スーパーエルニーニョ――記録的な発達と地球温暖化との関係

2026年08月18日 作成

目次

9月の海面水温偏差は過去最大に

気象解説室で陽奈が太平洋を中心とする大きな地球儀を見つめる
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2026年(令和8年)10月9日、気象庁が発表したエルニーニョ監視速報によると、9月の監視海域(NINO.3)の月平均海面水温は基準値より4.0℃高くなりました。これまでの最大だった1997年12月(平成9年12月)の+3.6℃を上回り、1949年(昭和24年)以降で最大の偏差です。夏から急速に発達していたエルニーニョ現象は、秋に入ってさらに強まりました。
気象庁は、冬にかけて過去最大の強さのエルニーニョ現象が続く見込みとし、継続の確率を100%としています。海面だけでなく中部から東部の海洋表層にも顕著な暖水があり、中部太平洋の貿易風も平年よりかなり弱い状態です。海と大気が互いに影響し、高い海面水温を維持しています。この100%はエルニーニョの継続についての予測であり、日本の暖冬や大雪の発生確率ではありません。

世界気象機関(WMO)も10月8日の発表で、12月ごろのピークと、2027年2月(令和9年2月)までの継続をほぼ100%と予測しています。NINO3.4海域の10~12月平均の偏差は約+3.7℃に達する見通しです。ただし、気象庁の+4.0℃とは海域・平均期間・基準期間が異なるため、数字の大小だけで比較できません。

インド洋にも変化があります。気象庁によると9月のインド洋ダイポールモード(IOD)指数は+0.69で、西部を中心に海面水温が高くなっていました。WMOは正のIODが10月にピークを迎え、その後弱まると予測しています。一方、9月の日本の天候にはエルニーニョ時の特徴が明瞭には見られませんでした。個々の異常気象を、この現象だけが原因だと決めつけることはできません。

夏から続いた急速な発達

海洋観測施設で陽奈が机上の海洋ブイ模型とパソコンの海面水温イメージを比較する
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2026年(令和8年)8月18日の記事作成時点では、太平洋赤道域でエルニーニョ現象が記録的な速さで発達しています。気象庁が2026年(令和8年)8月10日に発表したエルニーニョ監視速報によると、7月のエルニーニョ監視海域(NINO.3)の月平均海面水温は基準値より2.5℃高く、1949年(昭和24年)以降で最も強かった1997年(平成9年)に並ぶ水準に達しました。冬にかけてエルニーニョ現象が続く確率は100%と見込まれています。
太平洋赤道域の海面水温分布のイメージ
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世界気象機関(WMO)も2026年(令和8年)7月31日、強いエルニーニョがさらに強まる見込みと発表しました。2026年8月(令和8年8月)から10月にかけて、主要な監視海域の海面水温偏差が2.9℃を超えると予測しています。WMOのセレスタ・サウロ事務局長は「エルニーニョの予測は、各国や地域社会が影響の発生前に行動する機会をもたらす」と述べ、事前の備えを呼びかけました。あわせて、正のインド洋ダイポールモード現象の発生も予測されており、地域ごとの気候影響が増幅される可能性があります。

欧米の予測モデルは、さらに強い発達を示しています。ヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)や北米マルチモデルアンサンブル(NMME)の予測では、2026年11月(令和8年11月)ごろのピーク時にNINO3.4指数が4℃近くに達する可能性が示されています。当時は2015年(平成27年)から2016年などの非常に強い事例を上回る可能性が注目されていました。ただし、これらは数か月先を見通す季節予測であり、実際の値は今後の観測次第で上下します。
夏の急速な発達の背景として、赤道太平洋の西部から中部で吹いた西風バースト(一時的に強まる西寄りの風)が挙げられています。米国の気象解析サイトSevere Weather Europeによると、2026年6月(令和8年6月)から7月の西風の異常は86年分のデータの中で記録的な水準に達しました。この風が海面下に暖水の波(ケルビン波)を発生させ、水深250メートル付近で平年より9℃も高い暖水塊が東へ進んでいます。米国海洋大気庁(NOAA)の多変量エルニーニョ指数(MEI)も、6月から7月の値が+2.4となり、1979年(昭和54年)以降で最高を記録しました。

気候科学者のブログRealClimateで、ノルウェー気象研究所のラスムス・ベネスタッド氏は、2026年(令和8年)のエルニーニョには過去と異なる3つの特徴があると指摘しています。第一に、NOAAが6月11日という例年より早い時期に発生を宣言したこと。第二に、前回の2023年(令和5年)から2024年のエルニーニョからわずか2年しか経っていないこと。第三に、季節予測モデルが観測史上経験のない強度を示していることです。

