2.8 画像処理エンジン

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画像処理エンジン
画像処理エンジンは、撮像素子がとらえた光の信号を、私たちが目にする写真へと作り上げるカメラの「頭脳」である。色の再現、ノイズの除去、輪郭の強調など、写真の仕上がりを左右する多くの処理を一手に引き受けている。同じ撮像素子を積んでいても、この処理エンジンが違えば写りは大きく変わる。
ふだん何気なく撮っているJPEG画像は、シャッターを押した一瞬のうちに、カメラの内部でこのエンジンによって作られている。今回は、画像処理エンジンがどのような働きをしているのか紹介しよう。

目次

画像処理エンジンとは

撮像素子からの信号を画像処理エンジンが処理して画像を作る流れ
大きな写真大きな写真
(1672×941 ピクセル, 160 Kbyte)
画像処理エンジンとは、撮像素子が光を電気信号に変換したあとのデータを受け取り、さまざまな計算を加えて一枚の画像に仕上げる専用の電子回路(半導体チップ)のことである。「画像エンジン」「映像エンジン」などとも呼ばれ、デジカメをデジカメたらしめている中心的な部品のひとつである。

撮像素子が出力したばかりの信号は、そのままでは写真として見られる状態ではない。色も整っておらず、ノイズも含まれている。画像処理エンジンは、この生のデータに対して色の調整、ノイズの除去、輪郭の強調、明暗の補正といった処理を高速で行い、見た目に自然で美しい画像へと変換していく。

カメラの性能は、撮像素子の大きさや画素数だけで決まると思われがちだが、実際には画像処理エンジンの性能が写りや使い勝手を大きく左右する。連写の速さ、暗い場所での画質、ピント合わせの賢さなども、この頭脳の働きに支えられているのである。

JPEG画像はカメラの中で作られる

撮像素子の信号からJPEG画像が作られるまでの工程
大きな写真大きな写真
(1672×941 ピクセル, 147 Kbyte)
撮像素子のひとつひとつの画素は、赤・緑・青のうち、いずれか一色の明るさしか記録できない。そのため、画像処理エンジンはまず周囲の画素の情報を補い合って、すべての画素にフルカラーの情報を与える「デモザイク(色補間)」と呼ばれる処理を行う。これが、色のついた画像を作るための出発点である。

デモザイクのあと、ホワイトバランスの調整、色の再現、ノイズ低減、シャープネス処理、明るさやコントラストの補正などが順に加えられていく。これら一連の処理は「現像」と呼ばれる。フィルム時代に暗室で行っていた作業を、カメラがデジタル的に瞬時にこなしているわけである。

最後に、できあがった画像はJPEGという形式で圧縮され、記録メディアに保存される。つまり、私たちが手にするJPEG画像は、シャッターを切った一瞬のうちにカメラの中で完成された「作品」なのである。撮影者が選んだ設定によって、その仕上がりは大きく変わる。
画像処理エンジンが行う主な処理
処理の名称 おもな内容
デモザイク(色補間) 一色しか持たない各画素を補い合い、フルカラーの画像にする。
ホワイトバランス 光源の色かぶりを補正し、白いものを白く写す。
色再現 記憶色や好ましい色になるよう、色合いや鮮やかさを整える。
ノイズ低減 ざらつきや色のまだらを抑え、なめらかな画像にする。
シャープネス 輪郭を強調し、くっきりとした印象に仕上げる。
ダイナミックレンジ補正 白飛びや黒つぶれを抑え、明暗の階調を整える。
圧縮・記録 JPEGなどの形式に圧縮し、記録メディアに保存する。

色の再現を決める

同じ被写体でも画像処理エンジンの違いで色の再現が変わる
処理エンジンによって色の再現は変わる(イメージ)
写真の印象を最も大きく決めるのが色の再現である。空の青、木々の緑、人の肌の色をどのように写すかには、メーカーごとの考え方や個性があらわれる。実際の色をそのまま記録するのではなく、見る人が「美しい」「自然だ」と感じる色へと、画像処理エンジンが巧みに整えているのである。
人は記憶の中で、空をより青く、若葉をより鮮やかに覚えている。こうした記憶色に近づけることで、写真はより印象的に見える。メーカーは長年の研究をもとに、肌色を健康的に、料理をおいしそうに見せるなど、被写体に応じた色づくりのノウハウを処理エンジンに組み込んでいる。

そのため、同じ被写体を撮っても、メーカーやカメラによって色の傾向は異なる。鮮やかで力強い色を好むメーカーもあれば、落ち着いた自然な色を身上とするメーカーもある。カメラを選ぶときは、画素数だけでなく、自分の好みに合う色を出してくれるかどうかにも目を向けたい。

