『絵とき「超音波技術」基礎のきそ』――様々な分野で利用

谷村康行=著
表紙 絵とき「超音波技術」基礎のきそ
著者 谷村康行
出版社 日刊工業新聞社
サイズ 単行本
発売日 2007年11月
価格 2,420円(税込)
ISBN 9784526059629
超音波の利用技術でもっとも普及しているのが、医療分野かもしれません。(114ページ)

概要

超音波を出すコウモリのイラスト
著者は超音波探傷が専門の谷村康行さん。超音波の定義や性質、発生させる仕組みから実用例まで、幅広く、わかりやすく書かれている。「超音波の利用技術でもっとも普及しているのが、医療分野かもしれません」(114ページ)というように、健診でレントゲン装置を使わずに内臓を診たり、妊婦さんのお腹の中にいる赤ちゃんの様子を診るのに超音波を利用している。

レビュー

1876年、イギリス人のガルトンが、超音波を発生させる「ガルトン笛」を発明した。
日本工業規格(JIS)では、可聴音の上限周波数(およそ16kHz)を超える音や、周波数が20kHz以上の音波を「超音波」と定義している。英語では、Ultrasonic waveUltrasound と表記する。

音速を決めるのは、音を伝える物質の弾性率と密度で、音の性質である周波数や波長には関係しない。通常環境では約340m/秒である。
私たち人間は、周波数の違いを音の高さとして、音圧の違いを音の大小として感じる。
音の波長を短くしていくと、音は四方八方に音が広がるのではなく、次第に指向性が鋭くなっていく。この指向性により、超音波は様々な用途に使われるようになった。また、約30万km/秒というレーザーに比べて伝搬速度が遅いため、回路の時間精度もそれほど高い必要がない。

超音波を使った積雪計では、周波数を変えることで新雪の厚さを計測できる。
超音波による風向風速計は機械的な可動部がなく耐久性が優れている上、3次元の風向風速を計測できる。ただし、最大風速が60m/秒という制約がある。
ソーナー(SONAR)はSound Navigation And Rangingの略で、音波によって物体を検知して航行する装置を意味する。水中に音波を発信して、離れた物体からの反射を受信するアクティブソーナーと、自らは音波を出さずに、対象物が発する音を受信する方法をパッシブソーナーがある。
魚の浮き袋は、音響インピーダンスが桁違いに小さい空気が水中にあることから、ノイズとして捉えられていたが、1950年代から、これを魚群探知に使うことができるようになった。

超音波の利用技術が普及しているのが医療分野だ。放射線のような人体への影響を気にせず、身体内の検査ができるようになった。内臓脂肪や腫瘍、骨密度、血流、胎児の様子を画像にすることができる。

また、固体の中に超音波を伝搬させることにとって、固体の中の様子を知ることができる。超音波探傷だ。

20~50kHzの超音波を液中に伝搬させてキャビテーションという空洞を発生させ、その衝撃波によって汚れを除去することができる。MHzオーダーの超音波を使うと、キャビテーションを発生することなく、サブミクロンオーダーの汚れ除去ができるようになる。
強力な超音波は、プラスチックの溶着やモーターとして実用化されている。
小さな超音波振動子を並べたフェイズドアレイ技術は、体内の特定箇所に超音波のエネルギーを集めて病巣を破壊する治療法の研究が進められている。
キャピテーションに伴う高温高圧や、超音波の高速振動によってこれまでにない化学反応が期待されてソノケミストリーという研究分野も生まれている。
(2021年7月18日 読了)

参考サイト

(この項おわり)
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