海堂尊の医療エンターテイメント

産科・小児科物語
表紙 ジーン・ワルツ
著者 海堂尊
出版社 新潮社
サイズ 単行本
発売日 2008年03月
価格 1,650円(税込)
ISBN 9784103065715
医者はスーパーマンじゃないわ。できないことはできないと言うこと(201ページ)

2005年(平成17年)、『チーム・バチスタの栄光』で小説デビューした現役の医師、海堂尊が描く最先端医療ミステリー。生殖医療・代理母問題をめぐり、どこまでが医療で、どこまでが人間に許される行為なのか、社会に問いかける。

今回の主人公は、東京・帝華大学の美貌の産婦人科医、曾根崎理恵――顕微鏡下人工授精のエキスパートで、人呼んで「クール・ウィッチ」。事情を抱えた訪れた5人の妊婦をめぐって物語が展開する。一方、先輩の清川医師は理恵が代理母出産に手を染めたとの噂を聞きつけ、真相を追う。

本書の未来に当たる『医学のたまご』、本書を理恵の母みどりの視点から描いた『マドンナ・ヴェルデ』も併せて読むと一層面白みが増すだろう。
(2009年4月9日 読了)
表紙 マドンナ・ヴェルデ
著者 海堂尊
出版社 新潮社
サイズ 単行本
発売日 2010年03月
価格 1,650円(税込)
ISBN 9784103065722
Dear KAORU, Welcome to Our Earth.

2005年(平成17年)、『チーム・バチスタの栄光』で小説デビューした現役の医師、海堂尊が再び生殖医療・代理母問題を取り上げる。

桜宮市に暮らす平凡な主婦、山咲みどりのもとをある日一人娘で産婦人科医の曾根崎理恵がおとずれる。子宮を失った理恵のため、代理母として子どもを産んでほしいというのだ。一人娘のために代理母となることを決意したみどりであったが、お腹の中の赤ちゃんは孫ではなく、法律上は自分の子どもになるという。しかも、理恵が用意した受精卵には、ある仕掛けが‥‥。

本書の未来に当たる『医学のたまご』、本書を理恵の視点から描いた『ジーン・ワルツ』も併せて読むと一層面白みが増すだろう。
(2010年3月10日 読了)
表紙 モルフェウスの領域
著者 海堂尊
出版社 角川書店
サイズ 単行本
発売日 2010年12月
価格 1,650円(税込)
ISBN 9784048741538
僕の幸福は、自分が作り上げたものが美しく光り輝くこと。(100ページ)

桜宮市にある未来医学探究センターで日比野涼子は、東城大学医学部から委託された資料整理のかたわら、世界初の「コールドスリープ」技術により人工的な眠りについた少年・佐々木アツシの生命維持を担当していた。アツシは網膜芽腫が再発し両眼失明の危機にあったが、特効薬の認可を待つために5年間の“凍眠”を選んだのだった。
映画化、ドラマ化もされた『チーム・バチスタの栄光』でデビューした現役医師・海堂尊が、時間軸的には『ナイチンゲールの沈黙』と『医学のたまご』の間の物語として上梓した医療エンターテイメントだ。

ヒロインの日比野涼子は、父親とともに海外を渡り歩いた経験から複数の外国語を操り、医学の知識も豊富だ。いわゆる帰国子女という才女を自認する彼女だが、ゲーム理論の第一人者・曾根崎伸一郎教授とのメールのやりとりや、「僕の幸福は、自分が作り上げたものが美しく光り輝くこと。その輝きの下で、ひょっとしたら、人々は幸せになれる、かもしれない。でも、そんなことは僕の知ったこっちゃない。だって僕は、自分の創造物を人々の幸せのために作ったわけじゃないんですから」(100ページ)と言い放つ技術者・西野昌孝に翻弄され、自身の知識ではなく“心”を見つめるようになる。

毎度のことだが、医療エンターテイメントといいつつ、医療問題を織り込むのは著者の真骨頂だ。
法律が医療技術に追いつかず「ドラッグ・ラグ」が発生しているという現実を乗り越えるため、本書では「コールド・スリープ」という架空の技術を登場させる。そして、コールド・スリープを有効ならしむるための時限立法「人体特殊凍眠法」(これも架空の法律)がたてられるが、その法律の抜け穴がミステリーの核となる。
ミステリーの組み立てはややこしいが、著者は「彼らの最大の目的は市民の健康や安寧などではなく、彼らが主体で運用している巨大ファンド、国家予算の健全な運用にすぎなかったからだ」(48ページ)と、官僚をチクリと刺すことを忘れてはいない。

