『僕らのパソコン10年史』――バブル経済のまっただ中

SE編集部=著
表紙 僕らのパソコン10年史
著者 SE編集部
出版社 翔泳社
サイズ 単行本
発売日 1989年09月01日頃
価格 1,281円(税込)
ISBN 9784915673399
知野明「新聞や雑誌などと違って誰でも自由に書きたいことが書ける『ネットワーク』というメディアには、実は一番『他人の立場を考える』という思いやりの心が必要である」(150ページ)

概要

ビル・ゲイツ(1989年)
ビル・ゲイツ(1989年)
20年後に出版される『僕らのパソコン30年史』(SE編集部,2010年5月)と重なる内容だが、こちらは1989年までの出来事であることと、当時の業界人の発言が興味深い。バブル経済全盛期、パソコンの歴史はたった10年しかなかった。マイクロソフト創業者ビル・ゲイツの表記が「ビル・ゲーツ」になっていたり、時代を感じさせる。
『マイクロコンピュータの使い方』(1975年)
『マイクロコンピュータの使い方』(1975年)
1975年に『マイクロコンピュータの使い方』を出版した石田晴久 (いしだ はるひさ) さん(2009年3月死去)は、PC-9800シリーズが頑なに守ってきた解像度640×400ドットという制約が足枷になると指摘し、MS-DOSがかなり複雑になってきていることから、「これからはパソコンを使いやすくする努力を一生懸命しないといけないでしょう」(32ページ)と語る。
嶋正利(1974年)
嶋正利(1974年)
ビジコンからインテルへ出向し、世界初のCPU「4004」の開発に携わった嶋正利 (しま まさとし) さんは、その後、ザイログへ移籍し Z80を開発する。当時を振り返り、いまの32ビットCPUは 8086 を高速に実行するためだけに使われていると批判し、OS/2ではなくWindowsが普及するだろうと予言する。
Intel 4004(1971年)
Intel 4004(1971年)
また、CPUの一社独占はよくないことと考え、VMテクノロジーの設立に関わった。パソコンはもっと単純化して、デスクトップではなく、使いたいときにいつでも取り出して使えるラップトップ型がいいという。
下川和男(2007年)
下川和男(2007年)
イーストの創業者で長年日本語変換ソフトに取り組んでいる下川和男さんは、いまのワープロソフトは作り込みすぎており、たとえば「一太郎 Ver.4」でハードディスクとEMSがないとうまく動かないというのはユーザー側からしたらありがたいことではなく、東芝のダイナブックのような軽い環境で動くといいと語る。また、DTPのための標準フォーマットETXを開発している。(AdobeがPDFバージョン1.0をリリースするのは、本書より後の1983年のこと。)
『PC-VANのすべて』(1989年)
『PC-VANのすべて』(1989年)
パソコン通信時代のネットワークジャーナリストの知野明さんは、「新聞や雑誌などと違って誰でも自由に書きたいことが書ける『ネットワーク』というメディアには、実は一番『他人の立場を考える』という思いやりの心が必要である」(150ページ)と語る。これは、30年後のインターネット時代でも変わらない真実だ。

コラムニストの小田嶋隆 (おだじま たかし) さんは、「十年大昔」として、パソコン業界の移り変わりの速さを嘆く。小田嶋は2022年6月24日に65歳で他界された。
2022年から振り返ってみると、お亡くなりになった方も多く、存命でも一線を退かれている方が多い。30年以上も前のことだから仕方がないのかもしれないが、私自身、現役を退く時期が近づいている‥‥この業界は30年前と変わったことがほとんどだが、変わらないことが確かにあることを後進に伝えておきたい。
(1989年10月2日 読了)

参考サイト

(この項おわり)
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