脳内のごみ掃除機能

2026年5月8日 更新

目次

注射1回で「脳内のごみ」の除去量を約1割増やせる

注射を受ける高齢者
米ワシントン大学などの研究者らが、一度の投薬でマウスの脳細胞を改造し、アルツハイマー病の原因となる〈ごみ〉を掃除させる新しい治療法を2026年(令和8年)3月に研究報告した。
アルツハイマー病の発症には、脳内にアミロイドβタウと呼ばれるタンパク質が異常に蓄積することが深く関わっている。脳には、睡眠中にこれらの不要なタンパク質を洗い流す「グリンパティック系」という浄化システムが備わっていることが近年の研究で明らかになっている。

しかし、薬の力でこのシステムを意図的に活性化させ、実際に原因タンパク質の排出を促せるかどうかは、これまで実証されていなかった。今回、研究チームは、特定の薬の組み合わせによってこの浄化システムを強化し、アミロイドβやタウの排出量を増加させることに成功した。

研究チームは当初、眠りを深める鎮静薬「デクスメデトミジン」(DEX)という薬を健康な高齢者に投与する臨床試験を行った。脳波上では深い睡眠が増加したものの、同時に全身の血圧が低下する現象が生じた。血圧が下がると、脳は一定の血流を維持しようとして脳内の血管を広げる。
この問題を解決するため、チームは血圧の低下を防ぐ薬である「ミドドリン」を組み合わせた「ACX-02」という新しい配合剤を用いた試験を実施した。
高齢者を対象に、4時間15分の睡眠機会を設け、その間にACX-02を投与したところ、血圧を正常に保ったまま深い睡眠を増やすことができた。これにより、脳血管の拡張による通り道の圧迫を防ぎつつ、脳液の循環をスムーズにするという、タンパク質の排出に理想的な環境を作り出すことに成功した。
実際に血液中の成分の動的変化を分析した結果、1回の睡眠セッションの間に、脳から血液へ排出されるアミロイドβの排出が8.45%、タウの排出が9.66%増加したことが確認された。

「脳内のゴミ掃除機能」壊す新たな一因を特定

マウスの脳にゴミが溜まりアルツハイマー病を発症するイメージ
2026年(令和8年)3月に、中国・広州医科大学の研究チームが、アルツハイマー病に伴い脳の老廃物排出システムの崩壊を引き起こす原因タンパク質を特定し、これを分解する抗体を脳内に届けることで病態を改善できることをマウスで示した研究報告を発表しました(プレプリント)。
この論文は、アルツハイマー病における脳血管障害や老廃物排出機構の異常に注目し、その中心的な因子として DDR2 を示した研究です。著者らは、ヒトの単一核RNA解析や、ヒト・霊長類・モデルマウスの組織解析により、DDR2が反応性アストロサイト、血管周囲線維芽細胞、脈絡叢上皮細胞で増加していることを確認しました。特にアストロサイトでのDDR2発現は、病期の進行、アミロイドβ沈着、認知機能低下と関連していました。

さらに、APP/PS1モデルマウスでDDR2を過剰発現させると、アミロイドβ沈着、脳血流低下、血液脳関門障害、グリンパティック機能低下が悪化しました。一方、DDR2を分解へ導く抗体HL2を投与すると、DDR2シグナルやCollagen X発現が抑えられ、認知機能、脳血流、糖供給、脳脊髄液動態、アミロイドβ病変が改善しました。

本研究は、DDR2をアルツハイマー病の血管・代謝・排出障害を結びつける重要な標的として提案しています。ただしmedRxiv掲載のプレプリントであり、査読前かつ主に動物実験に基づくため、ヒトでの有効性と安全性は今後の検証が必要です。

参考サイト

(この項おわり)
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