エルニーニョの仕組みと「スーパー」の意味

科学展示室で陽奈が太平洋の断面水槽模型を説明する
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平常時の太平洋赤道域では、東から西へ吹く貿易風が海面の暖かい水を西側(インドネシア近海)へ吹き寄せています。その結果、東側のペルー沖では深い場所から冷たい水が湧き上がる湧昇 (ゆうしょう) が起こり、海面水温が低く保たれます。この貿易風が弱まると暖かい水が東へ広がり、ペルー沖の海面水温が上がります。これがエルニーニョ現象です。
エルニーニョ現象の仕組みを示す模式図
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スーパーエルニーニョは、非常に強いエルニーニョを指す通称で、世界共通の公式区分ではありません。よく使われる目安は、NINO3.4海域の海面水温偏差の3か月平均が+2℃程度以上になることです。しかし、監視海域や基準期間、使う指標によって値は変わります。気象庁が発生判断に使うNINO.3の5か月移動平均と、米国などで使われてきたNINO3.4の3か月平均は別の指標です。

過去の代表的な強い事例には、1982年(昭和57年)から1983年、1997年(平成9年)から1998年、2015年(平成27年)から2016年などがあります。2023年(令和5年)から2024年の事例も非常に強い水準に達した観測があり、「過去に3回だけ」「2023年(令和5年)は基準に届かなかった」と一律には言えません。比較する際は、NOAAの過去の指数などで同じ指標をそろえる必要があります。2024年(令和6年)の世界平均気温が観測史上最高だった背景には、エルニーニョに加え、地球温暖化による長期的な底上げもあります。

世界平均気温への上乗せ

陽奈が日差しの強い屋外の木陰で小さな地球儀を手に、遠くの都市の熱気を眺める
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エルニーニョが起きると、太平洋に蓄えられていた熱が大気へ放出されるため、世界の平均気温が一時的に押し上げられます。その上乗せ幅は約0.2℃とされます。地球温暖化による長期の上昇傾向に、エルニーニョによる短期の変動が重なることで、記録的な高温年が生まれるという関係です。1998年(平成10年)、2016年、2024年(令和6年)の高温記録は、いずれもこの組み合わせで説明されています。
上昇する世界平均気温のグラフのイメージ
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以下の世界平均気温の数値と確率は、8月18日の記事作成時に紹介した推定です。年の途中の見通しであり、2026年(令和8年)の確定値ではありません。
英国の分析機関カーボン・ブリーフの2026年(令和8年)の気候見通しによると、2026年(令和8年)の世界平均気温は産業革命前と比べて1.37℃から1.58℃高くなる見込みで、最も可能性が高い推定値は1.47℃です。観測史上2番目に暖かい年になる確率が62%、最高記録を更新する確率が19%と見積もられています。エルニーニョの気温への影響は半年ほど遅れて現れるため、記録更新の可能性が最も高いのは2027年(令和9年)だと指摘されています。

温暖化がエルニーニョを強めるのか

陽奈が研究室の机で海と雨雲の模型を比較し考える
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では、地球温暖化が進むとエルニーニョ現象そのものが強く、あるいは頻繁になるのでしょうか。この点について気象庁は、「温暖化したときにエルニーニョが頻発するか、規模が大きくなるかについて結論はでていない」と明確に述べています。1990年代前半の海面水温上昇を温暖化の影響とみる研究がある一方、自然変動だけで説明できるとする研究もあり、見解が分かれているためです。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2021年(令和3年)に公表した第6次評価報告書(AR6)も、慎重な書き方をしています。NOAA Climate.govの解説によれば、AR6は、エルニーニョ・南方振動(ENSO)が21世紀を通じて気候変動の主要な要因であり続けることは「ほぼ確実」とする一方、海面水温の変動幅(振幅)が将来どう変わるかについてはどのシナリオでもモデル間の一致がなく、確信度は低いとしています。ただし、エルニーニョやラニーニャに伴う降水量の変動が大きくなることは「可能性が非常に高い」と評価されました。これは、将来のENSOに伴う熱帯域の降水変動についての評価です。どの地域でも雨や干ばつが必ず激しくなる、という意味ではありません。

研究が示す複雑な将来像

陽奈が研究室で大型モニター上の複数の曲線を見比べる
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個々の研究に目を向けると、より強い主張もあります。オーストラリアのCai氏らが2014年(平成26年)に『Nature Climate Change』へ発表したIncreasing frequency of extreme El Niño events due to greenhouse warmingは、温室効果ガスの増加によって極端なエルニーニョの発生頻度が約2倍になる可能性を示しました。2022年(令和4年)に同誌へ発表されたIncreased ENSO sea surface temperature variability under four IPCC emission scenariosも、4つの排出シナリオのいずれでもENSOの海面水温変動が増大するという結果を報告しています。
一方、東京大学・国立環境研究所・海洋研究開発機構の研究チームは2026年(令和8年)、気候モデルMIROC-ES2Lを使って西暦2500年(令和482年)までを計算し、ENSOが温暖化の程度に応じて非線形に応答するという結果を『npj Climate and Atmospheric Science』に発表しました。国立環境研究所の解説によると、昇温が3℃以下にとどまる場合はENSOの振幅が強まる一方、4℃を超えるほど極端に温暖化するとかえって振幅が小さくなり、発生周期は短くなるとしています。赤道太平洋の東西どちらの海面水温も上がることで、ENSOを増幅する仕組みが働きにくくなるためだと説明されています。追加で調べた12の地球システムモデルのほとんどでも、同様の傾向が確認されました。

