『競走馬の科学』――ウマ娘たちを分析

JRA競走馬総合研究所=著
表紙 競走馬の科学
著者 JRA競走馬総合研究所
出版社 講談社
サイズ 新書
発売日 2006年04月21日頃
価格 880円(税込)
rakuten
ISBN 9784062575164
ディープインパクトの後肢の踏鉄は驚くほど磨耗が少ない。それは、柔らかな関節を巧みに使って路面をグリップする能力を証明しているのだろう。(15ページ)

概要

競馬のレースのイラスト
ウマ娘」がブームである。そこで、発刊が2006年とやや古いが、「競走馬の未来を切り拓く」JRA競走馬総合研究所が書き下ろした本書を読んでみることにした。
競走馬の心肺能力の高さを具体的な数字で学ぶことができ、また、競走能力には遺伝だけなく環境要因も大きいことが分かった。

レビュー

サラブレッドのイラスト(栗毛)
JRA 日本中央競馬会が研究対象にしている競走馬=サラブレットは、約300年前、ランニングホースとアラブウマの交配で誕生した。世界中のサラブレッドの父系をたどっていくと、すべて3頭の馬に遡ることができる。
ギャロップ
ギャロップ
競走馬の肢は後肢が推進力で、前肢が舵取りの役割をになっている。動物は地上に上がって歩法を進化させた。競走馬は「七色の歩法」を身につけており、スタートからゴールまで歩法を変化させている。これは二足歩行のウマ娘と違う点だ。
サラブレッドのイラスト(芦毛)
最速はギャロップだが、肉食動物のチーターと違い、草食動物の競走馬は大きな消化器官を支えるために背骨を曲げることができない。このことが逆に、背中に人間を乗せることを可能にしている。また、捕食者から逃げるため、馬は脚を伸ばし、中指一本で体重を支えるに至った。中指を守る部分が蹄である。
競走馬の蹄
しかし人間を乗せることで、蹄の摩耗が激しくなった。そこで人間は蹄鉄を開発し、馬の蹄を守っている。競走馬でよく使われる調教・競走兼用蹄鉄はアルミニウム製で、約95グラムと軽量ながら麻耗が少ない。
地上最速のチーターは時速100キロを超えるが、最大速度で走れるのはせいぜい200メートル。これに対し、競走馬は1200~3200メートルを時速64~59キロメートルで走ることができる
競走馬が速く走れる秘密は、その循環器系にもある。
まず心臓が大きい。心臓の重量と体重との比率をみると、人間は0.4%、ウシは0.35%、ゾウは0.39%だが、サラブレットは0.97%、トレーニングを積むと1.1%にも達する。競走馬の安静時心拍数は30台だが、レース中には220~240に達する。また、血液量も他の動物に比べて多く、赤血球の数も多い。
こうして、レース中に筋肉へ十分な酸素を供給できる。
競走馬では、200メートルあたり13~14秒のスピードの時に有酸素性エネルギーの生成能力が最大に達し、それより速くなると無酸素性エネルギー(主にグリコーゲン)も動員される。加速が必要なスタート直後に無酸素性エネルギーを利用し、ゴール前の追い込みで再びグリコーゲンを利用できるかが勝負の鍵になる。

馬は繊細な動物だ。レース後の疲労が回復しないと、次の出走を嫌がることがある。
慢性疲労を避け、レース前に万全の状態に仕上げるため、競走馬の食事は栄養学的な観点から考えられている。発汗によって失われる水分や電解質を補給し、グリコーゲンを蓄積するために穀類を含む飼料を与える。

競走馬は怪我と無縁でいられない。骨折率は出走延べ頭数の約1.3パーセントで、その8割が前肢で起きている。レースにおいては、前肢と後肢にかかる荷重が6対4と前肢の割合が大きく、1本の肢で約1トン近い荷重を受けなければならないからだ。
また、屈腱炎やソエといった炎症、コズミ(筋肉痛)にも注意が必要だ。

JRAが運営する全国10競馬場は、芝馬場とダート馬場の2種類に分かれる。調教コースでは、衝撃を和らげ、競走馬の肢を守るウッドチップ馬場が使われる。
1980年代後半から、メジロマックイーン、オグリキャップ、トウカイテイオーの活躍が目立ったが、坂路コースがつくられ、そのトレーニング効果だとされている。

競走馬には発情期があり、日本では2月中旬から7月中旬まで種付けが行われる。
馬は人間と異なり、免役の胎盤移行がないため、子馬は免疫グロブリンが多く含まれる初乳を飲むことが生死を分ける。
その年に生まれた馬は血統登録審査をおこなう。審査には血液型が用いられてきたが、2002年からDNA型検査が導入された。血統登録証明書が交付されたら、馬名登録する。競馬法では、馬名登録をした競走馬でないと出走できないことが定められている。
馬齢は、誕生日に関係なく、生まれた年の1月1日から起算する。12月31日に生まれた子馬は、翌日には1歳馬となる。

競走馬の能力には多くの遺伝子が関与しており、環境の影響も受けると考えられている。データ分析の結果、とくに、1200メートルから2000メートルの距離では遺伝的に競走能力に差がないことがわかっている。
(2021年5月8日 読了)

参考サイト

(この項おわり)
header