人がやっていたら、やらない

大村智

発言者

  大村智 (おおむら・さとし) 大村智
  化学者
   
  2015年10月8日

場面

ノーベル医学生理学賞の受賞が決まり、朝日新聞のインタビューに応じて――。

Q ノーベル賞委員会から、土から物質を探し出すスクリーニングの過程を、「独特な方法、卓越した技術」と評価されました。一番のポイントは。
A なるべく他の人たちがやってない方法、「人がやっていたら、やらない」というやり方を工夫するんです。
土壌から微生物を分離するところが、うちのスタッフは優秀なんですよ。そういう風に、みんなで力をつけてやってきた。培養をするときも、普通の培養じゃだめ。いろんな培地を変えてやるとか、時には温度を変えてやるとか、そういう工夫を混ぜ合わせながら。
凝り固まった人ばっかり集まっていると、工夫ができなくなる。柔軟に物事を考えて仕事を進めていく。こういうやり方が、うちの部屋にできて、みんなができないことなんですね。

朝日新聞,2015年10月8日

コメント

大村智さんは、山梨の農家の長男として生まれ、夜間高校の先生になった。学業に熱心に励む高校生に心打たれ、一念発起して研究者への道を歩む。そして、アフリカで年間数千万人が感染し、重症化すると失明に至る感染症「オンコセルカ症」の特効薬「イベルメクチン」の発見と開発の業績で、2015年(平成27年)のノーベル医学生理学賞を受賞した。

受賞の一報を受けての北里大学での記者会見では、安倍晋三首相の電話を待たせ、「今、総理大臣から電話があるそうですけども、(この電話口で)ちょっと待たされております。タイム・イズ・マネー。(会見を)続けましょう」と言い放った。たとえ相手が誰であっても、自ら決めた優先順位を曲げないのが大村流である。
その背景には、「国立の研究者たちはお上の保護の下、国民の税金で研究しているけれど、僕は自分自身の研究でお金を稼いで研究費に充てている」という自負がある。実際、イベルメクチンでメルク社から得た特許料200億円以上を使い、北里研究所の建て直しを行った。

大村さんは、イベルメクチンだけでなく、これまで26もの医薬品の商品化に成功している。毎年、山梨県の高額納税者の上位に名前が挙がる。単なる研究者ではなく、一流の経営者なのだ。

そして、高級ホテルやレストランでは食事をしないという。山梨に帰ると、好きな焼酎を抱え、行きつけのそば屋へ行くという。
故郷と絵画とホント教え子を愛する大村先生には、東京大学への対抗心がある。いつも「自分は山梨大学卒です」と公言している。肩書なんて必要ない、という矜持を崩さないと同時に、読書や他の分野との交流を通じた深い教養を身につけている。

大村先生に、21世紀の「学者」のあるべき姿を見た気がする。

発言者による著作物

表紙 人生に美を添えて
著者 大村智
出版社 生活の友社(中央区)
サイズ 単行本
発売日 2015年07月
価格 2,160円(税込)
rakuten
ISBN 9784915919954
「美」は心の栄養ー世界的科学者による美術品、画家たちとの滋味溢れる交友録。
 
(この項おわり)
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