有害サイト・フィルタリングの是非

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2006年(平成18年)11月20日、総務省は、携帯電話における有害サイト・フィルタリングサービスの普及促進を図るため、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルおよび社団法人電気通信事業者協会に対し、自主的取組を強化するよう要請しました。
さらに2008年(平成20年)に入り、学校関係者や保護者に対するフィルタリングサービスの啓蒙をはかるように要請しました。
ところが、このフィルタリングをめぐり、さまざまな議論が巻き起こりました。

目次

背景

健全な情報を子供に見せる親のイラスト(スマホ)
未成年者が出会い系サイトなど有害サイトへアクセスし、事件に巻き込まれるケースが増えています。これを受け、総務省は有害サイトから未成年を守るための有害サイト・フィルタリングサービスに目をつけました。とくに保護者の目が届きにくい携帯電話からのアクセスについて、対策を急いでいます。

2006年(平成18年)11月20日、総務省は「有害サイトアクセス制限サービス(フィルタリングサービス)の普及促進に関する携帯電話事業者等への要請」を発行し、携帯電話における有害サイト・フィルタリングサービスの普及促進を図るため、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルおよび社団法人電気通信事業者協会に対し、自主的取組を強化するよう要請しました。
さらに、2008年(平成20年)2月16日、総務省、警察庁、文部科学省の連名で「携帯電話におけるフィルタリング(有害サイトアクセス制限)の普及促進について」を発行し、インターネット上の有害な情報から子どもを保護するため、都道府県、教育委員会および都道府県警察等に対し、携帯電話におけるフィルタリングの普及促進について、学校関係者や保護者をはじめ住民に対する啓発活動に取り組むよう依頼しました。

問題の発端

議論が起きたのは、携帯電話フィルタリングサービスのうち、NTTドコモとKDDI(au)が提供しているホワイトリスト方式でした。
ホワイトリスト方式は、携帯電話会社の公式サイトから有害の恐れのあるサイトを排除し、残ったサイトの閲覧を許可するものです。ところが、NTTドコモやKDDI(au)のホワイトリストでは、一般サイトにまったくアクセスできなくなる恐れがあるのです。携帯のネット利用を牽引してきたオークション・サイトやモール、若者の利用が急拡大しているモバゲーや携帯小説は、ほとんど一般サイトのため接続が規制されてしまうことが分かりました。
携帯サイト関連市場は、2002年度の2,986億円弱から2006年度には9,285億円と、急成長してきました。しかし、ホワイトリスト方式が浸透すれば、成長鈍化は避けられません。
総務省が2月29日に開いた「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」では、ネット関連サービス大手、ミクシィの笠原健治社長や楽天の幹部が、厳しすぎる閲覧規制に反対する意見を述べました。

総務省はこうした意見を考慮し、4月をめどに、フィルタリングの在り方について検討会の中間報告をまとめるようです。

親と子どもの意識の違い

IMJモバイルは、2008年(平成20年)2月18日、携帯電話向け有害サイト・フィルタリングサービスに対する意識調査結果を発表しました。調査は2008年(平成20年)2月5・6日にインターネットで実施し、1,032人から有効回答を得たものです。

これによると、保護者(12~18歳の携帯電話ユーザーを持つ親)の64%が「当然必要だと思う」、29%が「やや必要だと思う」と回答し、9割以上がフィルタリングサービスを支持しています。また、「フィルタリングサービスを知っている」と答えた人の割合は、保護者が39%、子供(フィルタリングサービス対象者のうち15~18歳)が51%でした。
フィルタリングサービスの利用経験については、「子供の携帯電話にフィルタリングサービスを設定したことがある」と答えた保護者が21%いました。

利用経験がある保護者にフィルタリングサービスを解除するかどうか尋ねたところ、「解除しない」という人が34%、「理由を聞いてから解除する」が55%、「理由を聞かずに解除する」という人が1%いました。
一方、子供は46%が「絶対解除してほしい」、31%が「できれば解除してほしい」と答えました。
保護者と子どもでは、フィルタリングサービスに対する意識の違いがあることが浮き彫りになりました。

子供が実際に利用している携帯電話向けサイトの種類は、「着メロ/着うたサイト」が49%で最も多く、以下「SNS」「ブログ」(41%)、「掲示板/チャット」(34%)と続いています。
保護者に「子供による利用を把握しているサイト」を尋ねたところ、「着メロ/着うたサイト」(46%)、「オンラインゲーム」(16%)、「SNS」(15%)という回答が多く、コミュニティ系サイトは保護者が考えている以上に子供に浸透しているようです。

2008年(平成20年)9月24日、ワイズスタッフが「子どもの携帯電話使用に関する意識調査」の結果を発表しました。この調査によると、携帯電話の使い方について「子どもとルールを決めている」と回答したのは59.8%でしたが、子どもの利用状況をどの程度把握しているかを見ると、メールの頻度については「どのくらい使っているかわからない」が30.2%で、携帯でインターネットを利用している子どもを持つ親の72.3%が携帯でアクセスしているインターネットのサイトを「知らない」と答えています。

アンケート調査:フィルタリングサービス利用者は36%

人力検索サイト「はてな」を利用し、コンテンツフィルタリング・サービスを利用しているかどうか、200人にアンケートをとってみました。(アンケート結果は「あなたは、インターネットのコンテンツフィルタリング・サービスを利用していますか?」に)

その結果、フィルタリング・サービスを利用している人は71人(36%)でした。プロバイダのサービスを利用している方が38人と過半数を超えています。
中でも、20代の方は、自宅で利用している方が36人(20代回答者のうちの30%)と最多でした。30代、40代に比べ、リスク意識が高いのかもしれません。
また、同居している家族でによってフィルタリング設定を変えている人は53人(サービス利用者のうちの75%)となっています。

