『天変地異の地球学』――天災は束になってやってくる

藤岡換太郎=著
表紙 天変地異の地球学
著者 藤岡 換太郎
出版社 講談社
サイズ 新書
発売日 2022年08月18日頃
価格 1,100円(税込)
ISBN 9784065290989
束を『いなす』、『かわす』方法を考えること、束とのつきあい方を考える必要がある。(38ページ)

概要

地球に衝突する隕石のイラスト
地球科学が専門で、「しんかい6500」に51回乗船し、太平洋、大西洋、インド洋の三大洋初潜航を達成した藤岡換太郎 (ふじおか かんたろう) さんが、天変地異を駆動する巨大サイクルの根源に迫る。

天災は忘れた頃にやってくる」というのは物理学者・寺田寅彦の言葉だが、一生のうちに一度か二度経験するような地震・台風・噴火・津波などの記録をたどると、それらは一定の周期で起きているようだ。
1940年代から1950年代にかけては、やたらに台風が上陸した時期があった――1947年のカスリーン台風から1959年の伊勢湾台風まで。日本列島は、「4つのプレート、4つの気団、4つの海流」(43ページ)に囲まれており、このことが天災の複雑な周期をもたらしているようだ。
そして、藤岡さんによれば、天災は束になってやってくるという。この「束を『いなす』、『かわす』方法を考えること、束とのつきあい方を考える必要」(38ページ)があるという。

「セルビアの物理学者ミランコビッチは1920~1930年代に、寒冷と温暖は2.3万年、4.1万年、10万年という3通りの周期で繰り返されているという仮説」は、のちにミランコビッチ・サイクルと呼ばれるようになる。これは、地球と太陽の位置関係によって起きているようだ。

さらに長期の天変地異――オルドビス紀末や三畳紀末などの生物の大絶滅地球磁気の反転スノーボールアース――これらも周期的に起きており、3000万年と2億5000万年という周期がありそうだ。
年代(Ma)地球科学的な事件
540カンブリア大爆発
510カンブリア紀の中小規模の絶滅多数
480オルドビス紀の中小規模の絶滅多数
459オルドビス紀末の大量絶滅(444Ma)
420植物の陸上進出(419Ma)
390デボン紀の中小規模の絶滅多数
360デボン紀末の大量絶滅
大森林時代
動物の陸上進出(359Ma)
330石炭紀の大酸化時代
300石炭紀の中小規模の絶滅多数
270オルソン絶滅と呼ばれる中小規模の絶滅(273Ma)
240超大陸パンゲアの分裂
ペルム紀末の大量絶滅(252Ma)
海洋無酸素事変
210三畳紀末の大量絶滅(201Ma)
180アフリカのカルーで洪水玄武岩(183Ma)
150ジュラ紀の中小規模の絶滅
120スーパープルームによる洪水玄武岩でオントンジャワ海台やケルゲレン海台形成
90海洋無酸素事件(94Ma)
アフリカのマダガスカルで洪水玄武岩
60白亜紀末の大量絶滅(66Ma)で気候寒冷化
北太平洋で洪水玄武岩
30背弧海盆など中規模の地殻変動多数
北米チェサピークやシベリアのホビガイに巨大隕石
0最終氷期の始まり(2Ma)
ここには、マントル対流によって引き起こされるプルームテクトニクスが関係しており、超大陸の生成を分裂と連動しているようだ。なぜスーパープルームが起きるのか、なぜ超大陸ができるとスノーボールアースになるのか――話は銀河系の回転に及び、藤岡さんは空想科学的な仮説を提示する――経験豊富な地球科学者の仮説だけに、空想科学にとどまらない予感がする。

レビュー

阪神淡路大震災、平成の豪雨災害、東日本大震災‥‥大きな自然災害が起きるたびに、行政は、耐震基準を変えたり気象予報を変えるなど〈科学的〉な対応をとってきた。だが、本書で藤岡さんが提案しているように、必要なのは自然災害の「束を『いなす』、『かわす』方法を考えること」ではなかろうか。
天災の原因が地球システムにあるとしたら、それを止めることはできない。止めることは地球の死につながるからだ。
われわれ日本人は古くから、荒ぶる神としての自然と付き合ってきた民族である。こうした考えを〈科学〉と結びつけ、犠牲者が1人でも減るような生活スタイルを目指してはどうだろうか。
(2022年10月23日 読了)

参考サイト

(この項おわり)
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