『「分かりやすい文章」の技術 新装版』――プログラマにおすすめ

藤沢晃治=著
表紙 「分かりやすい文章」の技術 新装版
著者 藤沢 晃治
出版社 講談社
サイズ 新書
発売日 2025年04月24日頃
価格 1,100円(税込)
ISBN 9784065386309
推敲作業を進める上での重要な基準を与えてくれるのが、「文章の目的」を意識し続けることです。書くときも、推敲するときも、「そもそも、何の目的でこの文章を書いてるんだっけ?」と自問し続けることが大切です。

概要

『「分かりやすい文章」の技術 新装版』(藤沢晃治=著)
著者は、「チェスを指すプログラム」を大学の卒論として執筆し、大手メーカーでソフトウェア・エンジニアとして勤務した経歴を持つ藤沢晃治 (ふじさわ こうじ) さん。在職中に執筆した『「分かりやすい文章」の技術』『「分かりやすい表現」の技術』『分かりやすい説明」の技術』の3部作がベストセラーとなり67部以上を販売。本書は処女作『「分かりやすい文章」の技術』の新装版である。
まず冒頭で藤沢さんは、文章には、小説やエッセイなどの芸術文と、意見、情報、研究成果などを伝達、発表する実務文の2種類があり、本書では実務文を扱うと宣言する。
次に、短期記憶を脳内関所、長期記憶を脳内辞書と呼ぶ。情報は脳内関所を通るとき、脳内辞書を1冊選ぶ。つまり、われわれは新しい情報が入ってきたとき、脳内辞書に収められている古い情報と照合することで、初めて「分かった」という状態になる。ということは、分かりやすい情報というのは、脳内関所が容易に脳内辞書を選べるような構成になっている必要がある。AI研究者ならではの発想だ。
また、実務文は、全文を必ず読んでくれるという前提で書いてはいけないとい。なぜなら、取扱説明書のような実務文は、斜め読みされたり、読むことを中途放棄されたりすることがあるからだ。実務文は、たとえ斜め読みされても書き手の意図が伝わらなければならないからです。これを藤沢さんは斜め読み耐性と呼ぶ。

要点を先に書く」のは、文章のあらゆるレベルに適用できるテクニックだ。ただ、あくまでも原則論で、たとえば短い段落なら、逆に冒頭に主題文を置かず最後に主題文だけを置くという方法でも差し支えない。
「分かりやすい文章」にするためには、できるだけ主要段落や主題文と、支援段落や支援文だけで構成し、それ以外の無駄な文章を含まないようにすることだ。
文章のレイアウトにおける空白行は階段の踊り場のようなもので、連続した100段の階段を登るのと、10段ごとに踊り場がある階段を登るのとでは、どちらが楽かは明らかだろう。
文章の対応関係には「親子関係」と「並列関係」がある。見出しは、文章に「斜め読み耐性」を与える。「見出し」は主題文をさらに要約して、15字以内にできれば理想的だ。

一般的に主張「A→B」には2つの弱点がある。1つは「A」が真実かどうか疑わしいという点。2つめは「AだからBだ」という「→」(因果関係)が真実であるかどうか疑わしい点。この2つの弱点をあらかじめ補強すること、そのために「どうして?」と自問することが、説得力のある文章を書く技術の1つである。
読み手の世界観を想像することができなければ、読み手を説得する文章は書けない。読者の感情を理解し、読者層を想定することも、わかりやすい文章を書くのに必要なことだ。感情を持つ人間を相手にするということは、論理力が説得力のすべてではないことになる。
とはいえ、「『書き手も同様に感情を持つ人間だ』と開き直ってはいけません」と、藤沢さんはアドバイスする。実務文では、書き手は感情のないふりをしなければならないのだ。

藤沢さんは、センテンスの長さは平均40字以下にするのがいいという。英語の場合、就職した以後の後に修飾節を置くが、日本語はその逆だ。このため、読み手の理解を妨げる場合がある。修飾節が長くなった場合は、独立したセンテンスにすることも1つの手段だ。箇条書きにしたり、センテンスを節単位にする方法もある。ちょっと複雑な主張があれば、それに短いキーワードをつけるのも効果的だ。

藤沢さんによれば、ちょっと長い文章になると「書く」作業は全体の半分に過ぎず、残り半分は推敲作業になるという。推敲作業を進める上での重要な基準を与えてくれるのが、「文章の目的」を意識し続けることだ。
文章のムダ・ムラを省くことで、読み手の負担を軽減し、分かりやすく意図を伝達する「機能美」を持つ実務文を完成させることができる。

レビュー

『「分かりやすい文章」の技術 新装版』(藤沢晃治=著)
プログラミング言語を習得している著者が書いているだけあって、私たちプログラマにとって読みやすい「文章読本」だ。冒頭で本書の目的が明らかにされ、それを達成するための各機能が順を追って記述され、その中身がさらにオブジェクト化されており、判定基準が箇条書きになっている。ある意味、システム仕様書の鑑である。
最終章(第8章)に、本書のチェックポイントがリスト形式で並んでいる。実用文やシステム仕様書を1本書いたら、このチェック・リストを使ってチェックしてみてはどうだろうか。きっと、あなたの文章スキルをアップできるだろう。
読みやすい文字数を確認するのに、「ぱふぅ家のホームページ」で公開している「PHPでクラスを使ってテキストの読みやすさを調べる」が役立つだろう。
なお、本書はあくまで実務文を書くための「文章読本」で、小説を書くためのものではないので、念のため。
(2025年9月3日 読了)

参考サイト

(この項おわり)
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