海堂尊の医療エンターテイメント

ノンフィクション分野
表紙 死因不明社会
著者 海堂尊
出版社 講談社
サイズ 新書
発売日 2007年11月
価格 990円(税込)
rakuten
ISBN 9784062575782
私は、Aiが制度として確立して欲しい、と祈るような気持ちで本書を上梓した。だが、そう言いながらも、このシステムが日本に根づかなければ、それはそれで仕方がない、という諦めの気持ちも半分混じっていることは、正直に告白しておきたいと思う。(13ページ)

ミステリー小説『チーム・バチスタの栄光』に登場する厚生労働省の変人役人・白鳥調査官に取材するという形式をとり、Ai(Autopsy imaging)という新しい医学検査概念を説明していく。小説の登場人物による対話形式というのは、ブルーバックスとしても初めての試みだという。

著者の海堂尊は現役の病理医。『チーム・バチスタの栄光』に始まる連作を読んでいて感じたのだが、これらは単なるミステリー小説を超え、医療崩壊や医療過誤に関し、社会へのメッセージを発信していた。それを「小説」ではなく、解説書として著したのが本作品であるようだ。

ちょうど、映画「チーム・バチスタの栄光」が公開され時津風部屋の力士暴行事件で解剖が後手に回ったことが社会問題となった。世論が主体となって医療問題を考える時期に来ている。
(2008年2月14日 読了)
表紙 ゴーゴーAi アカデミズムとの闘争4000日
著者 海堂 尊
出版社 講談社
サイズ 単行本
発売日 2011年02月
価格 1,760円(税込)
rakuten
ISBN 9784062167857
それにしても、しみじみ思う。Aiをして専門家にお願いし、きちんと費用を払いましょう。そんな単純な原則を実行したいだけなのに、なぜこんなに風当たりが強いのだろう。実に不思議なことである。(145ページ)

デビュー作『チーム・バチスタの栄光』が映画化やドラマ化され、いまや医療ミステリーの第一人者となった海堂尊の半生を描いた自伝。ご本業は小説家ではなく、現役の医師(病理医)。
それにしても、編集者が「けぷ」とメールに書いたように(333ページ)、とんでもないボリュームのドキュメンタリーである。しかも、全編にわたって毒だらけ。エンターテイメントな小説とは裏腹に、毒だらけの内容。医学界とはそういうところなんだ、官僚や警察・検察はやっぱりそうなんだ――と、私のような一般市民の興味をかき立てる。
ヨシタケシンスケさん(海堂さんの小説『医学のたまご』のイラストも担当)の挿絵が絶妙に毒抜きの役割を果たしている。

「Aiの概念が生まれた日は99年11月6日」(15ページ)。「患者遺族を招待し法要を営む慰霊祭の当日」に、うとうとしながら思いついたという。それから10年以上にわたり、医学界や官僚・警察の抵抗を受けながらもAiの普及に努める。
著者曰く「それにしても、しみじみ思う。Aiをして専門家にお願いし、きちんと費用を払いましょう。そんな単純な原則を実行したいだけなのに、なぜこんなに風当たりが強いのだろう。実に不思議なことである」(145ページ)――いや、それは無いでしょ、と突っ込みたくなった。海堂先生は弁が立ち過ぎて、相手の不快感を煽るような剛速球を投げることがありますってば(笑)。
うがった見方をすれば、歴史のある学会でそれなりの立場にあり、厚生労働省の研究会などの委員を歴任したことがあるような方がAiの普及に携わっていれば、それほど苦労はなかったはずである。日本はそういう国なのだと感じる今日この頃――。

私はAiに賛成である。
もし私の親族が「死因不明」の死に方をして、警察に「解剖してよろしいですか?」と問われたら、やはり躊躇すると思う。現実問題として、多くの遺族が私と同じような状況で解剖を避けているのではないだろうか。
そのとき、「まずはAi」という選択肢があれば、私は費用を払ってでもAiをしてもらうだろう。それから「解剖」という段取りなら、たぶん納得できる。
こういうことは、学校や家族の中で、もっと議論した方がいいと思う。医学界や官僚・警察の問題ではないからだ。

老婆心ながら、本書を通読して「けぷ」と感じたら、2ページと440ページを読み返していただきたい。本書で言わんとしていることは、それほど難解ではない。
(2012年7月7日 読了)
表紙 外科医 須磨久善
著者 海堂尊
出版社 講談社
サイズ 単行本
発売日 2009年07月
価格 1,257円(税込)
rakuten
ISBN 9784062155830
困っている人をどれだけ助けられるか、ということが医療の本道です(156ページ)

本書は、現役医師である医師が現役心臓外科医・須磨久善(すま・ひさよし)の業績を紹介するという内容になっている。
じつは、本書の著者・海堂尊が作家デビューした『チーム・バチスタの栄光』でミステリーのプロットに用いているバチスタ手術を、日本で初めて行ったのが須磨久善なのだ。

「難手術をし損じて患者が亡くなれば医療訴訟になる」(50ページ)ご時世だが、それでも医療技術発展のため、ひいては難病患者を救うために、須磨久善はあえてリスクをとる。「日本で言ってもダメなら米国で認めてもらえばいい」(72ページ)というスタンスである。

須磨は心臓移植に対してこんな考えを持っている――「選ばれた人だけに特殊な治療を施してどれだけ生存曲線を延ばすことができたか、というのも確かに医療ですけど、それは医療全体から見ればごく一部のこと。ですから移植も大切ですが、移植せず自分の心臓を直していくという道も模索しなくてはならないのです」(156ページ)。
いずれ人工血管が普及すれば、須磨の手術の多くは不要になる。それでも、普及するまでの間、一人でも多くの患者を救おうと、須磨は果てしない努力を積み重ねる。

須磨は「一人前になるには地獄を見なければならない。だけどそれでは所詮二流です。一流になるには、地獄を知り、その上で地獄を忘れなくてはなりません。地獄に引きずられているようではまだまだ未熟ですね」(204ページ)と語る。
この人は壮絶な努力家である。
(2010年5月9日 読了)
表紙 トリセツ・カラダ
著者 海堂尊
出版社 宝島社
サイズ 単行本
発売日 2009年11月
価格 1,047円(税込)
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ISBN 9784796673082
『チーム・バチスタの栄光』ベストセラー作家が、現役医師の立場から書いたカラダの取扱説明書。カラダのミステリーを解き明かそう。
 
この項つづく
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