4.8 バックアップの基本

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外付けHDDが認識されず困っている(イメージ)
デジタル写真には、フイルム時代にはなかった弱点がある。何の前触れもなく、一瞬で全部消えることである。押し入れのアルバムは、20年放っておいても色があせるだけで写真そのものは残る。しかしハードディスクは、ある朝つないだときに「フォーマットされていません」と表示されるだけで、中の数万枚が読めなくなる。
写真は、撮り直せないデータである。昨日の子どもの表情も、去年の桜も、二度と同じものは撮れない。だからこそ、保存先を1か所にしないことが唯一の対策になる。本項では、写真データが失われる原因、外付けHDD・SSDとクラウドストレージとNASの使い分け、そして世界共通の目安となる3-2-1バックアップの考え方を解説する。難しい機材は要らない。外付けドライブ1台とクラウド1つ、それを続ける習慣があれば十分である。

目次

写真データは消えることがある

まず前提を共有しておきたい。記憶装置は、いつか必ず読めなくなる。ハードディスク(HDD)は磁気ディスクを毎分5400〜7200回転させる機械であり、軸受けやヘッドが摩耗する。SSDやメモリーカードは可動部品を持たないが、記録の担い手が電荷であるため、書き換え回数と時間の経過とともに劣化する。どちらも「壊れるかどうか」ではなく「いつ壊れるか」の問題である。

しかも、写真が失われる原因は故障だけではない。整理中に別のフォルダーを上書きしてしまう、「不要」と思って選択したまま削除する、といった自分の操作による消失は、故障よりずっと頻度が高い。さらに、ランサムウェア(データを暗号化して身代金を要求する不正プログラム)、落雷による過電圧、水害、火災、盗難、置き忘れもある。

原因の種類が違うということは、1種類の対策では防げないということである。外付けHDDにコピーしておけば本体の故障には勝てるが、家が火事になれば両方燃える。だから、性質の違う保存先を組み合わせる。これが後述する3-2-1の考え方につながる。
写真データが失われる主な原因
原因起こり方効く対策
ドライブの寿命・故障認識しない、異音、フォーマットを促される別のドライブへのコピー
誤削除・上書き整理中の選択ミス、同名ファイルの上書き世代を残すバックアップ、ゴミ箱・履歴
ランサムウェアつながっている全ドライブが暗号化される常時接続しないコピー(オフライン)
火災・水害・落雷家の中の機器がまとめて失われる別の場所に置いたコピー、クラウド
盗難・紛失ノートパソコンや持ち出し用SSDごと失う自宅据え置きのコピー、暗号化
サービス終了・アカウント停止クラウドから取り出せなくなる手元にもオリジナルを持つ

パソコンだけに保存しない

「写真はパソコンに入れてあるから大丈夫」という状態は、バックアップがゼロである。オリジナルが1つあるだけで、控えは存在しない。まず確認したいのは、次の2つの誤解である。

1つめは、同じドライブの中に別フォルダーを作ってコピーすること。これは控えにならない。ドライブが壊れれば、コピー元とコピー先が同時に消える。控えは必ず別の装置に置く。

2つめは、同期とバックアップの混同である。OneDriveやGoogleドライブ、iCloudの同期フォルダーは、手元で削除するとクラウド側でも削除される。ファイルが壊れれば、壊れたファイルが向こうにも反映される。同期は「どの機器からも同じものが見える」ための仕組みであり、過去に戻る仕組みではない。多くのサービスはゴミ箱に30日前後、有料プランならバージョン履歴を残すので、その保持期間が自分の気づく速さに見合っているかを確認しておきたい。

なお、持ち歩くノートパソコンは、落下、飲み物をこぼす、盗難という、据え置き機にはないリスクを負っている。写真のオリジナルの置き場所は自宅の据え置き環境にし、ノートパソコンには作業中のものだけを置くほうが安全である。

外付けHDD・SSD

最初のバックアップ先としては、USBでつなぐ外付けドライブが手軽である。HDDとSSDのどちらを選ぶかは、置き場所と持ち出しの有無で決まる。

HDDは、容量当たりの値段が安く、数TBの大容量を確保しやすい。反面、可動部品があるので動作中の衝撃に弱く、音と発熱がある。自宅に据え置いて、写真全体をまるごと保管する用途に向く。

SSDは、読み書きが速く、衝撃に強く、手のひらに収まる大きさである。容量単価はHDDより高い。撮影旅行に持ち出して、その日の写真をカードからコピーしておく用途に向く(「4.1 写真データの取り込みと確認」参照)。

容量は今ある写真の総量の3倍程度を目安にする。数年分の増加を見込むと、すぐに埋まる。WindowsとMacの両方でつなぐなら、フォーマットはexFATを選ぶ。NTFSはMacから書き込めず、APFSやHFS+はWindowsから読めない。

