午後12時10分? 午後0時10分?

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正午10分過ぎは、
  • 午前12時10分
  • 午後12時10分
  • 午前0時10分
  • 午後0時10分
のいずれであるか――結論を書くと、正答はない。ただ、子どもが算数で「時こくと時間」を学んでいるところであったので、気になって調べてみた。

ひとつの結論

正答はないケースでは、プログラマとしての対応策は決まっている。
原則として、コンピュータ・プログラムは24時制にする。

理由は、これから述べていくように、午前/午後の切り換え点に国民の合意がないためだ。
もしどうしても12時制表記をしなければならない場合は、要件定義または基本設計書に午前/午後の切り換え点を明記し、お客さんの合意を得る。これが1つの結論である。

太政官布告337号

なぜ正答がないのか調べていくと、1872年(明治5年)に出た太政官布告337号に行き当たる。
その抜粋を下記に示す。明治五年太政官布告三百三十七号(改歴ノ布告)
明治5年11月9日
太政官布告第337号今般改歴ノ儀別紙 詔書ノ通被 仰出候条此旨相達候事 (別 紙)朕惟フニ我邦通行ノ暦タル太陰ノ朔望ヲ以テ月ヲ立テ太陽ノ躔度ニ合ス故ニ二三年間必ス閏月ヲ置カサルヲ得ス置閏ノ前後時ニ季侯ノ早晩アリ終ニ推歩ノ差ヲ生スルニ至ル殊ニ中下段ニ掲ル所ノ如キハ率子妄誕無稽ニ属シ人知ノ開達ヲ妨ルモノ少シトセス蓋シ太陽暦は太陽の躔度ニ従テ月ヲ立ツ日子多少ノ異アルト雖モ季侯早晩ノ変ナク四歳毎ニ一日ノ閏ヲ置キ七千年ノ後僅ニ一日ノ差ヲ生スルニ過キス之ヲ太陰暦ニ比スルハ最モ精密ニシテ其便不便モ固リ論ヲ俟タサルナリ依テ自今旧暦ヲ廃シ太陽暦ヲ用ヒ天下永世之ヲ遵行セシメン百官有司其レ斯旨ヲ体セヨ 明治五年壬申十一月九日一、今般太陰暦ヲ廃シ太陽暦御頒行相成候ニ付来ル十二月三日ヲ以テ明治六年一月一日ト被定候事
但新暦鏤板出来次第頒布候事
一、一ケ年三百六十五日十二ケ月ニ分チ四年毎ニ一日ノ閏ヲ置候事
一、時刻ノ儀是迄昼夜長短ニ随ヒ十二時ニ相分チ候処今後改テ時辰儀時刻昼夜平分二十四時ニ定メ子刻ヨリ午刻迄ヲ十二時ニ分チ午前幾時ト称シ午刻ヨリ子刻迄ヲ十二時ニ分チ午後幾時ト称候事
一、時鐘ノ儀来ル一月一日ヨリ右時刻ニ可改事
但是迄時辰義時刻ヲ何字ト唱来候処以後何時ト可称事
一、諸祭典等旧暦月日ヲ新暦月日ニ相当シ施行可致事
―(中略)―
時刻表
午前 零時 即午後 子刻 十二時 一時  子半刻 二時   丑刻 三時   丑半刻
四時   寅刻 五時  寅半刻 六時   卯刻 七時   卯半刻
八時   辰刻 九時  辰半刻 十時   巳刻 十一時  巳半刻
十二時 午刻      
午後 一時  午半刻 二時  未刻 三時   未半刻 四時   申刻
五時  申半刻 六時   酉刻 七時   酉半刻 八時   戊刻
九時  戊半刻 十時  亥刻 十一時  亥半刻 十二時 子刻
これ以降今日に至るまで、午前/午後の定義を行った法文はないという。

原則論から考えると、この表記に従うべきである。法律に忠実な保険業界では「午前12時」と表記しているそうだ。この布告は、正午(午前12時)と午半刻(午後1時)の間の表記方法に触れていない。一方で、子刻は「午後12時」または「午前0時」のいずれも表記可能とある。

