査としての信頼性が著しく低いものといわざるを得ません。

一方、Winnyノード数の方ですが、産業技術総合研究所でセキュリティを専門に研究している高木浩光先生のブログでも、「Winnyの新参利用者は急増しているのか?」と題する記事があがっています。
高木先生は、2006年(平成18年)末と2007年末に同じ方法によりWinnyノード数を計測し、ネットエージェントの調査と同様、ノード数が減少していることを示しています。

乖離の原因は?

まず乖離の原因と考えられるのは、ACCSなどによるファイル交換ソフトの利用調査がWinnyを含むファイル交換ソフト全般に対する利用動態調査であるのに対し、ノード数計測はWinnyノードに限定的である点です。2006年(平成18年)から2007年にかけて、Winny以外のファイル交換ソフトが普及したならば、こうした解離が発生する可能性があります。
ところが、ACCSなどの調査の方は、主に利用するファイル交換ソフトとしてのWinnyの割合は、2006年(平成18年)が33.3%、2007年(平成19年)は27.0%です。ノード数との乖離を埋めるほどの変化ではありません。

次に考えられるのは、Winnyの利用時間が激減した、または、新旧のWinnyユーザーの交替が激しいという可能性です。これについては、2006年(平成18年)の調査結果がない(※2007年(平成19年)は調査項目そのものが異なるようです)ので、何とも言えません。

暫定的な結論

結局、乖離の原因は明らかにはなりませんでした。ACCSと同様の条件で、他の調査会社を使った複数のアンケート調査結果を検討しないと確かなことは言えないでしょう。いま言えることは、最近1年間でWinnyを含むファイル交換ソフト利用者が増えたかどうかは分からないということでしかありません。

ましてや、ACCSがホームページ上で示している「これに伴い、著作権侵害行為(著作物の無許諾での送信行為)も激増していることが推定されます」というのは、きわめて根拠に乏しい推測としか言いようがありません。
さらに、毎日新聞は2007年(平成19年)1月5日の記事として「ウィニー:利用者急増、1年で3倍」という見出しを掲げていますが、これは事実を歪めています。ACCSの報告では、ファイル交換ソフト利用者が3.5%から9.6%に増加したのであって、Winnyユーザー数の増加には言及していません。

ご存じのように、測定条件が異なる実験データを比較するという行為は科学的に意味を持ちません。逆に、あらかじめ意図を持った主張をするために、異なる測定条件のデータを持ち出したのだと勘ぐられてる恐れがあります。実験系科学者はそれを恐れ、実験条件/測定条件を一定することに細心の注意を払います。
著作権協会やレコード協会が統計データを使った世論操作をしているとは思いたくはありませんが、近年の著作権ビジネスに対する不可思議な動きを見ていると、たいへん不安を感じます。

その後の状況

ネットエージェントは、2009年(平成21年)1月7日、年末年始(2008年12月27日~2009年(平成21年)1月4日)におけるファイル交換ソフト「Winny」「Share」「LimeWire/Cabos」のノード数について、独自の検知システムによる調査結果を公表しました。
Winny のノード数は平均約24万ノードで、最も多かったのは1月3日の26万8891ノードでした。前年同時期には平均約31万ノードが観測されており、ノード数は2割程度減少していることが分かります。
一方、Share のノード数は平均約17万ノードで、前年同時期(平均約16万ノード)と比較すると約1割増加しています。

参考サイト

(この項おわり)
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