『ハイペリオン』シリーズ――19世紀の詩が28世紀のSFへ

ダン・シモンズ=著/酒井昭伸=訳

目次

表紙 ハイペリオン 上巻
著者 ダン・シモンズ/酒井昭伸
出版社 早川書房
サイズ 文庫
発売日 2000年11月30日頃
価格 1,034円(税込)
ISBN 9784150113339
マーティン・サイリーナス「初めに言葉ありき。つぎにワードプロセッサーなるしろものが現われた。おつぎは思考プロセッサー。最後に、文学の死。ま、そういうものだ。」(318ページ)
表紙 ハイペリオン 下巻
著者 ダン・シモンズ/酒井昭伸
出版社 早川書房
サイズ 文庫
発売日 2000年11月30日頃
価格 1,034円(税込)
ISBN 9784150113346
ソル「どうして当局は、〈時間の墓標〉のような大いなる謎を無視していられるんだろう?」(68ページ)

ハイペリオン - あらすじ

宇宙船のイラスト(母艦)
28世紀――人類は銀河系へ進出し、200以上の惑星と1500億人の人口を擁する連邦を形成し、惑星間を転移ゲートで結ぶ〈ワールドウェブ〉を構築していた。その技術を提供し管理しているのは、数世紀前に人類から独立したAI群〈テクノコア〉だった。〈テクノコア〉は、その計算力により数世紀先の未来を予測することができた。だが、惑星〈ハイペリオン〉には、未来から時間を遡ってきたという抗エントロピー場をもつ〈時間の墓標〉は、未来予測の不確定要素であった。
シンギュラリティのイラスト
やはり数世紀前に人類から独立した〈アウスター〉は、〈テクノコア〉に依存しない文明を築き、〈ウェブ〉と〈テクノコア〉と対立していた。
そんななか、連邦CEO(最高運営責任者)マイナ・グラッドストーンは、領事に〈ハイペリオン〉に戻ることを命じた。
神父のイラスト
領事、ルナール・ホイト神父、フィドマーン・カッサード大佐、詩人のマーティン・サイリーナス、乳児を抱えたソル・ワイントラウブ、私立探偵で唯一の女性ブローン・レイミア、聖樹船〈イグドラシル〉船長ヘット・マスティーンの7人の巡礼が、惑星〈ハイペリオン〉へ旅立った。

第1章 司祭の物語: 神の名を叫んだ男
ハイペリオン〉上陸を前にして、ホイト神父は、かつて〈ハイペリオン〉へ送り届けたポール・デュレ神父について語る。デュレ神父はビクラ族に出会い、聖なる十字架によって不死性を与えられていることを知る。だが、その代償はあまりにも大きかった。
ホイト神父は〈ハイペリオン〉を再訪しデュレ神父を捜索したのだが‥‥そこに大きな秘密があることを領事は知る。

兵隊のイラスト
第2章 兵士の物語: 戦場の恋人
ハイペリオン〉の総督となった、かつての領事の部下シオ・レインが巡礼を迎える。
フィドマーン・カッサード大佐は、仮想訓練でしか会うことができない謎の美女〈ミステリー〉と肌を重ねた。カッサードはプレシアの戦いにおいて蛮族〈アウスター〉を相手に活躍したが、負傷し、病院船に収容された。だが、病院船は〈アウスター〉に襲われ、〈ハイペリオン〉に不時着する。ここでカッサードは実体をもつ〈ミステリー=モニータ〉に遭遇する。〈時間の墓標〉は時間を逆行している。カッサードは怪物〈シュライク〉を使って〈アウスター〉と戦った。
救出されたカッサードは、今度〈モニータ〉と出会ったら殺すつもりだと語る。

吟遊詩人のイラスト
第3章 詩人の物語: ハイペリオンの歌
巡礼は河港〈水精郷 (ナーイアス) 〉に入った。詩人のマーティン・サイリーナスは、オールドアース(地球)で生まれ育った思い出を語り始める。
サイリーナスは北米の裕福な家庭で生まれた。だが、地球は大変動に襲われ、莫大な借金を残して両親が亡くなった。母親は死ぬ前に、最後の財産を小惑星銀行に預金し、サイリーナスを光速より遅い宇宙船に乗せ、惑星〈ヘヴンズ・ゲイト〉へ客観時間167年の旅に出した。その間に生まれた利息は、借金を返済して余りあるものになるはずだった。
ところがサイリーナスが低温睡眠中にオールドアースの資産は凍結され、彼は〈ヘヴンズ・ゲイト〉に着くやいなや運河掘りの労働に着かされた。低温睡眠中の影響で脳卒中を起こし、発生できる言葉は9つしかなかった。サイリーナスが書きためた詩は「終末の地球」として時流に乗ったベストセラーとなり、彼は再び裕福な生活と健康を取り戻した。だが、それは1冊限りのことだった。サイリーナスは、芸術家ひしめくビリー悲観王の王国〈アスクウィス〉を目指す。ビリー悲観王は、土星の衛星「ハイペリオン」からの入植者たちが名付けた惑星〈ハイペリオン〉を開発し豪勢に暮らすのだが、やがてシュライクによる殺戮が始まる。サイリーナスは、シュライクを作り出したのは自分の詩想だと考え、〈ハイペリオン〉に残り、「ハイペリオンの歌」を書いた。詩人の都は朽ち果て、「ハイペリオンの歌」の原稿は燃えてしまい、サイリーナスは延齢処置と冷凍睡眠で長い時を待った。

