『SF挿絵画家の時代』――趣味を広げてくれた絵師さんに感謝

大橋博之=著
表紙 SF挿絵画家の時代
著者 大橋博之
出版社 本の雑誌社
サイズ 単行本
発売日 2012年09月
価格 1,980円(税込)
ISBN 9784860112332
真鍋博「未来は、緑あふれる環境に人間が住んでいて、その中で絵を描くと緑の絵の具が真っ先になくなる、そんな世の中であってほしい。」(117ページ)

概要

小学生から中学生にかけて多くのSF作品を読んだが、40年以上を経た今でも、表紙や挿絵が記憶に焼き付いているものがある。今どきのCGや萌え絵とは違い、現代美術の影響を受けた挿絵画家さんたちがSFの表紙を彩っていた時代である。空想の世界が広がり、科学誌や音楽、果てはプラモデルまで、挿絵画家さんつながりで、子どもの頃の趣味の幅が広がっていった
中学生の頃に読んだSF『銀河帝国の興亡』シリーズ(アイザック・アシモフ=著)の表紙・挿絵を担当した林巳沙夫さんの名前を見かけ、本書を手に取って読んでみた――。
以下、個人的に記憶に残っている挿絵画家さんをピックアップして紹介する。また、本書刊行後に他界された方の死没年を補足した。

目次

林巳沙夫

銀河帝国の興亡
林巳沙夫
創元推理文庫版の『銀河帝国の興亡』(アイザック・アシモフ=著)を読んだのは中学に入ってから。林巳沙夫 (はやし みさお) さん(1939~2021)の表紙/挿絵は、写真をコラージュしたものが中心で、もはや現代美術の領域――抽象的な概念を扱えるようになった中2病男子がハマったのは言うまでもない。
あらためて見ると、表紙中央の箱のようなものに人物、道化師、頭蓋骨が閉じ込められているように見えるが、これは、私が大学生のときに刊行された続編の『ファウンデーションの彼方へ』の暗喩とも受け取れる。もちろん、創元推理文庫版発刊当初、誰も続編が出るとは思わなかったわけだけれど――SFの挿絵は印象的で、どこまでも不可思議だ。

金森達

宇宙大作戦
金森達
ジュニア版世界のSF『宇宙大作戦』(1969年)――ハードカバーである。これが、生まれて初めて読んだSFだ。ジュニア版にもかかわらず、表紙/挿絵は金森達 (かなもり とおる) さん(1932~)。この表紙が記憶に刻み込まれた。のちに、ハヤカワSF文庫版の「宇宙大作戦/スタートレック」シリーズの挿絵を担当しており、何冊も買って読んだものである。
宇宙のスカイラーク
金森達
創元推理文庫版のE.E.スミス『宇宙のスカイラーク』の表紙/挿絵を担当したのも金森達さん。これも小学生のころ読んだ。
マッチョな科学者が大富豪の親友と宇宙船スカイラーク号で大冒険。ラスボスを倒すために、ライバル科学者と協同するというのは、少年ジャンプのノリ。原作は100年以上前に書かれた。
金森さんの絵を見ると、いまでもワクワクする。

真鍋博

「レンズマン」シリーズ
真鍋博
真鍋博 (まなべ ひろし) さん(1932~2000)は、E・E・スミスの『レンズマン』シリーズ(創元推理文庫)の表紙・挿絵が記憶に残っている。直線と曲線の組み合わせに、目立つ色使いが印象的だ。

講談社ブルーバックスの表紙・挿絵も多く手掛けており、SFから自然にブルーバックスの世界に入っていくことになる。

小松崎茂

サンダーバード2号
小松崎茂
小松崎茂さん(1915~2001)は、サンダーバードのプラモデルの箱絵が鮮明に記憶されている。また、東宝特撮映画「地球防衛軍」のメカデザインとして参加している。
戦争にかかわり、軍事イラストも多い小松崎茂さんだが、彼が描くメカには武器としての恐ろしさが感じられない。人間にバラ色の未来を約束してくれるメカばかりである。
生前こう言っていたという――「ライバルは写真だね。若いころはライカに負けない絵を描きたいと思ったものだよ。写実性じゃ、どうしてもかなわない。でも、これから起こる未来、誰も知らない太古のことは、絵じゃないと描けない。画家には想像力という武器があるからね」。

