『田中耕一という生き方』――普通であることが素晴らしい

黒田龍彦=著
表紙 田中耕一という生き方
著者 黒田龍彦
出版社 大和書房
サイズ 単行本
発売日 2003年01月
価格 1,650円(税込)
ISBN 9784479390992
自分はこんなことしかできないと自分で自分を卑下してどんどん抑え込んでしまう。自分を過大評価してはいけませんが、過小評価はそれよりもっと罪深いことです。そんな風潮からは抜け出さなければいけないと思っています」(78ページ)

概要

記者会見の場で妻からの電話に笑顔で応じる田中氏
記者会見の場で妻からの電話に笑顔で応じる田中氏
2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一さんの評伝である。
修士号も博士号も持たない無名のサラリーマンがノーベル賞を受賞したということで、たいへんな話題になった当時を思い起こす。いまは落ち着いて仕事に没頭できているだろうか。

あらためて田中さんの言葉を読むと、普通であることがいかに素晴らしいことかを想起させられる。筆者が最後に、「小学校のときクラスに必ず1人はいた、日本人みんなの思い出のなかにいる懐かしい“あのタナカくん”」(202ページ)と表現しているが、まさにその通りである。成績がトップなわけではなく、スポーツができるわけでもなく、ルックスが良いわけではない。
だからといって、友だち付き合いが悪いわけでもない。そんな“タナカくん”がノーベル賞を受賞したことで、日本人の誰もが、まるで友だちがノーベル賞を受賞したかのように感じたのではないだろうか。

その“タナカくん”だが、生後間もなく母が亡くなり、養父母の手で育てられたという。大学へ入る前にそのことを知らされて葛藤したこと、その影響もあって大学では1年留年してしまったこと、第1志望の会社に入れなかったことなど、人知れぬ苦労があったようである。
それでも、地道に努力を重ね、サラリーマンとして会社につくし、妻を大切に想い――だからこそ、なおのこと身近に感じるのかもしれない。同じ技術者として、会社と対立をした青色発光ダイオードの発明者、中村修二さんへの配慮も忘れない。

おそらく、“タナカくん”にとって、ノーベル賞は1つのイベントに過ぎなかったのだろう。“タナカくん”は科学者ではなく技術者である。毎日、コツコツと技術を磨き、社会に貢献できることが“タナカくん”の誇りなのだと思う。
技術者として、かくありたいと、あらためて肝に銘じる次第である。
(2006年8月30日 読了)

参考サイト

(この項おわり)
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