海堂尊の医療エンターテイメント

その他
表紙 夢見る黄金地球儀
著者 海堂尊
出版社 東京創元社
サイズ 文庫
発売日 2009年10月
価格 691円(税込)
rakuten
ISBN 9784488498016
1988年、桜宮市に舞い込んだ「ふるさと創生一億円」は、迷走の末『黄金地球儀』となった。四半世紀の後、投げやりに水族館に転がされたその地球儀を強奪せんとする不届き者が現れわる。物理学者の夢をあきらめ家業の町工場を手伝う俺と、8年ぶりに現われた悪友・ガラスのジョー。二転三転する計画の行方は?新世紀ベストセラー作家による、爽快なジェットコースター・ノベル。
 
たとえ古くからの友人をハメてでも、知らなければならないこともある。それは何か。真実だ。(13 ページ)

映画化もされた「チーム・バチスタの栄光」でデビューした現役医師の著作。
「チーム・バチスタ‥‥」に始まる連作の舞台となっている桜宮市で起きた事件をめぐる話だが、いつもの医療エンターテイメントではなく、かといって殺人も起きないし、怪盗も登場しない。
でも、登場人物が面白い――いかにも公務員らしい市職員たちや技術畑一筋の工場主、奥さんに頭が上がらない主人公と、アニメに出てきそうな怪力女性。工場用機械の細かい描写が、この小説をさらに楽しいものにしている。
(2010 年 1 月 8 日 読了)
表紙 ジェネラル・ルージュの伝説
著者 海堂尊
出版社 宝島社
サイズ 単行本
発売日 2009年03月
価格 1,296円(税込)
rakuten
ISBN 9784796669122
その新人外科医は、なぜ将軍となりえたのかー東城大付属病院・救命救急センター部長速水晃一の若き日を描いた最強の医療エンターテインメント。
 
ジェネラル・ルージュの凱旋」のスピンオフ小説「ジェネラル・ルージュの伝説」と著者自らが半生を綴ったエッセイや海堂作品群の解説、著者が構築した世界観の用語や設定紹介が収録されている。
複雑に入り組んでいる海堂ワールドを読み解くのに便利。
(2010 年 10 月 21 日 読了)
表紙 玉村警部補の災難
著者 海堂尊
出版社 宝島社
サイズ 単行本
発売日 2012年02月
価格 1,645円(税込)
rakuten
ISBN 9784796688215
正月特番用のバラエティ番組収録中、巨大迷路内でタレントが殺された。カメラが設置された密室での犯罪が加納と玉村を待ち受けるが、加納の論理的推理が炸裂する(「青空迷宮」)。「チーム・バチスタ」シリーズの加納警視正と玉村警部補が難事件に挑む。
 
桜宮市警察署の玉村警部補は、警察庁のデジタル・ハウンドドッグこと加納警視正にこき使われる毎日だ。海堂ワールドで田口先生より損な役回りをさせられるようなった玉村警部補をめぐる中編4 本――さんな検視体制の盲点を突く「東京都二十三区内外殺人事件」、密室空間で起きた不可能犯罪に挑む「青空迷宮」、最新の科学鑑定に切り込んだ「四兆七千億分の一の憂鬱」、闇の歯医者を描く「エナメルの証言」。

ネトゲでも超人的な才能を見せる加納警視正は、「捜査はモニタに張りつき検索かけまくりに変わるのかもな。そうしたらニートの引きこもりを大量雇用すればいい。連中は凝り性だから、丹念に捜査してくれるだろうし、ヒマ人間の余った時間の有効利用につながり、雇用創出、国力増強にもなるし、な」(133 ページ)と言い切る。
作者の思いを反映してか、司法に対する不信感をもつ田口先生は「加納さんは信頼してます。でも医療システムの一員として、司法システム全体に対して抱いている不信感は、決してゼロにはなりません」(177 ページ)と批判する。

こんな一癖も二癖もある連中に取り囲まれ、玉村警部補の災難は続く。
(2013 年 4 月 2 日 読了)
表紙 玉村警部補の巡礼
著者 海堂尊
出版社 宝島社
サイズ 単行本
発売日 2018年04月04日
価格 1,490円(税込)
rakuten
ISBN 9784800281135
四国であがる犯罪者たちの水死体。加納警視正は謎を追い、リフレッシュ休暇で遍路に出た玉村警部補に無理やり同行する。そんな二人の行く先々には、いつも不可解な事件が…。
 
