若さや正義感だけでは通用しない

野口健

発言者

  野口健 (のぐち・けん) 野口健
  アルピニスト
   
  2007年9月8日

場面

自己責任をまっとうするということは、徹底した「危機管理」をするということだ。 それでも不測の事態が起きた場合には「説明責任」が必要だろう。「自分でやっているんだからいいだろう」という態度をする人がいるがそれはダメだ。社会問題となっている以上、自分だけの問題ではないし、解決にも結局人様の協力を頼ることが多いのだから。 イラクで人質になった彼らやアフガニスタンに慈善事業で出かけて行った彼らの志はよく理解できる。しかし、実行する前にやるべきことがたくさんあったのではないか。危険地帯での行動は、若さや正義感だけで通用するものではない
「野口健のガイア礼賛」(日本経済新聞・夕刊)より、アフガニスタンで起こった韓国人の集団拉致事件に対するコメント記事。

コメント

韓国人人質事件に対し、クールなコメントを初めて目にした。エベレストをはじめ、危険な冒険を行ってきた野口さんだから言える言葉だろう。彼自身の若き日の過ちを振り返っての言葉とも思える。レジャーの中で、勉強の中で、仕事の中で、そして人生の流れの中で、われわれは時々刻々とリスクをとって処理している。ジェットコースターが事故を起こすこともリスクだし、海でおぼれて死ぬリスクもある。家から一歩外へ出れば、交通事故に遭うかもしれない。リスクを減らすために家に籠もっていたとしても、火事や地震で死ぬかもしれない。
つまり、生きている限りはリスクを避けることはできない――ならば、コントロールできるリスクとそうでないものを分別すべきだ。コントロールできるものは徹底的にコントロールし、コントロールできないものについてはコントロールするための方策を練るか、リスク回避すべきだろう。
これらが「危機管理」の基本である。

だが、人生に「想定外」は付き物である。コントロールしたつもりのリスクが、想定外の危機となって襲いかかってくることもある。その場合は、他人の力を借りるしかない。大勢の知恵と力を持ってすれば、一人ではコントロールできないリスクをコントロールできるようになる。

ただし、他人とリスク共有するということは、その他人にとってもリスクをとるメリットがなければならない。リスク対策において他人の力を借りられるかどうかは、大人が持つべき最低限の資質である。

発言者による著作物

表紙 落ちこぼれてエベレスト
著者 野口健
出版社 集英社
サイズ 文庫
発売日 2003年01月22日頃
価格 682円(税込)
ISBN 9784087475364
「いい大学に行って、一流会社に入るだけが人生じゃない!」落ちこぼれだった著者は、植村直己の著書と出会い、人生の目標を見つける。波乱の少年時代から、7大陸最高峰世界最年少登頂記録を樹立した1999年5月のエベレスト登頂までを綴った、若きアルピニストの軌跡。夢を持ち、挑戦することの素晴らしさを伝える熱き自伝。
 
表紙 世界遺産にされて富士山は泣いている
著者 野口健
出版社 PHP研究所
サイズ 新書
発売日 2014年06月17日頃
価格 836円(税込)
ISBN 9784569820040
阿川佐和子さん推薦! 「名誉欲はないけれど好奇心が人一倍。善人にみえるが案外のB面好き。そんな野口健だから、その言葉には真実がある」▼▼美しい「日本の象徴」でいま起こっていることは、日本社会が抱える問題そのものだ!▼2013年6月、富士山は世界文化遺産に登録され、日本中が沸き立った。しかしその清掃登山に尽力し、「富士山が世界遺産になったらいいね」といいつづけてきた野口氏は第一報を聞いたとき、悔みに悔みきれなかったという。▼「清掃登山に全力を注ぐなかで、環境問題を超える富士山のほんとうの問題に気づいてしまった」。そう野口氏は語る。そこで彼がみたのは「日本の象徴」の背後で既得権にしがみつき、縄張り争いに奔走する「人間」の姿だった。▼そうしたなかでひたすら「世界遺産登録」だけを目的に準備が進められてきたことを、綿密な取材を重ねながら本書は描き出していく。そして、じつは今回の世界遺産登録にはユネスコからの「条件」がついていることを、どれだけの日本人が知っているだろうか。▼その「条件」をクリアできなかった場合、富士山は「危機遺産」入りもしくは世界遺産登録取り消しすらあり得るのだ! ならば、もつれた人間関係の糸をどう解きほぐし、日本の宝を「守る」ためにいま何をすべきなのか。▼そこで野口氏は「富士登山鉄道」など目から鱗のビジョンを次々に打ち出していく。そもそも江戸時代の富士山登山は「弾丸登山」どころか「スローな旅」だった。そうした「ほんとうの観光」のあり方をも描きながら、日本を代表するアルピニストが著した衝撃の一作。▼▼内容例:「それは義務か?」と開き直って怒る中国人/登山客の激増で環境汚染はさらに進む/山梨と静岡で山開きの日が違う!/八合目から上は浅間大社の私有地/山小屋にも渦巻く巨大な利権/「自然遺産」がダメなら「文化遺産」だ!/鎌倉は富士山の「ダミー」になったのか?/めざすべきゴールの違いーー毎日新聞との訣別/小笠原諸島の主役は「カタツムリ」/あと10万人の登山者を減らすために/なぜ登山鉄道がとっておきの秘策なのか/スイスのツェルマットに学ぶべきこと/高まりつづける「日本を知ろう」という気運/外国人の評価にあまり追随しないこと/いま僕たちがもつべきは大きな歴史観
 
(この項おわり)
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