長岡秀星

冨田勲 惑星
長岡秀星
長岡秀星 (ながおか しゅうせい) さん(1936~2015)は、多くのレコードジャケットを描いているが、私が最初に出会ったのは、冨田勲さんの『惑星』(1976年)である。ここからシンセサイザー音楽に関心をもち、YMOからクラシック音楽まで幅広い音楽を聴くようになる。

生頼範義

スターウォーズ帝国の逆襲
生頼範義
生頼範義 (おうらい のりよし) さん(1935~2015)は、スターウォーズの製作者ジョージ・ルーカスから正式に依頼され、『スターウォーズ・帝国の逆襲』の国際版ポスターのイラストレーターとなったという、SF挿絵界の大御所だ。
本書によれば、ルネサンス期の画家を尊敬しており、SFアートを志す少年たちに向け、こう呼びかける。「まずは、自分の手首を描くことから始めたまえ。かつて、その手が握った旧石器の固い感触を想い出したまえ。そこが遙かな“時間と空間”への出発点である」。

宮武一貴

超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか
宮武一貴
宮武一貴 (みやたけ かずたか) さん(1949~)は、スタジオぬえのメカニックデザイナーと言った方がピンと来る人が多いだろう。マジンガーZの内部図解を始め、宇宙戦艦ヤマト、アルカディア号、コン・バトラーV、超時空要塞マクロス、トップをねらえ!など、多くのアニメ作品に登場するメカを手掛けている。
ロバート・A・ハインライン『宇宙の戦士』
宮武一貴
ロバート・A・ハインラインは私の好きなSF作家の1人だが、同僚の加藤直之さんと共同デザインした『宇宙の戦士』のパワードスーツは、ガンダムに影響を与えたという。

加藤直之

田中芳樹『銀河英雄伝説』
加藤直之
加藤直之 (かとう なおゆき) さん(1952~)は、宮武一貴さんと組んでスタジオぬえのメカニックを支えているイラストレーターだ。武部本一郎さんの〈火星シリーズ〉を読んだことがきっかけで、SFイラストレーターになったという。

田中芳樹さんの『銀河英雄伝説』シリーズの表紙・挿絵や、アニメ版の艦船デザインを担当した。
J・P・ホーガン『星を継ぐもの』
加藤直之
J・P・ホーガンは私の好きなSF作家の1人だが、創元推理文庫版の全作品の表紙を描いている。
星を継ぐもの』は、1990年4月からNHKで放映されたアニメ『ふしぎの海のナディア』の最終回タイトルになっている。

1990年代からCGを積極的に採り入れており、私たちに近い世代のSF挿絵画家さんだ。

金子三蔵

アーサー・C・クラーク『銀河帝国の崩壊』
金子三蔵
金子三蔵さん(1909~1990)は、アーサー・C・クラークの『銀河帝国の崩壊』(創元推理文庫、1969年)の表紙を担当した。
本書では「お世辞にも上手といえるような絵ではなかった」(17ページ)と記されているが、この不気味な色調が、私の記憶に鮮明に残っている。
その後も、創元推理文庫で多くのSF作品の表紙を手掛けた。

中山正美

光瀬龍『明日への追跡』
中山正美
児童文学のベストセラー『大きい1年生と小さな2年生』(古田足日=著)は、発刊直後に買ってもらった。表紙/挿絵の中山正美さん(1914~1979)は、『明日への追跡』(光瀬龍=著)などの表紙/挿絵も担当している。児童書からSFへスムーズに入っていけたのは、こうした挿絵画家さんのおかげだと思う。