本書ではマッドな技術者・西野昌孝が印象的であった。
最初は黒ずくめのスーツで登場。「死神」扱いされているので、てっきり医療を理解しないエンジニアという扱いかと思いきや、いつの間にか最も人間味のあるキャラクターに返信。最後にはアツシ少年に向かって、「自分がどこから来てどこへ行こうとしているのかわからない人間は、いずれ影を亡くしてしまう。そうしたらソイツはゾンビと同じさ」(235ページ)と指摘する。ゾンビはあんたじゃなかったのかよ、と突っ込みたくなる。
さて、涼子の回想シーンに登場するノルガ共和国の名もなき医務官は、『ブラックペアン1988』に登場する、あの外科医ではないかと推測しているのだが‥‥彼の名前を明らかにするために、再び涼子が活躍することを期待したい。
(2011年6月24日 読了)
表紙 アクアマリンの神殿
著者 海堂尊
出版社 KADOKAWA
サイズ 単行本
発売日 2014年07月01日頃
価格 1,760円(税込)
ISBN 9784041013427
モルフェウスの領域』の続編だが、もちろん本作を初めて読んでも楽しめる学園SF風テイストの医療ミステリーだ。

ナイチンゲールの沈黙』に登場し、『モルフェウスの領域』では世界初のコールドスリープにあった佐々木アツシが目覚めた。コールドスリープを開発したヒプノスの技術者、西野昌孝を後見人とし、アツシは睡眠学習により優れた学力を身につけていたが、平凡な少年に見えるように努力する中学校生活が始まった。
クラスの問題児、麻生夏美がクラス委員長になると、アツシの日常生活が徐々に狂い始める。麻生の父は、ヒプノスとライバル関係にあるアルケミストのシンクタンクの部長だ。
高校に進学して間もなく、アツシは北原野麦から告白される。睡眠学習の成果では考えられない北原野麦のキャラクターに途方に暮れるアツシ。ボクシング部に入部し、試合に出たアツシは、いままで隠していた出自が知られてしまう。さらに、文化祭の出し物を巡って、アツシが住んでいる未来医学探究センターで合宿が強行される。
オンディーヌこと、『モルフェウスの領域』でアツシを見守っていた日比野涼子と西野の関係は? ゲーム理論の権威者、曾根崎伸一郎教授が提唱した「凍眠八則」の裏に隠された謎は? 果たしてオンディーヌは目覚めるのか?
そして、アツシの物語は『医学のたまご』へと続く。

終盤のアツシと西野の対決は、アイザック・アシモフのロボットSFシリーズを彷彿とさせる。「凍眠八則」は、「ロボット工学三原則」のようにミステリーの縦糸を構成する。そして、東城大学の教授となった田口先生をはじめ、一癖も二癖もある登場人物たちが横糸を紡ぐ。
舞台が学園であるうえに、ラノベのように台詞中心で進む本書の登場人物たちは、全員が中2病のように感じさせるが、じつは清く正しい中2病である若者たちこそ医者になるべきという海堂医師のメッセージではないかと考えさせられた。その意味でも、本書は『医学のたまご』の正統な序章である。
(2014年7月24日 読了)
表紙 医学のたまご
著者 海堂尊
出版社 理論社
サイズ 単行本
発売日 2008年01月
価格 1,430円(税込)
ISBN 9784652086209
科学を前にしたら大人も子どももない。人の命に関わる医学では特にそうだ。(243ページ)

チーム・バチスタの栄光』で一躍有名になった現役医師、海堂尊によるジュブナイル――医学を志す中高生に一読をお勧めする。

主人公は、ゲーム理論の世界的な研究者である父を持つ中学生・曾根崎薫。歴史は得意だが、英語も数学もまるでダメ。ところが、「潜在能力テスト」で全国一位の成績を叩き出し、中学に通いながら東城大学医学部で研究生活を送る羽目になる。

バチスタ・シリーズでお馴染みの東城大学の食えない面々がゲスト出演し、大人の世界の汚さが描かれる一方、そんな中でも患者を救おうとするプロとしての厳しさを盛り込んでいるあたり、海堂氏ならではの巧さだ。

また、時代が近未来に設定されており、本書でターゲットとなっているある疾患に対する作者の考え方を窺い知ることができる。
(2009年1月10日 読了)
表紙 医学のひよこ
著者 海堂 尊
出版社 KADOKAWA
サイズ 単行本
発売日 2021年05月31日頃
価格 1,760円(税込)
ISBN 9784041110805
白鳥圭輔「小原、お前はその年になってまだ役所の基本原則を理解してないようだな。名称が2つ重なったら、強いのは後出しジャンケンの方だ。つまり『大学・病院』と重なった名称なら、後にある『病院』の方が強いんだぞ」(193ページ)

