『プラネタリウムを作りました。』――美しいものを作りたい

大平貴之=著
表紙 プラネタリウムを作りました。
著者 大平貴之
出版社 エクスナレッジ
サイズ 単行本
発売日 2003年06月
価格 1,980円(税込)
ISBN 9784767802510
都会の人間が美しい星空を見られなくなったのは、わずかここ数十年のことだ。けれども僕らの遺伝子は、たかが数十年で変わることはない。美しい星空をしっかり覚えている。だから自然と、星空を求めるのだ。(218ページ)

概要

プラネタリウムのイラスト
100万個の星を投影できるプラネタリウム「メガスター」の製作者である大平貴之 (おおひら たかゆき) さんの自伝である。
私も星が好きで、学生時代にプラネタリムを操作していたが、100万個というのは途方もない数である。しかも、すべて自作で、持ち運べるほどの大きさなのである。その製作段階から情報はキャッチしていたのだが、残念なことに、まだ実物を見る機会に恵まれていない。
ロケットづくりからプラネタリウムづくりへ――良い指導者・協力者に恵まれたこともあるだろうが、大平さんの凄いところは、すべて一人で作ってしまうことだ。化学薬品の扱いから、光学系、電装系、制御系、コンピュータ系、そして英語のスピーチまで、いろいろな専門家に教わった技術、ノウハウをすべて自分のモノにしていく過程が本書から読み取れる。それも「趣味」としてやっているのだから、恐れ入る。

仕事では効率が優先されるから、作業が専門性・分業制になっていくのは当然のことである。しかし思うのだが、技術者として、人間として、イチからすべてを組み立てられる経験は大切なことではないだろうか。
趣味で、イチからプラネタリウムを組み立てるのもいい。私なら、イチからOSをつくりたい。ネットワーク、データベース、言語などの専門SEを集めてOSをつくれば、高機能で安定したOSができるかもしれない。でも、それは「仕事」であって、「趣味」ではない。人生を豊かにするのは、「仕事」ではなく「趣味」だと思う。
また、料理や洗濯、子どもの教育といったような「家庭」の作業も、自分ですべてをこなさなければならない。本来、分業や外注はできない性質のものである。分からないことは、祖父母や近所の年寄りに教えてもらって、それを家庭に役立てるのも、「人生」として当然のことである。
大平さんの生き方は、現代人が忘れかけている大切なことを再認識させてくれる。
(2006年11月25日 読了)

参考サイト

(この項おわり)
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