日本の小売業は方針がない

柳井 正

発言者

  柳井 正 (やない・ただし) 柳井 正
  ファーストリテイリング会長兼社長
   
  2008/10/16

場面



日本の小売り業の最大の弱点は、方針がないことだ。「自分たちの会社はどのような商品をお客様に提供するのか」「お客様に評価される商品とはどういうものなのか」、明確に定義しないといけない。
週刊ダイヤモンド(2008年10月16日号)の特集記事から

コメント

柳井氏は、1971年(昭和46年)、父親の経営する小郡商事に入社。1984年(昭和59年)に社長に就任。「ユニクロ」という店名でカジュアルウェア小売業に進出した。
このとき、試行錯誤しつつ店員を責め立てた結果、1人を残して7人いた店員がみんな辞めてしまったという。この失敗が、柳井氏をして、すべて自分でやらなければならない状況に追い込んだ――ここから、柳井氏の現場主義・お客様本意主義が始まる。

太平洋戦争での旧日本軍の失敗を研究した「失敗の本質」(戸部良一/中央公論新社/1991年(平成3年)08月)は、「大本営のエリートも、現場に出る努力をしなかった」(91ページ)ことが失敗の原因の1つとして挙がっている。
そして、「日本軍は結果よりもプロセスを評価した」(236ページ)――つまり、「個々の戦闘においても、戦闘結果よりはリーダーの意図とか、やる気が評価された」と指摘する。
これは、柳井氏の言葉と通じるものがあると思う。

会社で成果主義が導入され、社員の成果を数値化しようという努力がなされている。学生の試験の点数も同じである。
ところが、いざ評価となると、「結果よりもプロセスを評価」しようとするのである。これは明らかに矛盾している。成果主義にするなら結果のみに着目すれば良く、プロセスも評価したいなら成果主義は修正すべきである。
にもかかわらず、評価基準が曖昧なまま社会は流れていく――日本が先進国に追いつこうと国民が一丸となって走っている時代なら、臨機応変の対応を取ることができ、良い方向に作用したであろう。しかし、先進国の仲間入りをし、自らが方針を決めなければならなくなった時、このような曖昧な状態では国民が混乱する。
(この項おわり)
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