これらを整理すると、現時点で言えることは次の3点です。第一に、地球温暖化がエルニーニョの発生頻度や強度を増やすかどうかは、まだ決着がついていません。第二に、エルニーニョに伴う雨と乾燥の振れ幅が大きくなることは、確からしいと評価されています。第三に、温暖化によって世界の平均気温そのものが底上げされているため、同じ強さのエルニーニョでも、高温や強い雨のリスクが以前より大きくなる場合があります。2026年(令和8年)のスーパーエルニーニョが警戒されているのは、主にこの第三の理由によるものです。

暖冬予想でも大雪への備えは必要

暖かな室内の陽奈が窓の外の雪が積もった住宅街を見ながら、手に持つスマートフォンで天気予報を確認する
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日本気象協会の10月9日の解説では、2026年(令和8年)から2027年の冬は全国的に暖冬となり、日本海側の降雪量は平年より少ないと予想しています。ただし、暖冬でも局地的な大雪は起こり得ます。一時的な寒波や南岸低気圧によって、普段雪の少ない太平洋側でも雪に注意が必要です。
気象庁の季節予報が示すのは、冬全体の平均気温や合計降雪量などの大まかな傾向です。暖冬予想を、毎日暖かい・雪が降らないという意味に受け取ってはいけません。冬用タイヤや凍結対策、停電への備えを例年どおり点検し、寒波や大雪が近づいたら週間予報や警報・注意報で判断することが大切です。

世界の見通しも更新されています。WMOの10月8日の発表は、10~12月に広い範囲で高温となり、地域によって多雨や少雨の傾向が強まるとしています。たとえば東アフリカの一部や南米南東部では多雨、インド亜大陸や南米北西部では少雨が予測されています。これは広域の季節予測であり、個々の地域の天気予報に代わるものではありません。

以下は、8月18日の記事作成時に紹介した地域別の見通しです。夏の気温や台風発生数、北米・欧州の冬の予測は当時の情報であり、10月時点の最新予報として読み替えないでください。
2026年(令和8年)秋から2027年(令和9年)冬にかけての影響として、Severe Weather Europeは北米で南寄りのジェット気流が活発になり、テキサス州から湾岸・南東部が平年より寒くなる一方、カナダ上空では高気圧によるブロッキングが強まると予測しています。米国中部から東部では降雪量が平年より多くなり、大型の冬の嵐が起こりやすくなる見込みです。ヨーロッパでは西寄りの流れが支配的となり、西部から中部は平年より暖かく、北西部は雪に恵まれにくいと分析されています。

日本への影響も無視できません。ウェザーニューズによると、従来「エルニーニョの年は冷夏」とされてきましたが、温暖化による底上げ効果でこの傾向は変わりつつあり、2026年6月(令和8年6月)から11月の日本の平均気温は平年より0.75℃から1.2℃高いと予測されています。台風の発生数は28個程度と平年(約25個)を上回る見込みで、発生域が東寄りになることで日本へ直接接近・上陸する経路をたどる台風が増えるおそれがあります。

食料価格への影響と暮らしの備え

自宅の明るいダイニングで陽奈が水のボトル、保存食、懐中電灯、電池、携帯ラジオを机に並べて点検する
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経済面では、食料価格への波及が懸念されます。前回のスーパーエルニーニョ(2015年から2016年)では、東南アジアの干ばつによって国際砂糖価格が一時2倍近くまで上昇し、ベトナムのコーヒー、インドネシアのパーム油、インドの砂糖が大きな打撃を受けました。またパナマ運河の水位低下は通航できる船舶を制限し、迂回による輸送コスト増加を通じて、輸入に頼る日本の食料品価格を押し上げる可能性があります。
エルニーニョは数か月前から予測できる数少ない気候現象です。だからこそ、WMOが強調するように、影響が現れる前に備えることができます。私たち一人ひとりにできることとしては、気象庁が毎月10日ごろに発表するエルニーニョ監視速報や季節予報を確認すること、猛暑や豪雨への備えを前倒しで進めること、そして温暖化そのものを抑える取り組みを続けることが挙げられます。
冬への備えでは、まず地域のハザードマップや避難先を確認し、飲料水・食品・常備薬・携帯電話の充電手段を点検しましょう。買い占めるのではなく、ふだん使うものを少し余分に持ち、使った分を補充する方法が続けやすい備えになります。積雪や路面凍結が予想される日は、移動計画を早めに見直してください。

参考サイト

(この項おわり)
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