現在は異常な高濃度

藤井理行

発言者

  藤井理行 (ふじい・よしゆき) 藤井理行
  国立極地研究所・所長(南極の昭和基地を運用する)
   
  2007年1月28日

場面

日本経済新聞の記事の中で、現在の昭和基地付近の大気中の二酸化炭素濃度が380PPMあることについて、「過去34万年間にこれほど高くなったことはなく、現在は異常な高濃度」と語っている。

昭和基地から南極点の方向へ約1,000キロメートルのところにある「ドームふじ基地」で、1995年(平成7年)から南極大陸を厚く覆う氷床を掘削がはじまった。今年、深さ3035メートルに到達した。氷は当時の雪の水分子でできているほか、大気が微細な気泡として閉じ込められており、木の年輪のような「気候のタイムカプセル」と呼ばれる。到達したのは72万年前につもった雪であることも分かった。
気泡の成分である二酸化炭素濃度を分析すると、約34万年間にわたり200〜300PPM(1PPMは100万分の1)の範囲で変動を繰り返し、間氷期のときほど高いことがわかった。現在の380PPMというのは、過去にない高い値である。

コメント

事実をありのままに述べた言葉であり、非常に重みがある。ただし、「高濃度の原因を産業革命以降の人間の活動が二酸化炭素濃度を自然の変動以上に押し上げた結果」とするのは、記者の推論であろう。

二酸化炭素の循環メカニズムは完全に解明されているわけではない。人間が出すことで二酸化炭素が増えるのだとしたら、有史以前に200〜300PPMという大幅な変動をするわけがない。
また、今回の測定結果は、過去の二酸化炭素が増減せずに気泡に閉じこめられているという前提条件が成立していることが必要であり、また、この測定方法が絶対的に正しいという保証はない。

科学は絶対的に正しいことを主張する学問ではないわけで、宗教とは違うものだということを常に頭に入れておきたい。
(この項おわり)
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