『コンクリートが危ない』――建設から保全へ

小林一輔=著
表紙 コンクリートが危ない
著者 小林一輔
出版社 岩波書店
サイズ 新書
発売日 1999年05月
価格 820円(税込)
rakuten
ISBN 9784004306160
私は、コンクリート構造物が一斉に壊れはじめる時期が、30年後よりもはるかに早い2005~10年頃までにやってくる可能性が高いと考えている。(27ページ)

概要

著者は、コンクリート工学が専門の小林一輔さん。コンクリートはなぜ固まるのかといった原理から、コンクリート建築の手順、劣化のメカニズム、現存するコンクリート建築の問題点などを具体的にわかりやすく説明する。

レビュー

阪神大震災で、山陽新幹線のコンクリート橋脚の内部から「鉄筋の切れはし、空き缶、角材(木材)、発泡スチロールなどじつに多彩なもの」(127ページ)が出てきたという下りはショッキングである。小林さんによれば、「山陽新幹線の高架橋は列車の走行によって、ある日突然、床板が破壊するという危険にさらされている」(69ページ)そうだ。
ンクリートをつくるためには、セメント1トンに対して約7トンの岩石が必要だが、西日本での供給状況は厳しい。そのため、瀬戸内海の海底を掘り、海砂を利用してきた。ところが、海水に含まれる塩分が、アルカリ骨材反応を起こし、鉄筋を腐食させるため、コンクリートの寿命を短くしてしまう。
このため1970年代に生産されたコンクリートは、戦前に比べて寿命が短いとみられる。小林さんは、「コンクリート構造物が一斉に壊れはじめる時期が、30年後よりもはるかに早い2005~10年頃までにやってくる可能性が高い」(27ページ)と警鐘を鳴らす。

マンションのコンクリートの安全性を調べる手順も紹介されているが、「コンクリート構造物の致命的ともいえる弱点は、完成後にその品質をチェックする方法がない」(152ページ)という。
小林さんは、「構造物からコア試料を採取して圧縮強度を調べる」(199ページ)ことを提案する。

その後も、笹子トンネル崩落事故(2012年12月)をはじめ、高架橋などからのコンクリ片の落下事故は枚挙にいとまがない。私たちは新規にハコ物を作る時代から、それを保全する時代へと移行しなければならない。
(2005年01月13日 読了)

参考サイト

(この項おわり)
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