探検家・考古学者のイラスト
第4章 学者の物語: 忘却の川の水は苦く
巡礼は〈叢縁郷 (エッジ) 〉に到着し、風莱船 (ふうらいせん) に乗り込んだ。〈ハイペリオン〉に来るのは初めてというユダヤ人、ソル・ワイントラウブが語り始める。
バーナード・ワールドで暮らしていたソル・ワイントラウブとサライの娘レイチェルは、大学では考古学を専攻した。〈ハイペリオン〉調査隊に参加し、〈スフィンクス〉と呼ばれる遺跡を調査した。その頃、ソルは、血の色をした双眼が大音声で「娘を燔祭に捧げよ」と告げる悪夢を見るようになった。〈スフィンクス〉で〈時潮 (ときしお) 〉に巻き込まれたレイチェルは、時間を逆行し若返り、その日の記憶を失ってしまうようになった。
ソルはレイチェルを元に戻そうとラビを訪ね、「神は、アブラハムの魂を覗きこみ、本気で息子イサクを殺すつもりであることを見てとったにちがいない」と語る。ラビは否定した。次にソルはシュライク大聖堂を訪ね、〈スフィンクス〉での出来事を告げると、司教は激怒し、ソルを大聖堂から放り出す。マスコミに追い回されるようになったため、一家は砂漠の惑星〈ヘブロン〉へ引っ越した。サライは事故死し、ソルはレイチェルを連れて〈ハイペリオン〉へ向かうことを決意する。ソルは年老いたが、レイチェルは乳児に戻っていた。
風莱船で移動を続ける巡礼は、聖樹船〈イグドラシル〉が攻撃を受け炎上する様子を目にする。

探偵のイラスト(女性)
第5章 探偵の物語: ロング・グッバイ
風莱船で移動を続ける巡礼。ある朝、聖樹船〈イグドラシル〉船長ヘット・マスティーンの部屋が血まみれになっており、マスティーンがいなくなった。私立探偵で唯一の女性ブローン・レイミアが指揮し船内を捜索するも、マスティーンは見つからなかった。風莱船は〈巡礼の休息所〉の桟橋に到着し、巡礼はゴンドラに乗り換えた。一同が夕食を食べ終え、レイミアが語り始める。
レイミアの事務所を訪れた客ジョニイは、AIの頭脳と人間そっくりのボディを備えたサイブリッドだった。ジョン・キーツの人格を核に誕生したジョニイは、自分のボディが破壊され、AI本体が攻撃を受け、〈殺された〉と訴え、レイミアに犯人捜しを依頼する。
やがてレイミアとジョニイは愛するようになる。サイブリットであることをやめて人間になり、〈ハイペリオン〉を目指そうとしてジョニイは〈テクノコア〉から狙われていた。〈テクノコア〉は連邦が到達していない大マゼラン雲内にオールドアースのアナログコピーを造っていた。レイミアは連邦CEOマイナ・グラッドストーンに面会し、人間になったジョニイに再開する。そして、連邦、〈テクノコア〉、〈ハイペリオン〉、〈アウスター〉の関係を知る。シュダイク大聖堂でジョニイは死に、レイミアにデータを残す。

