『国防』――軍事オタクは鉄オタでもあった

石破茂=著
表紙 国防
著者 石破 茂
出版社 新潮社
サイズ 文庫
発売日 2011年07月28日頃
価格 572円(税込)
ISBN 9784101359618
基本的に「自分の国は自分で守る」という姿勢が必要なのは言うまでもありません。すべてアメリカに頼り切るのではなくて、自分の国でできることがあれば、それをやるべきではないでしょうか。(160ページ)

概要

戦車に乗る人のイラスト(男性)
軍事マニアで有名な元防衛大臣、いまの自民党政調会長・石破茂さんによる著書。
論理的ながら平易に、国防に対する熱い思いを綴った本書は、石破さんが間違いなくオタクであることを示した名著であると思う。

レビュー

まず、各国の軍事・外交政策について解説がある。
たとえば、「イラク戦争についてフランスが反対していられる理由の一つ」として「フランスは原子力発電への依存度が非常に高い。だから中東に頼らなくてもいいという政策論がある」(56ページ)と挙げるなど、感情論によらず、あくまで論理的な姿勢が貫かれている。
日本の国防については、MD(ミサイル防衛)を中核に据える考えだ。なぜなら、「Dは核に替わる新しい抑止力となって、核廃絶に一歩でも二歩でも近づいていくもの70ページ)だからだ。
なぜトマホークを導入しなかったかという問いかけに対しては、「この国は本当に、すぐに右にも左にも振れる国」だから「敵国を攻撃する能力を持つトマホークを保有していたら何が起こるのだろうか」という懸念があり導入しなかったと明快に答える。
この論理も明快でわかりやすい。

一方で石破さんは、防衛大臣時代の2008年10月、政府見解に反した論文を発表していたとして、自衛隊航空幕僚長だった田母神俊雄 (たもがみ としお) さんを更迭している。この件について本書では触れていないが、田母神さんは国防のために核兵器が必要であると説いている人物である。日本を思う気持ちは同じでも、防衛戦略思想が異なるということなのだろうか。
石破さんは「ここ十年ぐらい、私が恐ろしいと感じるのは、文官が暴走する危険性、そして制服組の官僚化が進んでいるということ」(277ページ)だという。日中戦争前夜、日本政府と日本軍がそういう状態だったからだ。
それならなおさら、官僚とは程遠いキャラクターの田母神さんを更迭すべきではなかったのではあるまいか。
私は人にまかせるということができません」(292ページ)のあたりを読むと、石破さんは本当にオタクなんだなと思う。オタクは自分と少しでも意見が異なると排斥する方向に動く。良い意味でも悪い意味でも。

本書と、『田母神塾――これが誇りある日本の教科書だ]』(田母神俊雄=元自衛官)、『日本の国境問題』(孫崎享=元外交官)、『日本人の誇り』(藤原正彦=作家)を読み比べると、各々の立場から出てくる戦争史観の違いを読み取ることができて面白いだろう。

そんな石破さんのプライベートは、「実は一番好きなのは鉄道」(298ページ)とのこと。夜行列車の「個室でお酒を飲みながら横になって本を読む至福の時」という。筋金入りのオタクである。
本日、民主党の党首選に立候補表明する前原誠司さんとは、電車マニア・プラモマニア繋がりであるとも。さて、次期総理大臣の座は誰に?
(2011年8月13日 読了)

参考サイト

(この項おわり)
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