『地球温暖化はなぜ起こるのか』――2021年度ノーベル物理学賞

アンソニー・J・ブロッコリー,真鍋淑郎=著
表紙 地球温暖化はなぜ起こるのか
著者 真鍋 淑郎/アンソニー・J・ブロッコリー
出版社 講談社
サイズ 新書
発売日 2022年06月16日頃
価格 1,430円(税込)
ISBN 9784065280812
気候モデルの最大の価値は、気候変化の予測に役立つだけでなく、気候システムの仕組みをより深く理解できることにあると、私たちは強く信じている。本書の原題『Beyond Global Warming』には、その強い思いが込められている。(4ページ)

概要

地球温暖化のイラスト「汗をかく地球のキャラクター
2021年、「気候システム」という複雑系の物理分野に初めてノーベル物理学賞が贈られた。受賞したのは、プリンストン大学上級気象研究者で、国立研究開発法人海洋研究開発機構フェローの真鍋淑郎 (まなべしゅくろう) さんだ。本書は、米ラトガース大学環境科学部教授アンソニー・J・ブロッコリーさんが著したものだが、1960年代から研究開発が進められてきた気候モデルの多くに、真鍋さんの名前が登場し、その業績の大きさを再認識した。
本書は、いわゆる地球温暖化警鐘本とは一線を画し、気候モデルの仕組みの解説を中心に、実際の観測データとの合致度を示している。そして、気候モデルの二酸化炭素濃度を変化させたときにどのような計算結果になるのかを、淡々と紹介する。
気象科学やコンピュータ・シミュレーションに関する基礎知識がないと、読むのは少し骨が折れるかもしれない。

ブロッコリーさんは冒頭、「気候モデルの最大の価値は、気候変化の予測に役立つだけでなく、気候システムの仕組みをより深く理解できることにあると、私たちは強く信じている」(4ページ)と宣言する。
ブロッコリーさんは、最初に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書(2013年)から「20世紀半ば以来観測されている温暖化の主要な原因は、人間活動による影響であった可能性がきわめて高い」(14ページ)と引用し、温暖化の原因は明らかになっているという立ち位置から、そこに至った経緯と、その先について解説する。

大気を含めた地球システムの出す放射が、シュテファン・ボルツマンの法則にしたがうなら、地表の平均温度は-18.7℃で、観測で得られている+14.5℃よりも33℃も低い(19ページ)。大気の温室効果を初めて予想したのは、数理物理学者のジャン・バティスト・フーリエだ(35ページ)。1894年にスウェーデンのスヴァンテ・アレニウスは、大気中の二酸化炭素濃度が2~3倍に変化したら、大きな気候変化を起こすだろうと予想した。

1960年代に、米国気象局(現・米国海洋大気庁)の地球流体力学研究所(GFDL)が、大気の鉛直1次元モデルを開発した。これは、水蒸気、二酸化炭素、オゾンといった温室効果ガスが、大気の温度構造を維持するためにどのような役割を果たすのかを調べるために役立った(51ページ)。真鍋とストリックラーは、1957年の観測データをもとに雲量を設定して計算を行ったところ、地表面温度は14℃となり、実測値に近い値となった(59ページ)。さらに、300ppmvという標準的な二酸化炭素濃度にすると、地表面温度は15℃になった。また、2倍の600ppmvにすると、温度が2.4℃上昇した。

数値天気予報の力学モデルを基に開発された大気大循環モデル(GCM:General Circulation Model)は、1950年代から開発が始まり、1958年の初頭にスマゴリンスキーは大気GCM開発チームの一員に加えるために真鍋をアメリカ合衆国に招いた。
GCMは、大気だけでなく海洋や大陸までパラメータとして組み込んでいき、季節に応じた気候の変化を再現できるようになっていった。
1970年代初頭には、2万1000年前の最終氷期を再現しようという研究が進んだ。このときに行った数値実験では、氷期間氷期の海面水温の差は、3つの要因に依存することがわかった(168ページ)
(1)大陸氷床の拡大による地表面アルベドの増加。
(2)温室効果ガスのCO2換算濃度の低下。
(3)積雪のない地表面のアルベドの増加。

1980年代後半には、大気・海洋・陸面結合システムの3次元モデルを使って、地球温暖化に関する研究が進んだ。
CO2濃度が1年に1%ずつ複利式で増加する条件だと、70年目にはCO2濃度が2倍に増え、温度は約2.5℃上昇した(198ページ)。北極海や周辺海域では海氷被覆面積も厚さも著しく下がるが、南半球ではそれほど顕著な反応を示さない。全球平均降水量は5.2%増えた。
CO2濃度が4倍になったときには、全球平均温度は5.5℃上昇し、平均降水量は12.7%増えた。
降水量の変動に呼応して河川の流量も変化する。熱帯域ではアマゾン川の流量が、CO2の2倍増、4倍増に応答して、それぞれ11%、23%増える(257ページ)。その結果、世界の乾燥地域、半乾燥地域の多くで植物が利用できる水分が大きく低下し、干ばつ見舞われることになる。

レビュー

干ばつのイラスト
冒頭で述べたとおり、気象科学やコンピュータ・シミュレーションに関する基礎知識がないと、全体を理解するのは厳しいだろう。だが、最後まで読んだ後で、巻頭にあるカラーズ版を見返すことで、その内容が、シミュレータが示した1つの事実であることが分かる。
現在わかっているパラメータの範囲内で計算するなら、21世紀後半、われわれ人類は海水面上昇より先に水不足の危機に直面することになる。
社会情勢の要求もあるだろうが、ブロッコリーさんが冒頭で強調する原題『Beyond Global Warming』(地球温暖化を超えて)が『地球温暖化はなぜ起こるのか』に翻訳されたのは少し残念なところである。

気候モデルは氷期・間氷期も扱ってきたが、さらに大気圏外へ目を向け、太陽磁場や宇宙線の影響をフィードバックシステムに組み込んだらどうだろう。観測により雲の発生に27日周期があり、偶然にも太陽の自転周期と一致している。さらに長周期で見ると、全球凍結(スノーボールアース)が発生していた時期と銀河系でスターバーストが起きていた時期が一致するという。
ブロッコリーさんが言うように、地球温暖化問題を騒ぐのではなく、その先へ――『Beyond Global Warming』を目指していきたい。
(2023年3月11日 読了)

参考サイト

(この項おわり)
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