置いておくだけの落とし穴もある。何年も通電しないまま放置したHDDは、軸のグリスが固まって回らなくなることがある。年に一度はつないで、実際に写真が開けるかを確かめる。5年程度を目安に新しいドライブへ移し替えたい。ドライブは消耗品である。
写真の保存先の比較
保存先長所短所・注意向く役割
外付けHDD容量単価が安い、大容量衝撃に弱い、寿命がある自宅据え置きの全量保管
外付けSSD高速、小型、衝撃に強い容量単価が高い持ち出し、撮影旅行中の控え
クラウドストレージ別の場所に置ける、自動化しやすい月額費用、アップロードに時間、解約・終了リスク災害・盗難に備える遠隔の控え
NAS家中の機器から使える、大容量初期費用と設定、これ自体も故障する家族共有の写真置き場
光ディスク(BD-R)電気なしで保管できる、書き換えられない容量が小さい、ドライブが減っている特に大切な写真の追加コピー
メモリーカード紛失しやすい、容量単価が高い保存場所には使わない

クラウドストレージ

クラウドストレージにバックアップ
クラウドストレージの価値は、容量ではなく保管場所が自宅の外にあることにある。火災、水害、盗難で家の中の機器がまとめて失われても、クラウドのコピーは残る。個人が「別の場所に控えを置く」ことを現実的な手間で実現できる、ほぼ唯一の方法である。
代表的なサービスには、Google One(無料枠15GB)、iCloud+(無料枠5GB)、Amazon Photos(プライム会員は写真のみ容量無制限、動画は5GBまで)、Microsoft OneDrive、Dropboxなどがある。料金や容量は改定されるので、契約前に各社の最新のプラン表を確認したい。

無料枠は、写真のバックアップにはまず足りない。RAWは1枚25〜50MBあるので(「4.2 JPEGとRAWの違い」参照)、15GBは数百枚で埋まる。有料プランを前提にするか、クラウドにはJPEGだけを上げてRAWは外付けドライブに任せる割り切りも現実的である。

使うときの注意点を挙げる。
  • 「容量を節約して保存」の設定は、画質を落とした圧縮版である。控えにするならオリジナル画質を選ぶ。
  • 同期フォルダー方式は削除も同期される。バックアップ目的ならアップロード(片方向)の設定にする。
  • 初回のアップロードは、上り回線の速度によって数日かかることがある。夜間に動かす。
  • 2段階認証を必ず設定する。乗っ取られたり入れなくなると、控えを一度に全部失う。
  • 解約するときは、先に全部ダウンロードする。猶予期間を過ぎるとデータは削除される。

NAS

NAS(Network Attached Storage、ネットワーク接続型記憶装置)は、家庭内のLANにつなぐ小型のファイルサーバーである。パソコン、スマホ、タブレットのどれからでも同じ写真置き場を参照できるので、家族で写真を共有したいとき、あるいは写真の総量が数TBに達したときに検討する価値がある。

多くのNASは、内蔵ドライブを2台以上入れてRAID 1(ミラーリング。2台に同じ内容を書く)を組める。1台が故障しても、もう1台で運転を続けられる。ここで最も大事な注意点を書いておく。RAIDはバックアップではない。RAIDが守るのはドライブ1台の故障だけであり、誤削除、ランサムウェア、NAS本体(電源やコントローラー)の故障、火災、盗難には無力である。

したがって、NASを導入しても控えの数は増えない。NASは「3つのコピー」のうちの1つと数え、その上で外付けドライブやクラウドへの控えを別に用意する。多くのNASには、接続した外付けHDDやクラウドサービスへ自動バックアップする機能があるので、それを使う。

外出先から使えるようにインターネット公開すると、不正アクセスの対象になる。管理者パスワードを初期値から変え、ファームウェアを更新し続ける。負担に感じるなら、外部公開せず家庭内だけで使う設定にとどめたい。初心者にNASは必須ではない。

3-2-1バックアップ

3-2-1バックアップの図解:3つのコピー、2種類の保存先、1つは別の場所
大きな写真大きな写真
(1672×941 ピクセル, 189 Kbyte)
バックアップの世界で広く使われている目安が3-2-1バックアップである。難しく考えなくてよい。覚えることは3つだけである。
  • 3……同じ写真のコピーを3つ持つ(オリジナル1つ+控え2つ)
  • 2……2種類の保存先に分ける(内蔵ドライブと外付け、ドライブとクラウドなど)
  • 1……そのうち1つは自宅とは別の場所に置く
なぜ2種類に分けるのか。同じ種類の機器は、同じ原因で同時に壊れるからである。同じ日に買った同じ型番のHDD2台は、寿命の来る時期も近い。同じ電源につながっていれば、落雷の過電圧を同時に受ける。種類を変えることで、原因の重なりを避ける。

