『エゴの力』――個性は標準化できない

石原慎太郎=著
表紙 エゴの力
著者 石原慎太郎
出版社 幻冬舎
サイズ 新書
発売日 2014年10月
価格 842円(税込)
rakuten
ISBN 9784344983632
人間の強さとは何かといえば、ぞれはその人聞の備えた個性の力です。(100ページ)

概要

著者は、作家で政治家の石原慎太郎さん。
本書では、「人間の強さとは何かといえば、ぞれはその人聞の備えた個性の力」(100ページ)というテーマを中心に、エゴについて語っている。石原さんほど老成しているわけではないが、私も50歳を過ぎ、このテーマには賛同するものである。

レビュー

石原さんは冒頭、「エゴとは人生を左右する力、人間の個性。個性とはその人間の感性の発露以外の何ものでもない」(4ページ)と定義し、織田信長、東郷平八郎、出光佐三などの行動を引き合いに出し、成功の裏にはエゴの発露があることを紹介する。そして、松下幸之助の言葉「経営には勘が必要だが、勘だけではだめだ。またデータ、コンピューターだけではだめだ。資料をいくら重ね、データをいくら分析しても限界がある。経営に成功するための原則がある。その原則のなかで絶対必要条件ともいえるのは経営の哲学、経営理念や志だ」(46ページ)を引用する。

第2章では、恋愛とエゴについて語る。『八百屋お七』『娘道成寺』を引き合いに、「男のエゴの虚弱さというものを、またある意味で人間の備えた弱さを示す象徴かもしれません」(81ページ)と解説する。また、明治維新の功労者や太平洋戦争の英霊達にもエゴを見いだすという。
古今東西の小説や歴史上の人物に典拠を求めるあたりは、いかにも石原さんらしい展開である。
第3章では、趣味であるヨットを通じて、好きなことを通じてエゴを磨くことができると語る。

第4章では教育や就職について語り、「他者との関わりが自分のエゴ、自我を切りつけ、損なうことの端的な事例は間違った教育、あるいは間違った躾によるものが実に多い。特に躾・教育は幼年から始まって成人になるまでの、まだ自我が確立される前の未成年の段階で一方的に行われる作業ですから、その影響は極めて容易だし、また大きなものがあります」(148ページ)と指摘する。
第5章では田中角栄による金権政治を振り返り、「お金というものは決してただのお金ではなしに、人生を左右しかねぬ、その使いようによって極めて貴重で微妙な人生のための小道具」(213ページ)と語る。

そして最後に、「世界がアメリカンスタンダードで統一されることはありえないのと同じように、人間全体に統一規格があてはまることは絶対にありえない。それと同じように、それぞれの強いエゴを備えている人間たちに人間のスタンダードがありうるはずはありません」(217ページ)と結んでいる。

石原さんも政界を引退し、さすがに往時の筆致は感じられないが、経験に裏打ちされたインテリジェンスには学ぶべきことが多い。若い人にも読んでほしい1冊である。
(2015年11月15日 読了)

参考サイト

(この項おわり)
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