ノイズ低減機能

ノイズ低減処理の有無による画質の違い
ノイズ低減処理の有無による違い(イメージ)
暗い場所で撮影したり、ISO感度を高く設定したりすると、画像に細かなざらつきや色のまだらが生じる。これがノイズである。画像処理エンジンは、このノイズを見分けて目立たなくするノイズ低減処理を行い、なめらかで見やすい写真に仕上げてくれる。
ただし、ノイズ低減を強くかけすぎると、ノイズと一緒に細かな模様や質感まで消えてしまい、のっぺりとした写りになることがある。逆に弱くすればざらつきは残る。ノイズの除去と解像感の維持は、たがいに相反する関係にあるため、両者のほどよい釣り合いを取ることが、処理エンジンの腕の見せどころとなる。

多くのカメラでは、ノイズ低減の強さを「弱・標準・強」などから選べる。細部を残したいときは弱めに、暗所でのなめらかさを優先したいときは強めにするとよい。近年はAIを使い、ノイズだけを的確に見分けて消す技術も進み、高感度撮影でも実用的な画質が得られるようになってきた。

シャープネス処理

シャープネス処理による輪郭強調の違い
シャープネスの強さによる印象の違い(イメージ)
シャープネスとは、被写体の輪郭を強調し、画像をくっきりと見せる処理である。撮像素子から得られたままの画像は、わずかにやわらかい印象になりやすい。そこで画像処理エンジンが輪郭部分のコントラストを高めることで、ピントが合った部分をより鮮明に感じさせるのである。
シャープネスを強くかけると、解像感が増して力強い印象になる。風景や建築物など、細部を際立たせたい被写体に向く。一方、人物の肌などは、シャープネスを強めすぎると小じわや毛穴まで強調され、かえって不自然になることがある。被写体に応じた使い分けが大切である。

注意したいのは、シャープネスはあくまで見かけ上の鮮明さを高める処理であり、ピンボケやブレを後から直すものではないという点である。輪郭の不自然な強調は、白っぽいふちどり(ハロー)として現れることもある。まずは正確なピント合わせを心がけ、シャープネスは仕上げの調整として控えめに使うのがよい。

ダイナミックレンジ補正

ダイナミックレンジ補正による白飛び・黒つぶれの軽減
明暗差の大きい場面での補正効果(イメージ)
ダイナミックレンジとは、最も明るい部分から最も暗い部分まで、写真がどれだけ広い明暗の幅を記録できるかを表す言葉である。明暗差の大きな場面では、明るい部分が真っ白になる「白飛び」や、暗い部分が真っ黒につぶれる「黒つぶれ」が起こりやすい。
こうした場面で活躍するのが、画像処理エンジンによるダイナミックレンジ補正である。明るすぎる部分を抑え、暗すぎる部分を持ち上げることで、白飛びや黒つぶれを軽減し、肉眼で見た印象に近い、階調豊かな写真に仕上げてくれる。キヤノンの「オートライティングオプティマイザ」、ニコンの「アクティブD-ライティング」などがこれにあたる。

逆光のポートレートや、明るい空と暗い影が同居する風景など、明暗差の大きな場面でとくに効果を発揮する。ただし、効果を強くかけすぎると、暗部のノイズが目立ったり、立体感が薄れて平板な印象になったりすることもある。場面に合わせて強さを選ぶとよい。

顔認識とAI画像処理

カメラが人物の顔や瞳を認識してピントを合わせる様子
顔や瞳を認識してピントを合わせる(イメージ)
近年の画像処理エンジンは、画像を作るだけでなく、写っているものが何であるかを「認識」する役割も担うようになった。その代表が顔認識である。画面の中から人の顔を自動で見つけ出し、そこにピントと明るさを合わせることで、誰でも失敗の少ない人物写真が撮れるようになった。
さらに進んで、瞳に正確にピントを合わせる「瞳AF」や、人物だけでなく動物・鳥・乗り物などを見分けて追いかける機能も広がっている。これらは、AI(人工知能)の技術を応用した被写体認識によって実現されている。あらかじめ膨大な画像を学習させることで、カメラが被写体の種類を判断できるようになったのである。

AIの活用は、ノイズ低減や色づくり、場面に応じた自動補正にも広がっている。撮影者が難しい設定を意識しなくても、カメラが場面を判断して最適な処理を選んでくれる時代になりつつある。とはいえ、最終的にどう写したいかを決めるのは撮影者自身である。便利な機能を活かしつつ、自分の意図を持つことが大切である。