飛び級で東城大学医学部に入った曾根崎薫(カオル)は桜宮中学3年生に進級した。学級委員の進藤美智子、ヘラ沼こと平沼雄介(『夢見る黄金地球儀』の主人公・平沼平介の息子)、父親の病院を継ぐために東城大学医学部を志望しているガリ勉の三田村優一の4人「チーム曾根崎」は、海岸近くにある洞窟の中で、高さ1メートル50センチもある大きな卵を発見した。
4人は卵に〈いのち〉と名付ける。『ネイチャー』に論文投稿することで前回の雪辱戦にしようという話が持ち上がり、桜宮学園高等部を卒業し東城大学医学部の4年生に特別編入しいた佐々木アツシに〈いのち〉のことを相談した――。

タイトルから分かるとおり、2008年(平成20年)1月の『医学のたまご』の続編だ。「たまご」では近未来のジュブナイルSFという設定だったが、本書の設定は2023年(令和5年)4月、再来年の話である。
ナイチンゲールの沈黙』『アクアマリンの神殿』に登場する佐々木アツシ、『ジーン・ワルツ』の曾根崎理恵、『夢見る黄金地球儀』の4Sエージェンシー。そして、『チーム・バチスタの栄光』から始まる海堂ワールドの不動の主人公であり愚痴外来の冴えない田口公平先生は、ついに教授にまで上り詰め、ファンタジーRPGよろしく、スマホをポチッと押して〈火喰い鳥〉白鳥圭輔を召還――海堂ワールドのオールスター大進撃である🤣

最後にカオルは「世の中の大概のことは、こんな風に決着がつかないまま終わったりするものだ」(220ページ)と独白するが、本書の続編『医学のつばさ』が翌月刊行された。いよっ、海堂先生の商売上手👏
(2021年7月3日 読了)
表紙 医学のつばさ
著者 海堂 尊
出版社 KADOKAWA
サイズ 単行本
発売日 2021年06月24日頃
価格 1,760円(税込)
ISBN 9784041110812
進藤美智子「今の日本では本当のことが報道されず、なかったことにされてしまうのかもしれませんが、ひとりひとりの記憶までなかったことにはできません」(253ページ)

医学のひよこ』の続編――〈いのち〉は「首相案件」として、「こころの移殖」を目論む赤木雄作により、アツシが管理する未来医学研究センターに囚われ、美智子も学校を休学してしまう。毎日カオルに届いていた父・伸一郎からのメールも届かなくなった。背後に「組織」と呼ばれる正体不明の敵がいた。

1学期の期末試験直前、進藤美智子が復学する。そして、泣きながら曾根崎薫に「〈いのち〉ちゃんを助けてあげて」と言う。
カオル、ヘラ沼、三田村が立ち上がる。東城大学医学部の田口公平教授と高階権太学長、そして、厚生労働省の〈火喰い鳥〉こと白鳥圭輔室長と、〈いのち〉を奪還する計画を立てる。マサチューセッツ医科大学の東堂文昭教授(『ケルベロスの肖像』)が、〈いのち〉を撮影できる超大型MRI「フローティング・ガブリエル」を搭載した輸送戦艦「ポセイドン」に乗って桜宮に接岸する。未来医学研究センターから〈いのち〉を「ポセイドン」へ搬送し、奪還する計画だ。

カオルらは、バー「どん底」(本当の店名は「ブラックドア」)へ向かい、4Sエージェンシーの牧村瑞人(『ナイチンゲールの沈黙』『夢見る黄金地球儀』)、SAYO(浜田小夜;『ナイチンゲールの沈黙』)の協力を仰ぐ。一行が未来医学研究センターに入って見たのは、コールドスリープしたまま3年経っても眠りから覚めない日比野涼子(『モルフェウスの領域』)だった。佐々木アツシは彼女を救うため、〈いのち〉の研究に手を貸したという。

カオルたちは〈いのち〉を潜水艇に乗せて奪還。そして、〈いのち〉が孵化した洞窟に漂着する。捜索の手がそこまで迫っているというとき、〈いのち〉が、突然、姿を変えた――〈いのち〉の運命は、カオルたちの罪は?
騒動の最中、「桜宮事変の真実」というタイトルで写真が1枚ツイートされた。「『桜宮トンデモ中坊』が在日米軍関連の民間潜水艇を強奪したのは、政府がひた隠しにしていた巨大新種生物〈いのち〉を軍事的に悪用するのを止めさせ、逃がそうとしたためだ」というコメントがつき、これがバズった。
さて、東城大学との因縁は解決したのだろうか。そして、白い顔をしたアイスマンの正体は――人生は、行き当たりばったりのでたとこ勝負。
(2021年7月10日 読了)
この項つづく
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