『IT産業崩壊の危機』――ソリューションとは何か

田中克己=著
表紙 IT産業崩壊の危機
著者 田中克己
出版社 日経BP
サイズ 単行本
発売日 2007年12月
価格 1,980円(税込)
ISBN 9784822215767
ユーザー企業は馬のつもりで発注したが、ITベンダーは鹿だと思う。しかも鹿に「首を長くしてくれ」「斑点をつけてくれ」とユーザーの要求を次々に付け加える。結果、出来上がるのは、騏麟の姿だ。(114ページ)

概要

IT土方のイラスト
IT土方のイラスト
長年、日経BP社のIT系雑誌の編集者を務めた田中克己さんが、現在の日本のIT業界に対して苦言を呈する。
M&Aを駆使してまで、大手が構造転換を急ぐのは、SIビジネスの限界が見えているからだ」(113ページ)というのは、まさにその通りで、近年、大手SI企業がベンチャーを含む中小ソフトウェアベンダーを合併する動きは活発だ。だが、自ら“物づくり”をしなくなったSI企業は、果たして生き残ることができるのだろうか。
名内・日立システム前社長の言葉を引用し、「ユーザー企業は馬のつもりで発注したが、ITベンダーは鹿だと思う。しかも鹿に『首を長くしてくれ』『斑点をつけてくれ』とユーザーの要求を次々に付け加える。結果、出来上がるのは、騏麟の姿だ」(114ページ)と指摘する。もちろん、「麒麟」は空想上の動物である。こんな設計会議に明け暮れているSI企業は少なくないだろう。

本書では具体的な解決策が示されているわけではない。もちろん、具体的な方策は各々の企業が考えるべきである。ただ、冒頭で「『ソリューションだけで飯は食ってはいけない』のだ」(27ページ)と指摘されているのは事実ではあるが、真実ではないと考える。お客さんの“お悩み”を解決するソリューションプロバイダーは、人間がいる限り、無くなることはない。製造業も流通業も、じつは私たちの“お悩み”を解決し、よりよい生活を提案してくれるという意味では、皆、ソリューション・プロバイダーなのである。この世の中、ソリューション・プロバイダーでない企業体は存続できない。

となれば、IT業界に元気がないのは、適切なソリューションを提供していないからではないだろうか。前述の「麒麟」の話もそうであるし、富士通サービスのフィリップ・オリバー氏が指摘する「IT業界は50年の歴史があるのに、まるで10代のような振る舞いをしている。今晩10時に帰宅すると言っておきながら、夜中の2時に酔って帰るようなものだ」(152ページ)というのも当たっていると思う。

私たちIT技術者は、お客さんの“お悩み”を解決するために、時にはITプロフェッショナルとしてお客さんに意見しながら、歩調を合わせて進んでいくべきだと思う。
(2008年9月22日 読了)

参考サイト

(この項おわり)
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