テレビ・ドラマ化された『ナイチンゲールの沈黙』で活躍する玉村誠警部補が、リフレッシュ休暇で四国遍路に出掛けた。そこへ、上司の加納達也警視正が無理矢理に同行する。遍路の途中、2 人は次々に事件に巻き込まれる――。

まず徳島では、賽銭泥棒の容疑者として逮捕された女性の無実を証明する。
次の高知では、10 年前に起きた政治家秘書殺害事件の容疑者の鉄壁のアリバイを突き崩す。銀塩時代のカメラを知る各位は、ニヤリとさせられるトリックが仕組まれている。
そして愛媛では、蚊を信仰する謎の寺院で失血死体に遭遇。海堂先生がホラー小説を書くわけもなく、本編でも活躍する Ai の専門家、放射線科医の島津吾郎が滞在先の道後温泉から召還され、死因を探る。
4県目の香川では、ひょうげ祭りに爆破予告があり、これを未然に防ぐのだが、背後には闇の組織が――なお、ひょうげ祭りも屋島水族館も実在している。とくに屋島水族館は、2006 年(平成 18 年)に事業譲渡され新屋島水族館として営業再開しているところも物語と同じである。

4 本の短編は、小気味の良いテンポで進み事件を解決してゆく。加納と玉村のデコボココンビの温泉ミステリーというだけで笑えるのだが、四国遍路という実体に対する虚構のブレンドが絶妙である。宗教という禁忌領域でこれをやるのが、海堂ワールドの真骨頂。
ちなみに、わが家は真言宗であるが、最後に単行本書き下ろしの高野山エピソードがある。金剛峯寺奥之院のユーモアのある描写は珠玉の出来映え。好奇心と笑いとで、最後まで楽しく読むことができた。
(2015 年 6 月 9 日 読了)
表紙 ガンコロリン
著者 海堂尊
出版社 新潮社
サイズ 単行本
発売日 2013年10月
価格 1,512円(税込)
rakuten
ISBN 9784103065746
夢の新薬開発をめぐる大騒動の顛末を描く表題作ほか、完全な健康体を作り出す国家プロジェクトに選ばれた男の悲喜劇を綴る「健康増進モデル事業」、医療が自由化された日本の病院の有様をシニカルに描く「ランクA病院の愉悦」など五篇を収録。
 
人のために、ではなく、自分が必要とする必然の仕事が天から降ってきたのだ。(146 ページ)

映画化もされた「チーム・バチスタの栄光」「ジェネラル・ルージュの凱旋」などでお馴染みの、医師で作家の海堂尊による短編集だ。

「健康増進モデル事業」――完全な健康体を作り出す国家プロジェクトに選ばれた木佐。彼のストレスを取り除くべく、厚生労働省により上司は更迭され、競合他社を出し抜き、木佐はとんとん拍子に出世した。そんな彼に悲劇が――国家権力振り回される会社と従業員が面白くもあり、悲しくもある。

「緑剥樹の下で」――内乱で荒廃したノルガ王国で、非科学的な習慣と対峙するセイ。彼は王子の命を救うために全力を尽くすが――少しもの悲しいお話。

「ガンコロリン」――飲むだけで癌を抑制できる夢の新薬が発明された。長編シリーズでもお馴染みのサンザシ薬品が商品名「ガンコロリン」として販売開始。サンザシ薬品の株価は急騰、発見者はノーベル賞を受賞し、日本の医療構造まで変わった。しかし 20 年後に悲劇が訪れる――外科医療をよく知る作者ならではの痛烈な近未来 SF。

「被災地の空へ」――東北地方で大地震が発生。ジェネラルルージュこと速水は現地に駆けつけるが、救護所にやって来るのは軽傷者と溺死体ばかり。取り残された医療機関からの患者搬送が必要であることに気づいた速水は、全国のドクターヘリに招集をかけるが――速水という男の生き様は、長編シリーズも合わせて読むと、より楽しめる。

「ランクA病院の愉悦」――TPP 導入で自由診療になった。医療機関は、受診料が安いランク C から高いランク A までに分類。片頭痛に悩まされている作家の終田は、ふとしたことからランク C病院とランク A病院の取材をすることに。ランク C の診療はロボットが行うが、ランク A病院の医療サービスは――“長いものに巻かれない”海堂節が炸裂する。
(2013 年 11 月 14 日 読了)
(この項おわり)
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