『地球の変動はどこまで宇宙で解明できるか』

宮原ひろ子=著
表紙 地球の変動はどこまで宇宙で解明できるか
著者 宮原 ひろ子
出版社 化学同人
サイズ 文庫
発売日 2022年12月05日頃
価格 990円(税込)
ISBN 9784759825114
宇宙に目を向けて、地球での出来事と、地球を取り巻く宇宙環境の変化を照らし合わせてみると、驚くべきことに、いくつもの共通点が見えてきます。(172ページ)

概要

太陽のイラスト
著者は、宇宙線物理学、太陽物理学、宇宙気候学が専門の宮原ひろ子さん。太陽活動がピークを迎えた2000年頃からマウンダー極小期の研究に取り組み始め、まさか現在のように太陽活動が低下してマウンダー極小期がこれほどまでに身近な話題になろうとは、微塵も思っていなかったという(196ページ)。
太陽フレア
太陽フレア
本書では、太陽フレアなどの太陽表面で起こる現象が宇宙空間を伝わってくることによって、地球周辺の宇宙環境が変化することを「宇宙天気」と呼ぶ。太陽フレアによる大規模な宇宙天気災害が、1989年3月にカナダ・ケベック州で発生した大停電だ。停電の被害は600万人にも及んだ。
一方、太陽活動が弱まると、宇宙線がたくさん地球に飛んできて、地上の天気に影響するという。
太陽黒点相対数の推移
太陽黒点相対数の推移
太陽黒点は11年周期で増減を繰り返すことが分かっているが、光の量はほとんど変わらない。マウンダー極小期のように黒点が無くなる期間もあったが、光の量が変わったのか、地球の気温に影響したかは分かっていない。南極の氷の層や、縄文杉の年輪、月のレゴリスを調べることで、過去の太陽活動を調べる研究が続いている。
太陽圏
太陽圏
太陽の磁場はダイナミックに変化し、100天文単位の彼方まで広がっている。これを太陽圏と呼び、その最果てをへリオシーズと呼ぶ。へリオシーズでは、銀河系内流れる水素原子やヘリウム原子などの物質(星間風)の圧力を受けて太陽風のスピードが落ち、星間風と太陽風が混ざり合った空間になっている。そして、太陽圏全体が、宇宙を飛び交う高エネルギーの宇宙線をさえぎるシールドの役割を果たしている(80ページ)。
屋久杉の年輪
屋久杉の年輪
樹木に含まれている炭素14を用いて太陽活動を復元したところ、マウンダー極小期のような太陽活動の異変が、過去たびたび起こっていたことが分かった。これは異変ではなく、太陽活動のリズムのひとつと考えられるようになった。極小期が始まる少し前から11年周期が伸び始め、黒点が消失しているあいだは14年というゆっくりした周期になっていた。
氷河期のマンモスのイラスト
2012年に、太陽系の惑星の重力が、太陽活動の長期変動に影響し得るという論文を発表した。
さまざまな要因によって生じる気候変動のうち、一般的に受け入れられている説がミランコビッチ・サイクルである。ミランコビッチ・サイクルの1つ、すなわち太陽と地球の距離が10万年周期でゆるやかに変わることによって、9万年ほど氷期が続くと1万年ほど間氷期が訪れる氷期間氷期サイクルがある。
宇宙線変動の大まかな時間スケールとその要因。
比較のため、ミランコビッチ・サイクルの時間スケールも示す。
時間スケール変動要因
数億~数十億年周期スターバースト
1.4億年周期太陽系が銀河の腕を通過
6000万年周期太陽系が銀河円盤をアップダウン
1万~数百万年地磁気変動
(2万、4万、10万、40万年 ミランコビッチ・サイクル)
1000年、2000年太陽活動の長周期(極小期の頻発)
200年周期太陽活動の長周期(極小期の発生)
11、22年周期太陽活動周期と太陽磁場反転
27日周期太陽の自転周期にともなう変動
(167ページ)
スノーボールアースの想像図
スノーボールアースの想像図
宮原さんによれば、地球環境と宇宙環境の変化には共通点が多いという。たとえば、全球凍結(スノーボールアース)が発生していた24億~21億年ほど前と8億~6億年前は、天の川銀河がスターバーストを起こしていた時期で、太陽系が暗黒星雲をかすめてもおかしくない状況だった。さらに、14億年ごとに繰り返す寒冷化のタイミングは、太陽系が銀河の腕を通過するタイミングと一致している(172ページ)。
恐竜絶滅の想像図
恐竜絶滅の想像図
6000万~7000万年周期で起きる大絶滅は、銀河の中での太陽系のアップダウン運動と連動して太陽系が暗黒星雲に突入し、重力の作用でオールと雲にある水星や小惑星の軌道が乱れ、巨大隕石として地球に激突した結果かも知れない(176ページ)。
原始地球の想像図
原始地球の想像図
誕生直後の太陽の核融合反応は不十分で、現在より暗かったというのが通説で、その光量では地球は凍結していたはずなのに、地質学的な証拠から38億年前の地球上には液体の水があったことがわかっている。これを暗い太陽のパラドックスという。当時の太陽は現在より大きく、光量も現在と同じくらいにあったが、巨大な太陽フレアが頻繁に発生して大量の質量が失われたという仮説が提唱されている。
赤色巨星
数十億年後、太陽が赤色巨星となって地球を飲み込む前に、いまも接近しているアンドロメダ銀河が天の川銀河に衝突し、地球が太陽系から弾き飛ばされてしまうかもしれないという(188ページ)。
宮原さんは、「地球がいまのように暖かで穏やかなのは、本当に束の間のことのような気がしてきます」(188ページ)という。

レビュー

ビッグバン
宇宙の誕生から今日までを1年間に見立てた「宇宙カレンダー」という考え方があるが、それによると、太陽系が誕生したのは9月1日で、最初の真正細菌が登場するのが9月22日と、驚くほど早い時期に生命が誕生している。これを説明するのに、宇宙空間で長い時間をかけて生命が誕生し、それが隕石と共に地球にやって来たというパンスペルミア説がある。
宇宙線のイメージ
宇宙線のイメージ
宇宙線は彗星の氷の塊を貫通して内部にある物質をイオン化させアミノ酸を合成する可能性があるという。
太陽の磁力が生物にとって有害な宇宙線から地球を守っている一方で、生物の誕生にもかかわっていたかもしれないという仮説には、神の摂理のようなものを感じた。
宇宙天気
太陽や宇宙線の活動は、日々の天気にも影響を与える。雷や雲の活動には27日周期があるが、太陽の自転(27日)の影響が、宇宙線あるいは何らかの変動を介して、赤道域の積乱雲の発達に影響しているらしい(210ページ)。
本書がテーマとする宇宙天気予報が、われわれにとって身近な天気予報と融合する日は、そう遠くない日のことかもしれない
(2023年3月2日 読了)

参考サイト

(この項おわり)
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