
2025年(令和7年)6月9日に、国立研究開発法人量子科学技術研究開発QST)などの研究チームは、、中高齢で重い鬱病や双極性障害といった気分障害を発症した脳をポジトロン断層撮影(PET)を用いて撮影したところ、半数の人に、認知症の原因となる異常なたんぱく質「タウタンパク質」の蓄積が見られたという研究成果を『Alzheimer's & Dementia: The Journal of the Alzheimer's Association』のオンライン版に掲載しました。

認知症の多くは、タウやアミロイドβなどの異常タンパク質が脳に蓄積し神経細胞死が起こることで進行すると考えられていますが、これらの異常タンパク質が中高齢において気分障害の発症にどう関わるかは、これまで十分に解明されていませんでした。加えて、従来の研究は主にうつ病に焦点を当てており、双極性障害に関する検討はほとんど行われていませんでした。
そこで、QSTは、40歳以降で発症した鬱病および双極性障害の方を対象にPET検査を実施したところ、同年代の健常者と比較して、中高齢発症の気分障害の患者は、タウ病変を有している確率が約4.8倍高いことが明らかになりました。さらに、国立精神・神経医療研究センターのブレインバンクのデータを用いた検討により、40歳以降にうつ状態または躁状態を初発した患者ではタウ病変を持つ割合が高いことが確認されました。また、うつ状態や躁状態が認知機能障害の発症に平均して約7年先行していることが明らかとなりました。

この研究成果により、アミロイドβやタウの病変の可視化による、客観的な早期診断を行い治療介入するという、新しい中高齢発症の気分障害の診断・治療戦略の開発が期待されます。
参考サイト
- 中高齢発症の気分障害に認知症の原因タンパク質が関わることを脳画像で実証‐QSTの独自技術でタウタンパク質病変を可視化し、客観的診断・治療へ‐:QST, 2025年6月9日
- Diverse tau pathologies in late-life mood disorders revealed by PET and autopsy assays:Alzheimer's & Dementia: The Journal of the Alzheimer's Association, 2025年6月9日
(この項おわり)