ところが、前文では「昼夜平分二十四時ニ定メ子刻ヨリ午刻迄ヲ十二時ニ分チ午前幾時ト称シ午刻ヨリ子刻迄ヲ十二時ニ分チ午後幾時ト称候事」とあるので、「子刻ヨリ午刻迄ヲ十二時ニ分」けるなら、午後12時0分と午前12時と表記することはおかしい。子刻は午前0時0分で、午刻1分前が午前11時59分、午刻は午後0時0分としなければ、12分割したことにならないからだ。
このように、前文と時刻表の間に矛盾があるため、日本標準時の総本山である日本標準時プロジェクト(独立行政法人情報通信研究機構)は、1989年(昭和64年)に、
この法律はもともと改歴が目的で、午前・午後の定義については十分な審議がなされなかったものと思われる。
と指摘している。

学校教育と行政機関

前述の日本標準時プロジェクトは、最後に
小学校の教科書のように午前、午後とも「00時00分00秒」に始まり、「12時00分00秒」に終る。
つまり、
午前12時00分00秒 = 午後00時00分00秒
午後12時00分00秒 = 午前00時00分00秒
との考え方で統一するのが良いのではなかろうか。
と締めくくっている。

国立天文台も同じ考えで、
「午前12時何分」という言い方はせずに、誤解を避けるためには「午後0時」という言い方をしたほうが誤解は少なそうです。
アドバイスしている

しかし、私たち夫婦は小学校時代にそう教わった記憶がないし、子どもも私たちと同じ表記方法を教わっている。つまり、正午10分過ぎは「午後12時10分」と教わっているのだ。
30数年の時を経て、3人のまったく関係ない教師が同じ間違いを犯すことは考えにくい。おそらく、日本標準時プロジェクトが言うところの「小学校の教科書のように」というのは勘違いであろう。念のため文部科学省のサイトを当たったのだが、時刻表記に関する明確な通知は出ていなかった。

また、小学校教育で必ず登場する文字盤式のアナログ時計には「0時」が存在しない。短針の位置を考えると「午後12時10分」と表記する方が素直である。(ただし、子どもの教科書には「昼の0時」という表現がある。)
また、前述の国立天文台のページでは、
例えば「午前12時30分」という言い方をしたときに、これを昼のことと考えるか、夜中のことと考えるか、人によって見方が違ってしまう可能性がありますので、「午前12時何分」という言い方はせずに、誤解を避けるためには「午後0時」という言い方をしたほうが誤解は少なそうです。
と書かれているが、私たちの感覚からすると、これもおかしい。
正午30分過ぎを「午後12時30分」と書くか「午後0時30分」と書くかは議論になるが、「午前12時30分」は論外である。ここまで調べてみて、時刻の専門家であるはずの日本標準時や国立天文台のアドバイスに疑問を感じてしまった。

アンケート調査

そこで、この問題について、はてなの助けを借り、ネット上で100人にアンケート調査を行ってみた。結果は下図の通り。詳細はこちら
グラフ
午前12時10分 2
午後12時10分 81
午前0時10分 1
午後0時10分 16
日本標準時や国立天文台の指摘やアドバイスとは裏腹に、国民は「午後12時10分」を支持していることが明らかになった。
ただし、「午後0時10分」について、関東地方では8.9%(56件5件)だが、近畿地方では33.3%(15件中5件)だった。また、50代は50%(6件中3件)が「午後0時10分」と回答した。50代はサンプル数が6と少ないので何とも言えないが、関東と関西の地域差はあるのかもしれない。どなたかフィールド調査する機会があったら、ぜひ公表してほしい。

結論とお願い

このように、12時制表記には誤解を生む素地がある。
そこで、最初にも述べたように、プログラマとしては次の2点を守るしかない。
  1. 原則として、コンピュータ・プログラムは24時制にする。
  2. もしどうしても12時制表記をしなければならない場合は、要件定義または基本設計書に午前/午後の切り換え点を明記し、お客さんの合意を得る。
また、行政や法曹界の方々にお願いだが、可及的速やかに24時制を公認してほしい。教育界でも24時制を併用できるようにしてほしい。具体的には、正午10分過ぎに午前/午後の区別を付けずないで24時制で「12:10」と表記しても正答としてほしい。また、併用できるようになるまでは、曖昧な問題を出題しないでほしい。
(この項おわり)
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