『銀河帝国興亡史1 ファウンデーション』

アイザック・アシモフ=著
表紙 ファウンデーション
著者 アイザック・アシモフ/岡部 宏之
出版社 早川書房
サイズ 文庫
発売日 1984年04月24日頃
価格 1,100円(税込)
ISBN 9784150105556
リマー・ポニェッツ「おれはこれを金儲けのためにやっている。世界を救うためにやっているんじゃない」(235ページ)

概要

ファウンデーション
数学者ガール・ドーニックは、セルダン計画に参加するため、銀河帝国の首都惑星トランターへやって来た。観光を終えてホテルに戻ると、ハリ・セルダンが待っていた。セルダンは、心理歴史学を使って5世紀後のトランターの姿を見せた。ガールは信じられないようにいった。「完全な滅亡です! しかし――しかし、そんなことはありえません。トランターはいまだかつて決して――」。
ガールは公安委員会に拘束され、セルダンの裁判を傍聴する。セルダンは、1万2千年続いた銀河帝国が消滅し、3万年の暗黒時代が続くことを予言する。そして、セルダン計画によって、その期間が1千年に短縮できると主張する。
公安委員長リンジ・チェンは、セルダンとその計画に従事するメンバを銀河系の辺縁にある惑星ターミナスへ追放すると告げた。

あらすじ

惑星ターミナスに百科事典財団(ファウンデーション)が設立されてから50年が経過した。アナクレオン太守は王を僭称し、副太守アンセルム・オー・ロドリックを特別使節としてターミナスに派遣した。アナクレオンはターミナスに軍事基地を作ろうとしていたのだが、原子力経済をもっていなかった。そんな中、帝国の貴族ドーウィン卿がターミナスを訪問し、人類の起源問題について語る。ドーウィン卿は実地調査せず、大昔に書かれた考古学書を読むことが科学だと主張する。
ターミナス市長サルヴァー・ハーディンは、ドーウィン卿のいう「科学」も「百科事典」も、科学技術の後退だと指摘する。
ターミナス設立50周年の日、ハリ・セルダンの時間霊廟が開いた。車椅子に座ったハリ・セルダンの映像が現れ、「百科事典財団というのは、欺瞞である」と告げる。そして、ターミナスを襲う危機が、正しいコースをたどらせることになるという。

30年後、若手の市会議員セフ・サーマックは62歳になったハーディンを訪問し、四王国に対するターミナスの政策に対する不満を述べる。ターミナスは司祭を通じて原子力技術を提供しており、宗教的に四王国を支配していた。
アナクレオンは帝国宇宙軍が遺棄した巡洋戦艦を手に入れ、摂政ウェニスはターミナスへの侵攻を計画していた。司祭ポリー・ヴェリソフはハーディンに事の次第を報告。ハーディンはアナクレオンへ向かった。
レオポルドの即位式典。原子力が止まり、宮殿は真っ暗になり松明を灯す有様。頼みの巡洋戦艦も動力を停止してしまった。ウェニスはハーディンに向かって原子銃を放つが、フォース・フィールドによって中和されてしまう。
こうして、ファウンデーションは再び危機を乗り越えた。時間霊廟が開き、ハリ・セルダンの映像は「80年前、もうひとつのファウンデーションが設立されたことを、けっして忘れてはならない」と告げる。

貿易商人リマー・ポニェッツは、仲間のエスケル・ゴロヴを救出するため、アスコーンへ向かう。アスコーンは、ファウンデーションの宗教や原子力を受け入れようとしない王国だった。
ポニェッツは大君主の前で、鉄を黄金に変成して見せた。ポニェッツは大君主の側近の1人、ファールに取り入り、取引を持ちかける。
釈放されたゴロヴに、ポニェッツはこう言う――「おれはこれを金儲けのためにやっている。世界を救うためにやっているんじゃない」。

