お利口さんにはたどり着けない

佐川眞人

発言者

  佐川眞人 (さがわ まさと) 佐川眞人
  インターメタリックス株式会社 最高技術顧問
大同特殊鋼株式会社 顧問
   
  2017年10月6日

場面

世界最強の磁石「ネオジム磁石」を、独力で開発した佐川真人氏は、開発当時を振り返り、「ネオジム磁石はお利口さんにはたどり着けない。流行を追いかけることや論理じゃなく、自分の中にあるひらめきや直感、それにチャレンジするということだと思う」と語った。

佐川氏は、高校生までは授業の予習復習を毎日こつこつと欠かすことはなく、成績は学年上位をキープしていた。そして、神戸大工学部電気工学科に進学し、東北大大学院で金属材料の基礎研究の道へ進んだ。大学に残って研究することを希望していたが、いい論文が書けなかったこともあり断念した。
1947年(昭和22年)に富士通に入社し、コンピューター回路に使われていた磁石(当時のコンピュータはトランジスタやICではなく、磁石で動くリレースイッチを使っていた)の研究が仕事となった。

転機は入社5年後の1952年(昭和27年)。コンピューター回路に使うサマリウムコバルト磁石の耐久性を高める研究を指示されたことだった。当時、鉄で最強磁石を作るのは難しいと考えられていたのだが、そこに疑問が生じた――なぜ鉄ではだめなのか。
1953年(昭和28年)に出席したシンポジウムで、鉄とレアアースの組み合わせでは鉄原子同士の距離が近すぎるから磁石ができないという説明を聞いた。それならば、鉄と鉄の間にホウ素のような小さな元素を入れて間隔を広げたらいいんじゃないかというアイデアがひらめいた。
直感を信じて地道に研究を続けたが、会社には開発を却下され、磁石の研究自体も打ち切られてしまった。
1957年(昭和32年)1月、退職を決意。5月までは会社の実験室の使用を認められ、1人で実験を続けた。進退窮まった中で、突然、試作品ができた。その後入社した住友特殊金属でネオジム磁石を完成させる。

佐川氏は、「企業はテーマが明確。私自身も驚くほど、いろんなアイデアが次から次へと浮かんできた。もし、大学に残っていたら、今の自分はないだろうね」と語る。
数々の賞を受賞し、ノーベル賞候補にも名前が挙がるようになった。ただ、本人は冷静だ。
「ネオジム磁石の重要性は確立されていて、これからますます、世界の中心になる材料になるという自信がある。その意味で科学者としては大成功しているわけだから、ノーベル賞があったらもちろんいいけど、なくてももう十分満足している」

コメント

優秀な成績を残して大学に残るだけが研究人生ではない。だが、企業で研究を続けることも地獄である。企業は、短期間に結果を求めるからだ。研究者を辞めて、あらたな職業を探すのもいいかもしれない。
結局、どの道を選ぶかは、その人自身の決断である。お利口さんは、他人の評価に敏感な人が多いが、人生の決断の時は、他人の意見を無視するぐらいの心構えが求められる。

発言者による著作物

表紙 最強エンジニアの仕事術
著者 中村 修二/佐川 眞人
出版社 実務教育出版
サイズ 単行本
発売日 2016年09月20日
価格 1,540円(税込)
rakuten
ISBN 9784788911956
「青色LED」をつくった中村修二と、「ネオジム磁石」をつくった佐川眞人。サラリーマン技術者として出発し、世紀の大発明で世界を驚かせた二人の仕事に共通するものとは?研究者、技術者はもとより、多くのビジネスパーソンの道しるべとなる書。
 
表紙 ネオジム磁石のすべて
著者 佐川眞人
出版社 アグネ技術センター
サイズ 単行本
発売日 2011年04月
価格 3,080円(税込)
rakuten
ISBN 9784901496582
最強の永久磁石としてパソコン、携帯電話、家電製品、電気自動車などに使われているネオジム磁石。原料であるレアアース資源の循環型システムの確立、高性能ネオジム磁石開発の将来を展望する。
 
表紙 永久磁石―材料科学と応用
著者 佐川眞人/浜野正昭
出版社 アグネ技術センター
サイズ 単行本
発売日 2007年09月
価格 5,500円(税込)
rakuten
ISBN 9784901496384
世界最強のネオジム磁石の発明者佐川眞人を編集代表とした永久磁石解説書の決定版。携帯電話のスピーカや振動モータ、HEVの駆動用モータ、パソコンのHDD、MRIなど先端産業に必須な永久磁石の、基礎から応用までを詳述。磁性材料を扱う技術者・研究者、大学院生、学部学生に最適。
 
(この項おわり)
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