『心を整える。』――自らが未熟で弱い人間だと認識する

長谷部誠=著
表紙 心を整える。
著者 長谷部誠(サッカー選手)
出版社 幻冬舎
サイズ 単行本
発売日 2011年03月
価格 1,404円(税込)
rakuten
ISBN 9784344019621
僕にとっての「心」は、車で言うところの「エンジン」であり、ピアノで言うところの「弦」であり、テニスで言うところの「ガット」なのです。(9ページ)

概要

著者は、サッカー日本代表の長谷部誠選手。2010年に南アフリカで開催されたワールドカップでは、26歳にしてゲームキャプテンを務め、4試合全てに先発出場し、ベスト16まで勝ち進んだ。
あとがきで、本の題名について「僕がなぜこのように『心を整える』ことを重視しているのかというと、僕自身、自分が未熟で弱い人間だと認識しているから」(232ページ)と記している。いやいや、長谷部選手の2倍近い人生を送ってきた立場から言わせてもらうと、弱いことを認識している人こそ最強ですよ。

レビュー

長谷部選手にとっての「『心』は、車で言うところの『エンジン』であり、ピアノで言うところの『弦』であり、テニスで言うところの『ガット』」(9ページ)だという。心を整えるため、毎日30分、意識して心を鎮める時間を作っていたり、一人で温泉につかっているという。27歳の若者とは思えない老成した発言と行動だ。
また、松下幸之助や稲盛和夫の引用もあり、相当な勉強家でもあることを伺わせる。

お酒は楽しむもので仕事の愚痴を言うためのガソリンじゃない」(31ページ)と言い切る。また、「よくお酒が入ると相手の本音が引き出せるとも言うけれど、そういう考え方も好きじゃない。お酒の力を借りないと本音を言い合えないという関係がそもそも嫌だし、そんな状態で出てきた本音に価値を見出せない」(32ページ)とも言っている。長谷部選手と同じ考えを持っている若者は少なくないだろう。年長者として、この考えは大切にしたい。

長谷部選手は、「アスリートにとって『自信』はガソリンのようなものだ」(86ページ)と語る一方、上から目線の発言は絶対にプラスにならないと注意する。なぜなら、「自信が生まれたからといって偉くなるわけでもないし、ましてや成功や勝利は自分ひとりの力で勝ち取ったわけでもない」(87ページ)だ。
長谷部選手は、自らの名前である「誠」に恥じない人生を送ろうと考えているが、やみくもに正義を振りかざすタイプではない。「人にはそれぞれ価値観があって、絶対的な正解なんてない」(206ページ)と考えているからだ。議論するにしても、まず相手の気持ちを想像することは必要なことだ。

20代半ばの若者が、なぜこれほど老成した考えを持てるのか――答えは最終章にあった。
「心が折れそうになる瞬間を何度も味わった。あと一歩で足が止まりそうになったときもあった」(216ページ)――アスリートは、毎日が正念場だからである。
アジアカップでキャプテンとなった長谷部選手は、「絶対に目を見て話す。目線を外さない」(223ページ)を心がけたという。コミュニケーションの基本ルールだが、これを実践できる人はビジネスマンの中でも限られている。
(2013年9月22日 読了)

参考サイト

(この項おわり)
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