『官僚病の起源』――日本民族は精神分裂病とレッテルを貼る

岸田秀=著
表紙 官僚病の起源
著者 岸田秀
出版社 新書館
サイズ 単行本
発売日 1997年02月
価格 1,388円(税込)
ISBN 9784403230486
日本国民は1853年のペリー・ショックのためになおいっそう外的自己と内的自己とに分裂し、そして、内的自己においては欧米諸国を恨み、屈辱感をもっている(77ページ)

概要

たらい回しのイラスト(女性)
著者は、精神分析者の岸田秀 (きしだ しゅう) さん。人間は本能の壊れた動物であり「幻想」や「物語」に従って行動しているに過ぎないという「唯幻論」を展開する。
岸田さんは、[ご自身が気に入らないものは「精神分裂病」とレッテル貼りをするだけで、解決策は一切提示しない。本書を読んだ方で、岸田さんと感じ方のベクトルが一致する人は、同様にレッテル貼りをするだけで、自分は精神状態が健常であると思い込み、改善策を考えることを止めてしまうのではないだろうか。
また、科学的・論理的に間違っている記述も多い。
たとえば、「英語を崇拝し、英語力の価値を限りなく過大評価する外的自己と、英語を嫌悪し遠ざけようとする内的自己との葛藤」(156ページ)が精神分裂病だというのは、医学的に間違いである。精神分裂病の名称が統合失調症に変わったのは、本書発行後の2002年のことなので、これはいい。症状は患者によって様々だが、妄想などの陽性症状と、感情が乏しくなる陰性症状を特徴とする。両者は「葛藤」しているわけではない。
幸いなことに、岸田さんは精神分析者であり、精神科医ではない。医療過誤を起こすことはないだろう。
岸田さんは、歴史には詳しくないと何度も記述しているが、その詳しくないことの上に、ご自身の専門分野である心理学の話題を積み上げるという論理構造もおかしい。普通は、この逆である。

わが国の政治や教育や社会問題に対して問題意識を持つことは必要なことだ。だが、それをラベリング(仕分け)するだけで、何ら論理的・具体的な解決策を考えないのは、思考停止である
本書を他山の石として、これからも考えることを諦めない姿勢を保っていきたい。

レビュー

冒頭で、「軍部官僚の失敗は軍人であるがゆえの失敗ではなく、官僚であるがゆえの失敗」(15ページ)と断じ、官僚組織が自閉的共同体であると指摘する。
岸田さんは、日本の成り立ちが、渡来人の影響でも、大王による統一でもなかったとし、自閉的共同体である豪族が、そのまままとまっただけだと主張する。だが、この主張に物的証拠はない。それを下地に、日本の官僚制度が自閉的共同体であると展開することは、論理的に無理があるのではないだろうか。

一方で、武家政治を賞賛するが、これも根拠に乏しい。官僚病の解決策として、「ふたたび鎖国し、徳川時代のような政治体制を復活させること」(69ページ)を主張するが、これは非現実的だ
また、このような官僚制度を誕生させたのは国民の責であるとし、「日本国民は1853年のペリー・ショックのためになおいっそう外的自己と内的自己とに分裂し、そして、内的自己においては欧米諸国を恨み、屈辱感をもっている」(77ページ)ためだという。

本書のタイトルである「官僚病の起源」は、ここで唐突に終わる
81ページからは、歴史を精神分析すると称し、「天孫降臨」も「神武東征」も、そういった史実はなく、日本は百済の植民地であったことを隠すために歴史が捏造されたと主張をはじめる。もちろん、何の証拠も記されていない。
(2019年6月22日 読了)

参考サイト

(この項おわり)
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