研究不正に向き合わなかったことの報い

榎木英介

発言者

  榎木英介 (えのき・えいすけ) 榎木英介
  病理専門医、細胞診専門医。自称科学・技術政策ウォッチャー。
   
  2016年1月28日

場面

STAP細胞事件の当事者である小保方晴子さんの手記『あの日』を読んで、榎木英介さんは次のように書いている。

この本から得られるものは、初動の重要さだ。

結局、理化学研究所が早々に論文の問題点を認め、証拠保全をし、研究不正の調査をしていたら、ここまで騒ぎにはならなかっただろう。笹井博士もなくなることはなかったかもしれない。本書の出版を含め、関係者がメディア上で意見を言い合うというのは、もはや科学ではない。

小保方氏が本書で自分に都合のよい主張を述べている点も含め、この本の出版は、科学コミュニティが研究不正に向き合わなかったことの報いなのだ。

コメント

論文不正事件、古今東西、枚挙に暇がない。

NHKで科学番組を制作する村松秀さんは、「現代の科学における成果の発表は、正しい、ということが担保されていない」(『論文捏造』279ページより)と指摘する。また、科学論文の権威であるネイチャーの編集者は、「不正行為を止められるような仕組みなど、私たちには想像すらできません」(134ページ)と語ったという。

一方、山中伸弥先生がノーベル賞受賞の対象となった iPS細胞は、韓国の黄教授によるES細胞の論文捏造事件があったばかりで、当時、たった4個の遺伝子で体細胞が初期化されることに疑いのまなざしが向けられたという。だがiPS細胞の場合、だれもがすぐに追試できた。逆に、研究開発競争に火を付けたという。

結局、われわれ一般市民は、より多くの科学者が追試に成功できたことをもって、その成果は「おそらく正しいだろう」と推測するしかないのかもしれない。

参考書籍

表紙 あの日
著者 小保方晴子
出版社 講談社
サイズ 単行本
発売日 2016年01月29日
価格 1,512円(税込)
rakuten
ISBN 9784062200127
真実を歪めたのは誰だ?STAP騒動の真相、生命科学界の内幕、業火に焼かれる人間の内面を綴った衝撃の手記。。
 
表紙 嘘と絶望の生命科学
著者 榎木英介
出版社 文藝春秋
サイズ 新書
発売日 2014年07月18日
価格 864円(税込)
rakuten
ISBN 9784166609864
iPS細胞の臨床応用にはじまり、難病の治療、食糧危機解決まで、あらゆる夢を託された生命科学。しかし、予算獲得競争は激化、若手研究者の奴隷化が進むなかで、研究不正が続発ー。今や虚構と化した生命科学研究の実態を、医師にして元研究者の著者が厳しく問う。
 
表紙 論文捏造
著者 村松秀
出版社 中央公論新社
サイズ 新書
発売日 2006年09月10日
価格 928円(税込)
rakuten
ISBN 9784121502261
ノーベル賞に最も近いといわれたスター学者の不正を、ベル研究所や科学ジャーナルは、なぜ防げなかったのか?科学界を蝕む病巣とは?国内外のコンクールで受賞のNHK番組を書籍化。
 
表紙 山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた
著者 山中伸弥/緑慎也
出版社 講談社
サイズ 単行本
発売日 2012年10月
価格 1,296円(税込)
rakuten
ISBN 9784062180160
日本で最もノーベル賞に近い男がはじめて明かした、研究人生のすべて。決して、エリートではなかった。「ジャマナカ」と馬鹿にされ、臨床医をあきらめた挫折からはじまった、僕の研究ー。
 
(この項おわり)
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