『宇宙はどこまで行けるか』――小型高速炉エンジンは実現するか

小泉宏之=著
表紙 宇宙はどこまで行けるか
著者 小泉宏之
出版社 中央公論新社
サイズ 新書
発売日 2018年09月20日
価格 1,080円(税込)
rakuten
ISBN 9784121025074
小型高速炉「4S」の発生電力は10メガワット(1万キロワット)で、30年間燃料交換なしで作動する。(269ページ)

概要

小惑星探査機「はやぶさ」
小惑星探査機「はやぶさ」
著者は、小惑星探査機「はやぶさ」のイオンエンジン運用および帰還時の力プセル回収隊の本部班としてオーストラリアでの回収に従事した小泉宏之さん。イオンエンジンなど推進系の世界最小クラス開発のトップランナーでもある。

電気推進というキーワードで、原子力ロケットや反物質ロケットのようなSF大道具を持ち出さなくても、太陽系外縁の探査も可能になる時代が来そうだ。

レビュー

スペースX社
スペースX社
まず、スペースX社の話から始まる。
スペースX社を創設したイーロン・マスク氏は、プログラマ出身で、PayPal社を設立した。スペースXが商売上手なのは、定価を明示して、大量受注・大量打ち上げを行っていること。また、第1段ロケットを回収し、製品のテスト・改良実験に流用しているという。
RS-68エンジン
RS-68エンジン
次に、ロケット・エンジンや、人工衛星の姿勢制御の仕組みを図入りで解説する。
静止衛星にはロケットエンジンが必要だが、近年、電気推進を使うものが出てきているという。化学燃料に比べて推進剤の重量が格段に減り、人工衛星の総重量が半分になる。その分、打ち上げコストも安くなる。
はやぶさのイオンエンジン
はやぶさのイオンエンジン
小惑星探査機「はやぶさ」が電気推進の一種イオンエンジンを用いていたのは有名な話だが、このイオンエンジンについてかなりのページ数を割いている。とくに、小泉さんが携わった、小型衛星(キューブサット)に搭載した「アイクーズ」エンジンの開発苦労話は興味深い。
バリュート
バリュート
また、大気圏突入方法として、ガンダムに登場した「バリュート」に触れている。東京大学とJAXAを中心に研究が進められているそうだ。
有人火星探査
有人火星探査
第6章では、有人火星探査について考察する。実現可能な技術を使って6人を火星に送り込む「R計画」を想定し、粗々の見積と断りながらも、推進剤を含めた宇宙船の重さは約1000トン、国際宇宙ステーションの3倍の重さであることから、打ち上げに1兆円以上、開発費を含めると10兆円以上のプロジェクトになると予測している。
ボイジャー1号
ボイジャー1号
さらに、外惑星探査に用いられるスイングバイ技術と原子力電池について解説する。意外だったのは、原子力電池の変換効率が悪いこと。1kgあたり540Wの熱量を、わずか5Wの電力にしか変換していないそうだ。
それでも、太陽光が弱まる木星以遠では威力を発揮する。また、プルトニウム238の半減期は88年だから、88年しても発電力は半分残るという長寿命電池だ。

第8章では太陽系外探査を考える。
小型原子力発電を使ったイオンエンジンと、限界に近いスイングバイの組み合わせで、太陽系脱出速度として秒速250キロが出せるという。ボイジャー1号の15倍のスピードだ。それでも、最も近い恒星アルファ・ケンタウリに到達するのに5千年かかる。
SFで登場する反物質推進は望み薄だ。CERNの巨大粒子加速器をフル稼動しても、反物質を1グラム作るのに10億年もかかるからだ。
(2018年10月07日 読了)
(この項おわり)
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