なぜ1つを別の場所に置くのか。火災、水害、盗難は、部屋単位、家単位で起こるからである。机の上に3台並べても、この1つは満たせない。個人にとって最も手軽な「別の場所」はクラウドである。ほかに、実家に外付けHDDを1台預ける、職場のロッカーに置く、といった方法もある。

企業では、これに「1つはオフライン」「復元テストのエラーは0」を足した3-2-1-1-0という言い方もされるが、個人の写真管理では3-2-1が満たせていれば十分である。
3-2-1バックアップの具体例(外付け+クラウド)
置き場所中身更新のしかた
コピー1パソコンの内蔵ドライブ写真のオリジナル(作業用)取り込みのたび
コピー2自宅の外付けHDD写真フォルダーの全量取り込みのたび、または週に一度
コピー3クラウドストレージ全量、または星3以上とJPEG自動アップロード
2種類内蔵ドライブ/外付けドライブ/クラウドで、3種類を確保できている
1つは別の場所クラウドが自宅外のコピーにあたる。実家に預けた外付けHDDでも代わりになる

メモリーカードを保存場所にしない

「カードが安くなったから、撮ったらカードごと保管して新しいカードに入れ替える」という運用を考える人がいる。手間はかからないが、これは勧められない。理由を挙げる。
  • 紛失しやすい。SDカードは切手より小さく、microSDは1円玉より小さい。机の隙間に落ちれば見つからない。
  • 物理的に弱い。端子の汚れ、静電気、曲げ、水濡れで読めなくなる。抜き差しのたびに劣化する。
  • 長期保管に向かない。フラッシュメモリはセルに閉じ込めた電荷でデータを保持しており、通電しない状態が何年も続くと電荷が抜けていく。これはメーカーも案内している(SDメモリカード よくあるご質問)。
  • 容量単価が高い。同じ金額で、外付けHDDなら10倍以上の容量が買える。
  • どこに何が入っているか分からなくなる。カードが20枚30枚になると、中身を探すだけで一苦労である。フォルダー名やキーワードによる整理(「4.7 写真データの整理方法」参照)が効かない。
正しい流れは、取り込む→控えを作る→カードをフォーマットして再利用である。カードを消すのは、必ずバックアップまで終わってからにする。なお、撮影旅行の途中で「まだパソコンに取り込めない」という状況では、撮影済みのカードを外して新しいカードに交換し、一時的な二重化として持ち帰るのは有効な手段である。あくまで移動中の一時的な措置であり、帰宅後は速やかに取り込む。

カードそのものは、信頼できる店で名の通ったメーカーのものを買う。安価な大容量カードには偽物や粗悪品があり、書き込み中にエラーを起こす。そして2〜3年で交換する。カメラの記録エラーは、たいていカードの劣化が原因である。

定期的なバックアップ習慣

カレンダーに印を付けて毎月のバックアップを確認する(イメージ)
どんなに立派な構成を組んでも、更新されていないバックアップは役に立たない。1年前の控えしかなければ、この1年の写真は失われる。だから、続く形にすることが最も大事である。

第一に、取り込みとバックアップを1つの作業にする。「カードから取り込む→外付けドライブにコピーする→カードをフォーマットする」を、いつも同じ順番で行う。別の日にやろうとすると、たいてい忘れる。
第二に、手作業を減らす。Windowsならファイル履歴、MacならTime Machineで、外付けドライブへの自動バックアップを設定できる。フォルダーの内容をそのまま複製したいなら、FreeFileSyncやBunBackupのようなミラーリングソフトを使う。クラウドは自動アップロードをオンにしておく。

第三に、本当に戻せるかを確かめる。バックアップの失敗で最も多いのは、「取っているつもりだった」である。月に一度、控えのほうから写真を1枚開いてみる。開けなければ、その控えは存在しないのと同じである。ファイル数やフォルダーの容量を、コピー元と見比べるのもよい。

第四に、機器の状態を見る。年に一度、外付けドライブのS.M.A.R.T.情報(ドライブ自身が持つ健康状態の記録)を確認し、警告が出ていれば、読めるうちに新しいドライブへ移す。異音がしたら、その時点で使うのをやめる。
バックアップの点検スケジュール
頻度やること
撮影のたびカードから取り込み、外付けドライブにコピーしてから、カードをフォーマットする
週に一度写真フォルダー全体を外付けドライブへ同期する(自動設定なら動いているか確認)
月に一度控えのほうから写真を1枚開いて、読み出せることを確かめる/クラウドの使用容量を見る
年に一度ドライブのS.M.A.R.T.情報を確認する/保管したままのドライブを通電して確認する/整理と重複の見直し(「4.7 写真データの整理方法」参照)
5年ごと外付けドライブを新しいものに交換し、データを移し替える

参考サイト

(この項おわり)
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