1日1万歩は必要か ― 最新研究が示す「7000歩」

2026年08月09日 作成
歩数計を見ながら歩く人(イメージ)
「1日1万歩」は、健康づくりの目標として広く知られています。しかし、この数字は医学の研究から生まれたものではありません。2026年(令和8年)8月4日、オーストラリアのアデレード大学で運動科学を教えるハンター・ベネット講師が、研究者が執筆するニュースサイト「The Conversation」に「Do we really need 10,000 steps a day?(本当に1日1万歩が必要なのか)」を寄稿し、1万歩の由来と、最新の研究が示す歩数について解説しました。
1万歩という数字が広まったきっかけは、日本の歩数計でした。1965年(昭和40年)、岡山県の山佐時計計器が、一般向けとしては日本で初めての歩数計「万歩メーター」を発売します。前年の1964年(昭和39年)に開かれた東京オリンピックをきっかけに健康への関心が高まっていた時期で、この商品名がのちに「万歩計」として定着しました(「万歩計」は同社の登録商標です)。

ベネット講師は、1万歩という数字は覚えやすく響きがよいために選ばれたもので、健康に関する研究の裏づけがあったわけではないと説明しています。漢字の「万」が歩く人の姿に似ていることも、選ばれた理由の一つとして紹介されています。

一方、山佐時計計器は自社サイトで、語呂の良さではなく「歩幅70cmなら1万歩で7km。少なくともこのくらいは歩いてほしい」という考えが元になったと説明しています。当時、医師やジャーナリストが「1日1万歩運動」を提唱しており、その運動にちなんで、文字盤の針が1周するとちょうど1万歩になるように設計したとのことです。いずれにせよ、大人数を長期間追いかける調査によって確かめられた数字ではありませんでした。
歩数と健康リスクの関係(イメージ)
歩数と健康リスクの関係(イメージ)
2025年(令和7年)7月23日、オーストラリアのシドニー大学のディン・ディン教授らが、医学誌『The Lancet Public Health』に論文「Daily steps and health outcomes in adults(成人の1日の歩数と健康への影響)」を発表しました。2014~2025年(令和7年)に10か国以上で行われた57本の研究、のべ16万人以上のデータをまとめ、1日の歩数と病気・死亡のリスクの関係を調べたものです。
分析の結果、健康への効果が最も大きくなるのは1日7000歩あたりだと分かりました。1日2000歩の人と比べると、7000歩の人のリスクは次のように低くなっていました。
  • 早期死亡:47%低下
  • 心血管疾患:25%低下
  • 認知症:38%低下
  • 2型糖尿病:14%低下
  • うつ症状:22%低下
  • 転倒:28%低下
歩数が増えるほどリスクは下がりますが、7000歩を超えると効果の伸びはゆるやかになります。逆に、2000歩から4000歩に増やすだけでもはっきりした改善が見られました。ふだんあまり歩いていない人ほど、少し歩数を増やす効果が大きいということになります。1万歩に届かないからと諦める必要はありません。

なお、日本の厚生労働省が公表している「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、成人に対して1日約8000歩以上に相当する身体活動と、週2~3日の筋力トレーニングを推奨しています。今回の研究の7000歩とは目安が少し違いますが、どちらも「歩数を増やすほど良いが、極端な目標でなくてよい」という点では共通しています。
早歩きと筋力トレーニング(イメージ)
歩くことは有酸素運動にあたり、心拍数を上げて呼吸や筋肉、心臓・血管に適度な負担をかけます。続ければ心臓と代謝の働きが良くなり、体重の管理やストレスの軽減にも役立ちます。ベネット講師は、運動の効果は強度によっても大きくなると指摘します。会話を続けるのが難しいくらいの早歩きに変えれば、同じ時間でもより大きな効果が得られます。
世界保健機関などの指針でも、高強度の運動75分は中強度の運動150分に相当するとされています。運動に使える時間が短い人にとっては、早歩きが手軽な解決策になります。短い時間の強めの運動を1日の中に分けて入れても効果があることが、最近の研究で示されています。

ただし、ウォーキングだけでは足りない部分もあります。歩いても、筋肉の量や力といった無酸素性 (むさんそせい) の体力はあまり増えません。筋力は年をとってからの生活の質に関わり、2型糖尿病の予防や転倒の防止、自立した生活を続けることにつながります。そのため、多くの保健当局は週2日以上の筋力トレーニングを勧めています。

ベネット講師は「1日7000歩を目標にし、週に2回の筋力トレーニングを加えれば、健康づくりの土台はほぼ整う」とまとめています。歩数計の数字に振り回されるよりも、今より少し多く歩くこと、そして筋肉を使う運動を組み合わせることが現実的な近道といえそうです。

参考サイト

(この項おわり)
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