ランサムウェアによる個人情報漏洩

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データを暗号化して身代金を要求するランサムウェア
ランサムウェアは、身代金を意味する「ransom」とソフトウェアを組み合わせた造語です。パソコンやスマートフォンの中のデータを勝手に暗号化して使えない状態にし、元に戻す見返りとして金銭を要求する悪意あるプログラムです。感染すると、書類や写真が一斉に開けなくなり、画面には支払い期限を示す脅迫文が表示されます。追跡を避けるため、支払いは暗号資産で求められることが多くあります。
かつてのランサムウェアは、データを暗号化するだけでした。そのため、別の場所にバックアップを保管しておけば、身代金を払わずに復元できました。しかし現在は、暗号化する前にデータを盗み出し、「払わなければ盗んだ情報を公開する」と脅す二重脅迫(ダブル・エクストーション)が主流です。「ファイルが使えなくなるだけ」では済まなくなっています。

警察庁によると、2025年(令和7年)に日本国内で報告されたランサムウェアの被害は226件でした。被害を受けた組織は中小企業が約6割、業種別では製造業が約4割を占め、復旧に1,000万円以上を要した組織が5割を超えています。情報セキュリティ10大脅威 2026でも、「ランサム攻撃による被害」が組織編の1位に選ばれました。

最近は、暗号化を行わずデータを盗むだけで公開を予告する「ノーウェアランサム」も確認されています。米国のセキュリティ企業Proofpointが2026年(令和8年)7月に公表した「2026 AI-Era Ransomware Report」では、12か国953人のセキュリティ担当者のうち84%が過去1年間にランサムウェアの事案を経験し、被害の約3分の2でデータの窃取が確認されたと報告されています。

目次

個人情報が流出するとどうなるのか

個人情報が攻撃者の手に渡ると、次の三つの問題が起こります。
プライバシーが暴露される
氏名、住所、電話番号、クレジットカード情報、身分証明書の画像、健康状態、個人の写真やメールのやり取りなどが、ダークウェブと呼ばれる匿名性の高いネットワークや、攻撃者が運営する暴露サイトに公開されます。いったん公開された情報は世界中に複製されるため、完全に回収することはできません。
二次被害の標的になる
流出した連絡先や取引の履歴をもとに、本人や家族、友人に向けて、実在の相手を装った詐欺メールやSMSが届くようになります。本物の情報が含まれているため見分けが難しく、フィッシング]やなりすましの成功率が上がります。
自分以外の人にも被害が及ぶ
学校やアルバイト先が感染した場合、流出するのは自分の情報だけではありません。顧客、生徒、患者、取引先の個人情報まで漏えいし、組織は説明責任、損害賠償、社会的信用の低下という重い負担を負います。
2025年(令和7年)9月29日にランサムウェア攻撃を受けたアサヒグループホールディングスでは、サーバー内のファイルが暗号化されたうえでデータを窃取され、攻撃者を名乗る集団が同年10月にダークウェブ上へ情報を公開しました。同社が2026年(令和8年)7月17日に公表した時点で、漏えいのおそれがある個人情報は約228万9,000件、そのうち漏えいが確認されたものは11万5,513件です。対象は、お客様相談室への問い合わせ者、従業員とその家族、取引先の役員・従業員などに及びました。

2024年(令和6年)6月に攻撃を受けたKADOKAWAでは、25万4,241人分の個人情報が漏えいしました。対象には、同社グループが運営する通信制高校の在校生・卒業生の氏名や学歴、取引先の情報が含まれ、攻撃者はダークウェブ上に情報を公開しました。侵入の端緒は、従業員のアカウント情報の流出でした。自分が直接だまされていなくても、情報を預けた先が攻撃されれば被害者になり得るということです。

なぜ手口が巧妙化しているのか

二重脅迫(ダブル・エクストーション)の仕組み
攻撃者が二重脅迫を選ぶのは、収益を確実にするためです。まずデータを暗号化して業務を止め、復旧のための身代金を要求します。そのうえで「支払わなければ盗んだ個人情報を公開する」と、二段目の脅迫を重ねます。組織がバックアップからデータを復元できたとしても、攻撃者の手元にあるコピーは消せません。だからこそ脅迫が成り立ってしまいます。

バックアップは業務を早く再開するために欠かせませんが、「情報を公開されたくない」という圧力には効きません。Proofpointの調査では、身代金を支払った組織は54%に達し、そのうち37%が支払い後に再び恐喝を受けています。日本の支払い率は37%で、世界平均より低い水準です。