フィルタリング会社の本音

NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクモバイルのフィルタリング・サービスを請け負っているのは、ネットスターです。
ネットスターは、2007年(平成19年)12月27日に開催された「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」第2回会合に出席し、フィルタリングの仕組みなどを説明するとともに、現在の携帯電話向けフィルタリングサービスには大きな課題があることを指摘しました。
また携帯電話のフィルタリングサービスの特徴として、
1)カテゴリ選択が利用者(保護者など)の側に開放されておらず、サービス提供者側(携帯電話事業者)が、それを代行していること
2)個別サイトのフィルタリング解除や追加が、利用者には行なえないこと
の二点を紹介しました。
―(中略)―
さらに、現在SNSやブログ、掲示板がひとつのカテゴリにまとめて分類されている点についても、今後の課題のひとつという問題提起をさせていただきました。
―(中略)―
しかし、そもそも「青少年向けに安心」の定義がまだはっきりと「よのなかの常識」になっていないため、ネットスターでもここには手をつけにくいところ。


こうした声を受け、携帯コンテンツ事業者の業界団体モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)は、携帯サイトの健全性を審査・認証する独自制度の運用母体となる第三者機関「モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)」の概要を公表しました。2008年(平成20年)4月8日に設立しました。

2008年(平成20年)8月には、

地域での取り組み

2008年(平成20年)3月、広島市で「青少年と電子メディアとの健全な関係づくりに関する条例」が可決され、同年7月1日から施行されます。この条例では、顧客や利用者が18歳未満の場合、
  • 携帯電話販売店はフィルタリング(閲覧制限)機能を備えた状態で販売・貸与する
  • インターネットカフェは同機能をつけた状態で利用させる
  • パソコン販売店などは同機能を勧奨する
などの義務を定めています。違反した場合、市が立ち入り調査をし、さらに指導や勧告に従わないときは事業者名を公表することになっています。このように義務化、罰則規定をもうけた条例は全国で初めてだといいます。

国の取り組み

青少年をネットの有害情報から守ることを目的とした、いわゆる青少年ネット規制法案(青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律案)は、衆議院に続き、2008年(平成20年)6月11日の参院本会議で可決、成立しました。

この法律では、携帯電話会社に対し、保護者が不要と申し出ない限り、未成年が利用する端末へのフィルタリングサービス提供を義務付けています。ISPには顧客の求めに応じてフィルタリングソフトやサービスを提供する義務を、PCメーカーにはフィルタリングソフト・サービスの利用を容易にする措置を講じた上でPCを販売する義務を課しています。ただし、それぞれ罰則は設けていません。

これに対しヤフーやマイクロソフトなど5社は共同声明を発表し、「表現の自由を侵害する可能性がある」などと懸念を表明しています。
また、日本新聞協会メディア開発委員会も同様の懸念を表明しています。

また、2008年(平成20年)2月27日、総務省は、携帯各社が認定する公式サイトだけを閲覧可能とする「[ホワイトリスト方式:blue」から有害サイトだけを除く「ブラックリスト方式」に改めるよう各社に求めました。これに応じて、2008年(平成20年)8月現在、NTTドコモとソフトバンクモバイルがブラックリスト方式を適用しています。KDDI(au)はホワイトリスト方式のままです。

対策は――親子でリスクを考えよう

フィルタリング・サービスに対する親子の意識差があります。そもそも、親は子どもが、いつ、どこでネットにアクセスしているか知り得ません。
そこで、フィルタリング・サービスを導入し、親がアクセス管理を行うべきだという流れになることは理解できなくはありません。

しかし、子どもはいつかは大人になって、自由にネットにアクセスできるようになります。それならば、子どもの時からネットのリスクについて学ばせた方が良いのではないでしょうか。
おそらく子どもは、リスクに対する知識が不十分です。また、親の方も、子どもと一緒に学ぶ過程で、いままで知らなかったリスクを知ることになるかもしれません。
フィルタリングといった外部のサービスに頼るのではなく、家庭として、しっかりとしたリスク管理をしていきたいものです。

参考サイト

参考書籍

表紙 10歳からのルール100
著者 タカクボジュン/斎藤次郎
出版社 鈴木出版
サイズ 全集・双書
発売日 2007年04月
価格 2,750円(税込)
ISBN 9784790231875
 
表紙 インターネットの法律とトラブル解決法 改訂版
著者 神田将
出版社 自由国民社
サイズ 単行本
発売日 2012年04月
価格 1,760円(税込)
ISBN 9784426114602
本書では、インターネットに関連した問題を取り上げて解説し、また、インターネットトラブルに法律がどう適用されて解決されるかについても解説してあります。ほぼ問題点を網羅した、インターネット利用者のための実用書です。
 
表紙 子どものケータイ-危険な解放区
著者 下田博次
出版社 集英社
サイズ 新書
発売日 2010年07月21日頃
価格 792円(税込)
ISBN 9784087205510
中・高生にとって、今やそれなしではいられない必須アイテムとなったケータイ。しかし子どもたちの世界はその出現を境に一変した。いつでも誰とでも繋がることができる利便性は、有害情報へのアクセスをも簡単にし、児童買春、少女売春、援交といった子どもを巻き込んだ犯罪の出現を助長している。大人の目の届かない世界で繰り広げられ、深刻化の度合を増すケータイを使った少年犯罪を、長らく子どもの携帯電話利用問題に取り組んできた第一人者が分析し、その解決策を緊急提言する。
 
(この項おわり)
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