『日本SF精神史』――楽しい文学史・近代史

長山靖生=著
表紙 日本SF精神史
著者 長山靖生
出版社 河出書房新社
サイズ 全集・双書
発売日 2009年12月
価格 1,320円(税込)
ISBN 9784309624075
尾崎行雄本人もSF的な小説を書いていた。(53ページ)

概要

海底軍艦「轟天号」
海底軍艦「轟天号」
先日、SF界の重鎮・小松左京さんが亡くなった。小松さんを偲んで、本書を手にした。幕末から昭和40年代に至るまで、日本のSFの変遷について紹介している。
近代史や文学史という教科書的な話ではなく、自分に連なっている歴史を知ることができ、じつに興味深い内容でる。

レビュー

著者によると、ペリー艦隊の来航に刺激され、「儒学者の巌垣月洲が1857年に書いたとされる『西征快心編 (せいせいかいしんへん) 』」(14ページ)が最初のSFという。この本の主人公は「世界の秩序を回復させると、領土を拡張することなく自国に戻る」(16ページ)という、儒学の思想に基づいた理想的な人物であった。

明治期に入ると、「尾崎行雄が『科学小説』の語を提示したのが1886年で」(84ページ)、技術者出身の幸田露伴や、星新一の父で星製薬を興した星一がSFを書いている。
そして、「冒険小説界をリードすることになる押川春浪が『改訂冒険奇譚 海底軍艦]』を文武堂から刊行して本格的にデビューしたのは1900年11月」(110ページ)になる。
大正期に入ると、ミステリー作家の江戸川乱歩が活躍するようになった。彼の門下に集まった一人、海野十三は現代のSFの直接の先祖とも言える存在である。晩年の海野が才能を認めたのが手塚治虫だった。
戦後になると、「星に続いて、『宇宙塵』の同人からは、小松左京、筒井康隆豊田有恒眉村卓平井和正光瀬龍加納一朗石川英輔広瀬正などが次々とプロデビューしていく」(187ページ)ことになる。
「昭和31年7月に『日本空飛ぶ円盤研究会』が発足した」(182ページ)が、この中には作家の石原慎太郎(現東京都知事)や三島由紀夫が名を連ねていた。調べてみると、石原さんはネッシー探検隊を結成し隊長としてネス湖に行ったこともあるという。さらに、2007年に政府が「UFOの存在は確認していない」という答弁書を出したことに対し、「私も見たいと思いますけどね」と答えている。

本書の最後に紹介されている『日本SFシリーズ』が刊行された時期に生まれた私の少年時代はSFの黄金期だった。小松左京さんの『[日本沈没日本沈没』に恐怖し、星新一さんのブラックユーモアに笑った。筒井康隆、豊田有恒、平井和正、大伴昌司、野田昌宏‥‥こうした人たちの作品を図書館でむさぼるように読んだ。
SF/空想科学小説といって馬鹿にしてはいけない。本書で紹介されているように、開国から今日まで、太平洋戦争という弾圧期はあったにせよ、SFは常に自由な上昇志向に支えられてきた。
(2011年8月13日 読了)

参考サイト

(この項おわり)
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