『価格の心理学』――価格決定プロセスを見直す

リー・コールドウェル=著
表紙 価格の心理学
著者 リー・コールドウェル/武田玲子
出版社 日本実業出版社
サイズ 単行本
発売日 2013年02月
価格 1,760円(税込)
rakuten
ISBN 9784534050427
人は提示された金額に影響されることを忘れてはならない。しかも商品にいくら支払うか聞かれると、本当に払うつもりより低い金額を答える。(84ページ)

概要

著者は、価格リサーチの専門家で、認知・行動経済学者でもあるリー・コールドウェルさん。副題に「なぜ、カフェのコーヒーは『高い』と思わないか」とあるように、消費者心理の側面から製品・サービスの価格決定プロセスを見直す

レビュー

冒頭、新製品チョコレートポットの価格を考える。もしスーパーでティーバッグの隣に並べると、ティーバック1個やコーヒー1杯分の値段と比較されるから4円から14円の間。しかし、もしいれたて力プチーノの隣に並べると1個400円でも抵抗なく払うだろう。つまり、「競合相手が変われば価格領域も違う。したがって、競合相手の選択と、それにあわせたポジショニング次第では、まったく違う価格設定ができる」(24ページ)というのだ。

第2章では原価計算の、第3章では需要曲線の問題点を指摘する。たとえば、「商品やサービスを提供するための原価を出せば、設定できる最低価格はわかるが、それが適正価格というわけではない」(26ページ)など。これは、目から鱗であった。
第7章では、顧客の第一印象の効果を利用した価格戦略として「アンカリング」を取り上げる。
第12章ではパッケージ商品の価格を考えるが、携帯電話会社の事例を取り上げ、固定費が多く変動費が少なければパッケージ価格は個別サービスよりも安く設定すべきとしている。考えてみれば当たり前の話なのだが、わが国の携帯電話料金が欧州より高いのは、この考え方の違いかもしれない。

第13章では無料商品・サービスを取り上げる。無料は魔法の言葉だが、「無料サービスが最大限の効果を発揮するのは、顧客があまり重視していない価値を対象にした場合」(196ページ)と前置きをした上で、無料商品と有料商品のパッケージ販売や、有料商品の購入を条件とする無料商品の提供は、有料商品の効果的なPRになるという。
第17章では、記憶の研究、パターン認識、認知的不協和、ゲーム理論から顧客心理を分析し、「価格設定での最重要課題は、顧客に価格について考えさせないこと」(257ページ)という。

原価積み上げで価格決定してきた身からすると、いかさまのようにも感じるが、これが本当の「マーケティング」なのだろう。開発者や製造者の視点で価格決定に絡まない方がいいのかもしれない。
(2018年10月14日 読了)
(この項おわり)
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