“あの図形”が新しい光学素材の卵に

2026年08月20日 作成
ハット型タイルによる非周期的な敷き詰め(イメージ)
ハット型タイルによる非周期的な敷き詰め(イメージ)
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同じ形のタイルを1種類だけ使って床を隙間なく埋め、しかも模様がどこまでも繰り返さない。そんな図形はあるのか――数学ではアインシュタイン・タイル問題として約50年間も未解決でした。ドイツ語の「Ein Stein(一つの石)」に由来する名前で、アルベルト・アインシュタインとは関係ありません。2023年(令和5年)、イギリスのDavid Smithらが帽子(ハット)のような13角形を見つけ、この問題に答えを出しました。
結晶のように同じ単位が規則正しく繰り返す構造を周期構造、繰り返しはないのに全体としては秩序が保たれている構造を準周期構造と呼びます。有名な例がペンローズ・タイルで、こうした秩序を持つ物質は準結晶と呼ばれます。ハット型タイルも準周期構造の仲間ですが、ペンローズ・タイルとは決定的な違いがあります。鏡に映した形(裏返したタイル)を必ず混ぜないと平面を埋められないため、模様の全体は鏡映対称性を持たないのです。

東京大学生産技術研究所の森竹勇斗准教授と東京科学大学理学院物理学系の納富雅也教授らの研究チームは、この性質に注目しました。敷き詰めた個々のハット型タイルの重心に点を1つずつ置くと、120度ずつ回すと元に重なる(3回回転対称性を持つ)一方で、鏡に映すと元と重ならない点の並びができます。この並びを研究チームはモノタイル準格子と名付けました。鏡像と重ね合わせられない性質をキラリティー(カイラル)といい、右手と左手の関係にたとえられます。従来の準結晶は鏡映対称性を持つため、キラルな準周期構造は前例のないものでした。
風車のようにねじれた回折像(イメージ)
風車のようにねじれた回折像(イメージ)
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研究チームはNTTの微細加工技術を使い、厚さ350ナノメートル(1ナノメートルは100万分の1ミリ)の窒化ケイ素の薄膜に、直径約200ナノメートルの穴をモノタイル準格子の並びどおりに開けました。穴の数は37万2100個、範囲は約0.5ミリ四方です。ここに緑色のレーザー光と白色光を当てて回折像を撮影したところ、風車のように片方向へねじれた模様が現れました。
回折像には、規則的な繰り返しがない構造なのに、ブラッグピークと呼ばれるくっきりした明るい点が並びました。しかも、光を当てる場所を動かしても同じ像が得られました。これは、この構造が繰り返しを持たないまま遠く離れた場所どうしで秩序を保っている(長距離秩序を持つ)ことを示しています。

ねじれの角度にも規則がありました。ハット型タイルをまとめた「メタタイル」を段階的に大きな塊へ組み上げていくと、その回転角がフィボナッチ数列(前の2つの数を足して次の数になる並び)に従い、比が黄金比φに近づきます。ここから計算されるねじれ角は約15.52度で、実際の回折像の配置とよく一致しました。

さらに、右回りと左回りの円偏光(光の振動が回転しながら進む光)を当てると、回折の強さの分布が違うことも分かりました。鏡映対称性を持つ従来の準周期構造では起こらない現象で、構造がキラルであることの証拠です。研究チームは、この設計原理をメタマテリアルの一種であるメタサーフェス(光の波長より小さい構造で光を操る薄い部品)やフォトニック結晶に取り入れ、新しい光の機能を探るとしています。数学の難問の答えが、光を操る素材の設計図になろうとしています。

参考サイト

(この項おわり)
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