1.1 TeXとは何か

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さまざまな数式
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\( \TeX \)は、文章と数式を美しく配置するための組版 (くみはん) システムである。ワープロのように完成形を見ながら整えるのではなく、文字で書いた命令を処理して紙面を作る。とくに分数、根号、添字、行列などを含む数式を一貫した規則で表現できる点が大きな特長である。
ここでいう 組版システム とは、原稿の文字、数式、図表などを、読みやすい紙面になるように配置する仕組みを指す。文字の形や大きさ、行間、余白、改ページなどを一定の規則に従って調整し、印刷や画面表示に適した文書を作る。

目次

\( \TeX \)の読み方と名前の由来

日本では一般に テフ と読む。英語圏では、ドイツ語の Bach やスコットランド語の loch の ch に近い音で テック と発音されることもある。末尾を「テックス」のようには読まない。
名称は、ギリシア語で「技術」「芸術」を意味する τέχνη(テクネー)に由来する。\( \TeX \)の3文字はギリシア文字の大文字 Τ(タウ)、Ε(イプシロン)、Χ(カイ)を意識したもので、正しいロゴではEを少し下げて \( \TeX \) と表す。プレーンテキストでは TeX と書く。

\( \TeX \)による数式表記の例

\( \TeX \)では、数式の構造を命令として記述する。次の表は、数学と電気工学で使う代表的な式の表示結果である。複雑な式でも、元のデータが文字列なので保存、検索、修正、再利用がしやすい。
#内 容表 示
1 2次方程式 \(ax^2+bx+c=0\) の解の公式 $$ x=\frac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a}\quad(a\ne0) $$
2 \(m\times n\) 行列 $$ A=\begin{pmatrix}a_{11}&\cdots&a_{1n}\\\vdots&\ddots&\vdots\\a_{m1}&\cdots&a_{mn}\end{pmatrix} $$
3 直列RLC交流回路のインピーダンス $$ Z=R+j\left(\omega L-\frac{1}{\omega C}\right) $$
4 絶対値関数 $$ |x|=\begin{cases}x&(x\ge0)\\-x&(x<0)\end{cases} $$
5 二項定理 $$ (1+x)^n=\sum_{k=0}^{n}\binom{n}{k}x^k $$

上の数式を作る\( \TeX \)表記

#\( \TeX \)表記
1
x = \frac{-b \pm \sqrt{b^2 - 4ac}}{2a} \quad (a \ne 0)
2
A = \begin{pmatrix}
a_{11} & \cdots & a_{1n} \\
\vdots & \ddots & \vdots \\
a_{m1} & \cdots & a_{mn}
\end{pmatrix}
3
Z = R + j\left(\omega L - \frac{1}{\omega C}\right)
4
\displaystyle |x| = \begin{cases}
x  & (x \ge 0), \\
-x & (x < 0)
\end{cases}
5
\displaystyle (1 + x)^n = \sum_{k=0}^{n} \binom{n}{k} x^k

\( \TeX \)誕生の時期と背景

金属活字と空き材を組み合わせた数式組版の構造図(イメージ)
金属活字と空き材を組み合わせた数式組版の構造図(イメージ)
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活版印刷の時代、数式の組版には、書体や大きさの異なる活字、罫線、多様な幅の空き材を組み合わせ、各記号を正確な位置に固定する高度な技術が必要だった。この仕事を担う「数式植字工」と呼ばれる専門工がいるほどであり、数式が複雑になり数が増えるほど、手作業に要する時間と費用も増大した。
左図のように、異なる書体・記号・活字サイズを混在させ、多様な大きさの空き材で各文字を支える複雑な構造になる。4-line systemが登場する以前、このような数式は複数回に分けて鋳造した活字を、熟練した植字工がほぼ全面的に手で組み上げていた。
\( \TeX \)を開発したのは、米国スタンフォード大学の計算機科学者 ドナルド・クヌースである。開発は 1977年(昭和52年) に始まった。当時、印刷工程は金属活字(活版)から写真植字(写植)、さらにデジタル方式(DTP)へ移りつつあった。
クヌースは著書『The Art of Computer Programming』改訂版の校正刷りを見て、初版より数式の組版 (くみはん) 品質が低下したことに不満を抱いた。そこで、熟練した数式植字工が培ってきた技と伝統的な組版の知恵をコンピュータ上で再現することにこだわった。\( \TeX \)が数式の位置や間隔に非常に細かな規則を持つのは、この目標を実現するためである。現在につながる\( \TeX \)は1982年(昭和57年)に公開された。

理系の論文でよく使われる理由

第一の理由は 数式組版の品質 である。分数の高さ、上下付き文字の位置、演算子の間隔、行列の整列などを\( \TeX \)が自動調整するため、長く複雑な式でも読みやすい。
第二に、論文を 構造化されたテキスト として書ける。見出し、式番号、図表番号、相互参照、参考文献を命令で管理でき、途中に式や図を追加しても番号を振り直しやすい。ソースは通常の文字ファイルなので、共同編集や差分管理にも向く。
第三に、同じソースから再現性の高い出力を得られる。学会や出版社が用意する書式を使えば、著者は内容に集中しながら誌面の体裁をそろえられる。こうした性質から、数学、物理学、計算機科学、工学などで長く利用されている。

\( \TeX \)と\( \LaTeX \)

\( \TeX \)は数式と文章を紙面へ配置する中核の 組版エンジン である。組版エンジンとは、入力された文章や命令を読み取り、文字や数式の間隔、行の折り返し、改ページなどを計算して、最終的な紙面を組み立てるプログラムを指す。
一方、\( \LaTeX \)は\( \TeX \)上に構築された マクロ集 である。マクロとは、複数の処理や命令をひとまとめにし、短い名前で繰り返し利用できるようにしたものである。\( \LaTeX \)は、見出し、目次、式番号、参考文献などを扱うマクロをあらかじめ用意し、文書全体の構造を簡潔な命令で記述できるようにする。
実際の論文執筆で「\( \TeX \)を使う」という場合、\( \LaTeX \)やその関連ツールまで含めて指すことが多い。本連載では、数式を作る\( \TeX \)の記法から順に学んでいく。

次項:TeXを表示する方法

次項では、クラウドサービスやWindows、macOS、iOS、Android、そしてホームページ上で、無料で \( \TeX \) を表示する方法を紹介する。

参考サイト

(この項おわり)
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