ピクチャースタイル・仕上がり設定

画像処理エンジンによる色やコントラスト、シャープネスの傾向を、撮影者があらかじめ選べるようにしたのが仕上がり設定である。キヤノンの「ピクチャースタイル」、ニコンの「ピクチャーコントロール」、ソニーの「クリエイティブルック」など、メーカーごとに名称は異なるが、考え方はおおむね共通している。

「スタンダード」を基本に、風景を鮮やかに写す「風景」、肌をなめらかに見せる「ポートレート」、落ち着いた色合いの「ニュートラル」、白黒の「モノクロ」などが用意されている。被写体や表現したい雰囲気に合わせて選ぶだけで、写真全体の印象が大きく変わる。

これらの設定では、シャープネスや色の濃さ、コントラストを自分好みに細かく調整することもできる。まずは標準で撮り、物足りなさを感じたら少しずつ変えてみるとよい。なお、これらの設定はJPEG画像に反映されるものであり、次に述べるRAWで記録しておけば、撮影後に選び直すことも可能である。
おもな仕上がり設定(ピクチャースタイル)の例
設定名 特徴 向いている被写体
スタンダード くっきりと鮮やかで、幅広い場面に使える基本設定。 日常・スナップ全般
ポートレート 肌をなめらかで健康的な色合いに仕上げる。 人物
風景 青空や緑を鮮やかに、輪郭をくっきりと表現する。 風景・建築
ニュートラル 色やコントラストを抑えた、自然で落ち着いた描写。 あとで調整したいとき
モノクロ 白黒写真として記録する。階調や雰囲気を重視。 芸術的な表現

RAWとJPEG

RAWとJPEGの記録の違い
RAWとJPEGの記録の違い(イメージ)
大きな写真大きな写真
(1672×941 ピクセル, 129 Kbyte)
JPEGは、画像処理エンジンが現像を終えた「完成品」の画像である。そのまますぐに見られて、ファイルも小さく扱いやすい。一方の RAW (ロウ) は、撮像素子が得たほぼ手つかずのデータをそのまま記録した形式で、いわば「現像前のネガフィルム」にあたる。

RAWで記録しておくと、撮影後にパソコンの専用ソフトを使い、ホワイトバランスや明るさ、色の傾向、仕上がり設定などを自分の手で調整しながら現像できる。白飛びや色かぶりをある程度あとから救えるなど、調整の自由度が高いのが大きな利点である。

ただし、RAWはファイルが大きく、見るためには現像という一手間がかかる。手軽に撮ってすぐ使いたいならJPEG、じっくり仕上げたいならRAW、という使い分けが基本である。多くのカメラはRAWとJPEGを同時に記録できるので、慣れるまでは両方を残しておくと安心である。
RAWとJPEGの比較
項目 JPEG RAW
中身 現像済みの完成画像 現像前の生データ
ファイルサイズ 小さい 大きい
すぐ見られるか そのまま見られる 現像が必要
あとからの調整 限られる 自由度が高い
向いている人 手軽に撮りたい人 じっくり仕上げたい人

画像処理エンジンの進化

画像処理エンジンは、カメラの世代が進むごとに着実に進化してきた。各メーカーは自社のエンジンに固有の名前を付けており、キヤノンの「DIGIC (ディジック) 」、ニコンの「EXPEED (エクスピード) 」、ソニーの「BIONZ (ビオンズ) 」などがよく知られている。型番の数字が大きいほど、新しい世代であることが多い。

世代を重ねるごとに処理速度は飛躍的に高まり、高速連写や4K・8Kといった高精細な動画の記録が可能になった。暗い場所でのノイズ低減や色の再現も向上し、同じ撮像素子でも、新しいエンジンを積んだカメラほど高画質になることが多い。電力効率も改善され、電池のもちもよくなっている。

近年はAI処理に特化した回路を組み込み、被写体認識や自動補正をいっそう賢くする流れが進んでいる。画像処理エンジンは、もはや単に画像を作るだけの部品ではなく、カメラの知性そのものを担う中心的な存在へと育ってきた。今後も、撮影者を支える頼もしい頭脳として進化を続けていくであろう。
おもなメーカーの画像処理エンジン名
メーカー 画像処理エンジンの名称
キヤノン DIGIC(ディジック)
ニコン EXPEED(エクスピード)
ソニー BIONZ(ビオンズ)
富士フイルム X-Processor(エックスプロセッサ)
パナソニック ヴィーナスエンジン
オリンパス/OMデジタル TruePic(トゥルーピック)

参考サイト

(この項おわり)
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