よりよいものを求めるのは敵

若田光一

発言者

  若田光一 (わかた・こういち) 若田光一
  JAXA・宇宙飛行士
   
  2009年2月2日

場面

ミッション遂行に必要なシステムを無駄なく開発する際の考え方の基本は、"Goog enough is good enough to be better is an enemy."(必要十分なレベルを見極めるのが肝心であり、単によりよいものを求めるのは敵である)。つまり安全確実な作業ができるか否かの明確な判断が求められる。使いやすいかどうかではない。 ―(中略)― 使いやすさを求めると開発コストとスケジュールは大きく増大してしまう可能性がある。スペースシャトル飛行再開のために割り当てられた新規システムの開発予算の枠を越えずに、ミッション遂行要求を最小限満足するシステムを可能な限り早く仕上げることが、我々開発チームに与えられた命題だった。
国際宇宙ステーションとはなにか」(若田光一/講談社/2009年02月) 227ページ

コメント

3度目の宇宙飛行で4ヶ月あまりの宇宙長期滞在を果たしたJAXAの宇宙飛行士・若田光一は、元々は日本航空の整備マンである。本書には、技術者らしい視点がよく出ている。
  • 「私は『宇宙飛行士はこわがりのほうがよい』と感じている」(117ページ)
  • 宇宙飛行にとって最も重要な資質とは「運用のセンス」(119ページ)
  • 「常にシステムの『全体像』を把握しながら仕事をしていくことが肝心」(121ページ)、
  • 「精神的なストレスや仕事の負荷が高くなってくると、注意の対象が一極化しやすくなり」(122ページ)
  • 「人間はケアレス・ミスをするもの」(129ページ)
  • 「教官に求められることは、『やってみせる』こと」(183ページ)
  • 「一人ひとりの能力が高くても、チームで能力を発揮できるとは限らない」(188ページ)
  • 「『よりよいもの』を求めるのは敵である」(227ページ)
  • 「交渉時、決着させたいことの優先度の明確化は不可欠だ」(253ページ)
  • 「一瞬一瞬の判断を大切に生きること」(256ページ)
技術系ビジネスマンとしては、心に銘じておきたい言葉ばかりだ。

そこで、ふと思った――技術者と経営者は相容れないものではないだろうか
技術者は「よりよいもの」を作ろうとするが、経営者はコスト(予算+スケジュール)を重要視する。一人で両方やろうとしたら、矛盾が発生する。
どちらが優れているというわけではない。ビジネスの場では両方の判断が必要なのである。
だから、技術者と経営者が、互いの立場でとことんまで議論する場は必要だと思う。

(この項おわり)
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