支払いは解決を保証しません。データが確実に戻る保証はなく、支払った事実は攻撃者にとって「この相手は払う」という情報になり、再攻撃を招きます。支払われた資金は攻撃グループの活動資金となり、次の被害者を生みます。加えて、同じ調査では、生成AIによって攻撃の実効性が高まったと回答した組織が65%に上りました。文面の作成や標的の下調べが自動化され、手口の精度が上がっています。

どのような経路で感染するのか

Proofpointの調査では、ランサムウェア被害の最初の侵入口として最も多かったのは、メールを使ったソーシャルエンジニアリングで34%でした。以下、システムの脆弱性の悪用が20%、流出した認証情報の利用が18%、リモートアクセスの侵害が15%と続きます。攻撃の起点は、技術的な穴よりも人の判断ミスを狙うものが多いということです。
フィッシングメールと不審な添付ファイル
宅配便の不在通知、金融機関やクラウドサービスを装った警告、請求書や見積書に見せかけた添付ファイルなどが使われます。調査では、不正なリンクが47%、不正な添付ファイルが46%で発端となっており、日本では添付ファイルの割合が71%と突出して高くなっています。
不正なWebサイトやダウンロード
海賊版ソフト、ゲームの改造ツール、無料をうたう動画変換ソフト、不審な広告の先にあるファイルなどにランサムウェアが仕込まれます。正規の配布元以外からソフトを入手する行為は、それ自体が危険です。
OSやアプリの脆弱性
更新を放置した古いシステムは、公開済みの弱点を自動的に探す攻撃の的になります。特に、社外から社内へつなぐVPN機器やリモート接続の仕組みは、常に外部から探索されています。
流出した認証情報
別のサービスから漏れたIDとパスワードを使い回していると、そのまま正規の利用者として侵入されます。KADOKAWAの事例も、従業員のアカウント情報の流出が端緒でした。
攻撃を検知できなかった理由として最も多かったのは、「本物らしく見えたので従業員が疑わなかった」で40%でした。生成AIの普及により、日本語の不自然さや文面の粗さといった、これまでの見分け方が通用しなくなっています。「怪しいメールは分かる」という前提そのものを見直す必要があります。

私たちができる対策

私たちができる対策
まず、個人でできる予防策です。
更新を欠かさない
OS、ブラウザ、アプリ、ルーターなどネットワーク機器のファームウェアを最新の状態に保ちます。自動更新を有効にし、サポートが終了した機器やソフトを使い続けないことが重要です(Windows Updateにまつわる不安)。
リンクと添付ファイルを開く前に確認する
差出人のアドレスだけでなく、「急がせる」「支払いを求める」「ログインを促す」という構図に注意します。心当たりのない添付ファイルは開かず、メール内のリンクではなく公式サイトやアプリから確認します(フィッシング詐欺に引っかからないために)。
多要素認証を設定する
パスワードが漏れても、もう一つの要素がなければログインできません。パスワードの使い回しをやめ、管理ツールの利用も検討します(現実的に利用可能で安全な多要素認証)。
バックアップを分離して保管する
外付けドライブは作業が終わったら接続を外し、クラウドと外部媒体など複数の方法で保管します。実際に復元できるかを定期的に確かめます。ただし、バックアップは情報漏洩を防ぐ手段ではありません。
手元に置く個人情報を減らす
個人情報は必要な範囲だけを保有し、不要になったものは適切に消去します。手元にない情報は盗まれません。
次に、もし感染したときの対応です。
ネットワークから切り離す
Wi-Fiを切り、LANケーブルを抜きます。共有フォルダや外付けドライブを介して被害が広がるのを止めるためです。ただし、電源を落とすと調査に必要な記録が失われることがあるため、可能であれば組織の担当者や専門家の指示を仰ぎます。
身代金は原則として支払わない
支払ってもデータが戻る保証はなく、再度の恐喝を招き、犯罪組織の資金源になります。
相談する
警察のサイバー事案に関する相談窓口や、IPAの情報セキュリティ安心相談窓口に相談します。欧州刑事警察機構などが運営する No More Ransom では、一部のランサムウェアについて無償の復号ツールが公開されています。
組織の場合は報告と通知を行う
個人情報が漏えいしたおそれがある場合、個人情報保護委員会への報告と、本人への通知が必要になります。事実、未確認の事項、利用者が取るべき行動を分けて説明することが、便乗詐欺や誤情報による二次被害を抑えます。
ランサムウェアの被害は、暗号化されたデータを取り戻す問題から、盗まれた個人情報が公開される問題へと変わりました。個人の注意だけで防ぎきることはできません。更新、認証、バックアップ、保有情報の最小化という複数の層で備え、どれか一つを突破されても次の層で止められる状態をつくることが大切です。

参考サイト

(この項おわり)
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