四王国の1つ、スミルノ出身の貿易商ホバー・マロウは、ジェイムズ・トゥワーとともにコレル共和国を訪れ、アスパー・アーゴ主席と会合した。マロウはスミルノに、帝国の紋章が付いた武器があるのを見た。
マロウは帝国貴族オナム・バーの手引きで、シウェナの原子力発電所を見て回った。
ターミナスに戻ったマロウは裁判にかけられるが、自分に掛けられた嫌疑を晴らし、市長になった。
コレルは帝国の巨大な宇宙船を手に入れ、ファウンデーションへの侵攻を開始した。だが、マロウは何もしなかった。そして、コレルの人民は繁栄を求めて蜂起し、コレル共和国はファウンデーションに無条件降伏した。ファウンデーション設立から150年の歳月が流れた――。

レビュー

はじめて銀河帝国興亡シリーズを読んだのは中学1年の時――それから40年以上の年月が流れたが、いま読んでも、あらたに考えさせられることが多い。
本作品は、アシモフがエドワード・ギボン『ローマ帝国衰亡史』に着想を得て書いたというのは有名な話。マンガ『超人ロック』、映画『スター・ウォーズ』、小説『銀河英雄伝説』は、少なからず本作品の影響を受けているのであろう。
ファウンデーションは銀河系の辺境にあり、少ない資源ながら、その技術力で製品の小型化に成功し、周辺諸国を経済的に併呑してゆく――あたかも戦後日本が歩んできた経済大国への道のりのようだが、本作品の初出は1942年――太平洋戦争は始まったばかり。アメリカ、恐るべし。

作品中で原子力が大きな位置を占めているが、戦後に出版された『宇宙の小石』では原子力に対するアシモフの考え方が大きく変わっている。そして、同じアシモフのロボット・シリーズとの橋渡しとなる『ロボットと帝国』では、さらに‥‥福島第一原発事故を経験してから、これらの作品を読むと、また違った感想を抱く。

銀河帝国興亡シリーズを通じて「心理歴史学(サイコヒストリー)」という、統計学が進化したような仮想の数学が大きな役割を担っている。もしかするとディープラーニングの行き着く先は、「人工知能」ではなく「心理歴史学」なのではないだろうか。

さて、中学生の時に読んだのは創元推理文庫版で、『銀河帝国の興亡』という重厚なタイトル。残念ながら絶版となっているが、「ターミナス」が「テルミナス」になっていたりと、訳文もかなり違う。そして、林巳沙夫さんの挿絵が前衛的で、とても印象的だ。
(2020年8月9日 読了)

アイザック・アシモフの作品紹介

参考サイト

参考書籍

表紙 銀河帝国興亡史1 ファウンデーション
著者 アイザック・アシモフ/卯月
出版社 サイドランチ
サイズ コミック
発売日 2013年10月
価格 990円(税込)
ISBN 9784990256623
 
表紙 銀河帝国興亡史2 ファウンデーション
著者 アイザック・アシモフ/久間月慧太郎
出版社 サイドランチ
サイズ コミック
発売日 2015年02月
価格 990円(税込)
ISBN 9784990256647
 
表紙 銀河帝国興亡史3 ファウンデーション対帝国
著者 久間月慧太郎/Seldon Project/サイドランチ/アイザック・アシモフ
出版社 サイドランチ
サイズ コミック
発売日 2016年12月06日
価格 990円(税込)
ISBN 9784990256692
進撃する銀河帝国!帝国史上最強の軍略家に立ちはだかる死者の手。 異例の若さで昇進を繰り返す金髪の若き将軍ベル・リオーズ。 貴族の反感を浴び、僻地へと追いやられたその先で、 魔法使いが潜む星「ファウンデーション」の存在を知る。 やがてリオーズは、ファウンデーションに戦争を挑む。 だがそこで、死してなお影響を及ぼす天才数学者ハリ・セルダンの死者の手が立ちはだかる。
 
表紙 銀河帝国興亡史4 ファウンデーション対帝国
著者 久間月慧太郎
出版社 サイドランチ
サイズ コミック
発売日 2019年11月28日
価格 990円(税込)
ISBN 9784991106408
銀河帝国の崩壊から300年、希望を託されたファンデーションにも やがて悪政が蔓延しはじめる。 誇りを秘めた者たちがわずかな抵抗を試みる最中、 突如、巨大なカリスマ性を持つ謎の存在"ミュール"が現れる! SF小説屈指のトリックストーリーを秘めた 傑作「ミュール編」スタート!
 
(この項おわり)
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