武部本一郎

E・R・バローズ『火星のプリンセス』
武部本一郎
武部本一郎さん(1914~1980)は、E・R・バローズの火星シリーズの表紙でお馴染みだ(『火星のプリンセス』(創元推理文庫、1965年)。
武部本一郎さんの奥さんが挿絵のモデルをやっていたそうで、「デジャー・ソリスは私なの」だとか。
ポプラ社の子ども向け伝記の挿絵も担当しており、覚えている方も多いのではないだろうか。

南村喬之

アンドロメダ星雲
南村喬之
南村喬之 (みなみむら たかし) さん(1919~1997)は、エレーモフの『アンドロメダ星雲』の表紙・挿絵が記憶に残っている。

少年マガジンで、ゴジラやウルトラマンなどのカラー特集も多く描いている。

松田正久

黒後家蜘蛛の会
松田正久
松田正久 (まつだ まさひさ) さん(1931~)は、アイザック・アシモフのミステリ『黒後家蜘蛛の会』シリーズ(創元推理文庫)の表紙が記憶に残っている。
創元推理文庫の「SF」「鍵」マーク
松田正久
また、創元推理文庫の「SF」「鍵」マークをデザインしたのも、松田さんとのこと。
松田さんは言う――「デザインというのは物を追求していくことでしょ。でも絵は物ではなくてその周りの空気、宇宙が大事。そこがデザイナーと絵描きの違いだと僕は思っています」。

野中昇

アイザック・アシモフ『鋼鉄都市』
野中昇
ハヤカワSF文庫の刊行数が増えてきて、中でも野中昇さん(1948~)の表紙が多い。『鋼鉄都市』をはじめとするアイザック・アシモフの作品など50冊以上を手掛けたという。
画材はアクリル絵の具というが、リアルかつ幻想的な絵が印象に残る。印刷技術の進歩もあって、文庫本の表紙でも微妙な色の変化が表現できるようになってきたのだと思う。
1970年、ハヤカワSF文庫を創刊した森優 (もり ゆう) さん(1936~)は、南山宏 (みなみやま ひろし) のペンネームで多くの超常現象の著作があり、雑誌『ムー』の顧問でもある。当然のこととして、オカルトも私の趣味の範疇である。

高荷義之

ガンダム
高荷義之
高荷義之 (たかに よしゆき) さん(1935~)は、『気分はもう戦争』(矢作俊彦・大友克洋,1982年)の表紙で有名だが、小松崎門下で戦車の絵を中心に描いてきた。のちにアニメのポスターも手掛けており、活動範囲がとても幅広い。
高荷さんが描くロボットは、近年のCGとは違った、異様な存在感がある。

松本零士

ノースウェスト・スミス『大宇宙の魔女』
松本零士
松本零士さん(1938~)は、『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』でお馴染みの漫画家であるが、SFの表紙も描いている。
『大宇宙の魔女』は、熱線銃一丁を手にして星から星へと渡り歩く宇宙の無宿者ノースウェスト・スミスを主人公にするスペースオペラ・シリーズだが、これは、松本零士さんの漫画世界に重なる。

新井苑子

萩尾望都『11人いる!』
新井苑子
こちらは逆に、漫画の表紙をイラストレーターさんが描いているもの。
萩尾望都さんのSF漫画『11人いる!』の表紙絵が、御本人による絵ではなく、新井苑子 (あらい そのこ) (1942~)さんが描いていることで記憶に残っている。

中西信行

フィリップ・K・ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』
中西信行
中西信行 (なかにし のぶゆき) さん(1948~)はリアルで重厚なイラストを描く。
フィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』をはじめ、アーサー・C・クラーク『幼年期の終わり』、ローバート・A・ハインライン『夏への扉』など、ハヤカワSF文庫で14冊だけ表紙を描いているが、どれも印象的なものばかりだ。
本作は映画『ブレードランナー』の原作だが、本作が原作とは知らずに映画を見た。小説と表紙絵と映画がバラバラに記憶に残っている希有な作品である。
(2021年2月12日 読了)
(この項おわり)
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