コロンブスの似顔絵イラスト
第6章 領事の物語: 思い出のシリ
時観城 (じかんじょう) 〉に入った巡礼は、夕食をとることにした。宇宙では、〈アウスター〉と連邦との間に戦闘が始まっていた。
領事は、恒星間宇宙船の乗組員マーリン・アスピックについて語り始める。彼は、連邦に加入していない惑星〈マウイ・コヴェナント〉の少女シリと愛し合い、子どもをもうける。だが、恒星間宇宙船が立ち寄る度に、この惑星では11年が経過する。シリは連邦への加入を推進することで出世したが、マーリンとの6度目の再会は適わなかった。
マウイ・コヴェナント〉は連邦に加入するが、多くの観光客や移住者が流れ込んだことで惑星は破壊され、シリの反乱が起きた。反乱はすぐに鎮圧されたが、2人の孫である領事は、連邦に対して複雑な感情を抱いており、〈アウスター〉を訪問し、彼らが〈ハイペリオン〉を欲する目的を理解し、三重スパイとなる。
こうして巡礼たちは話を終え、いよいよ、〈時間の墓標〉へ向かって谷を下ってゆく――。
表紙 ハイペリオンの没落 上巻
著者 ダン・シモンズ/酒井昭伸
出版社 早川書房
サイズ 文庫
発売日 2001年03月
価格 946円(税込)
ISBN 9784150113483
デュレ神父「ソツィヌスはAD16世紀イタリアの、異端的な神学者です。彼の信条は――この信条ゆえに彼は破門されたのですが――こういうものでした。神は万能の存在ではなく、学び、かつ成長するものである‥‥ちょうど世界が‥‥宇宙が‥‥より複雑になっていくように、と。じつはわたしも、ソツィヌスの異端に踏みこんだのですよ、ソル。あれがわたしの、最初の罪だったのです」(327ページ)
表紙 ハイペリオンの没落 下巻
著者 ダン・シモンズ/酒井昭伸
出版社 早川書房
サイズ 文庫
発売日 2001年03月
価格 1,034円(税込)
ISBN 9784150113490
〈雲門〉は死にたくないのだ。(367ページ)

ハイペリオンの没落 - あらすじ

宇宙船のイラスト(戦闘機)
連邦の首都惑星 TC2(タウ・ケティ・センター)から、惑星〈ハイペリオン〉で蛮族〈アウスター〉と戦うために、連邦が誇る〈無敵艦隊〉が出陣していく。第2のジョン・キーツの復元人格であるジョセフ・セヴァーンは、連邦CEO(最高運営責任者)マイナ・グラッドストーンに呼び出され、要人たちと出撃の映像を見ながら、「まあ、あんなものでしょう」と言い放った。
グラッドストーンと2人きりになったセヴァーンは、〈時間の墓標〉にいる巡礼の様子を語る。セヴァーンは夢の中で私立探偵ブローン・レイミアとつながっていた。
中東の難民のイラスト
フィドマーン・カッサード大佐は、ルナール・ホイト神父レイミアを追って〈翡翠碑〉へ向かった。レイミアの目の前で、何者かがホイト神父を切り裂く。
連邦は劣勢に立たされていた。グラッドストーンは巡礼の脱出を認めず、セヴァーンに側近リイ・ハントとともに〈ハイペリオン〉へ転移するよう命じた。〈ハイペリオン〉に降下したセヴァーンとハントは、領事の部下だったシオ・レイン総督に迎えられる。レインは、〈ハイペリオン〉の難民を受け入れるようグラッドストーンに伝えてほしいと申し出るが、ハントは冷たく断る。
サイバー戦争のイラスト
セヴァーンは、かつてレイミアの恋人だった物理学者メリオ・アルンデス博士に出会い、いまでもレイミアを愛しており、〈時間の墓標〉のデータを集めることで彼女を救いたいという。セヴァーンは「できるだけのことはしてみる」と応じた。
ウェブ〉へ戻ったセヴァーンは、晩餐会に出席し、グラッドストーンが演説する中、戦争は芸術だと語る芸術家たちに取り囲まれる。晩餐会を終えたグラッドストーンは、将軍たちから〈ハイペリオン〉へ連邦が保有する3分の2の艦艇を増援すべきと進言を受ける。ウィリアム・アジャンタ・リー中佐が増援に反対するが、その意見は採り上げられなかった。
スフィンクスとピラミッドのイラスト
フィドマーン・カッサード大佐は〈翡翠碑〉でモニータと戦う。だが、カッサードは為す術もなく敗れ、目の前にシュライクが出現する。未来から時間を遡ってやって来たというモニータとシュライクとともに、カッサードは〈モノリス〉の中で輝いているフィールドをくぐった。
スフィンクス〉の中で、12時間前に死んだはずのホイト神父の遺体は、ポール・デュレ神父として蘇った。寄生体〈聖なる十字架〉による再生。デュレ神父は死ぬ直前の記憶を保っていた。
ブラックホールのイラスト
夜中、グラッドストーンは、ゲートをくぐって巡礼たち各々の故郷の惑星を訪ねて回った。
最後に月を訪ね、2338年の〈大いなる過ち〉でミニ・ブラックホールに呑みこまれてしまったオールドアースの跡を眺めた。そこでハントが現れ、アウスターが〈ハイペリオン〉ばかりでなく10ヵ所以上の星域で〈ウェブ〉そのものに対して攻撃態勢に入ったことを告げた。
荒廃した都市のイラスト
レイミアと詩人のマーティン・サイリーナスは食糧を確保するため、〈時観城〉に向かっていた。だが、廃墟となったかつての仕事場を見たサイリーナスは、そこに残ると言い張り、レイミアはやむを得ず彼を置いて〈時観城〉を目指す。
サイリーナスは、そこで、ペンと羊皮紙を取り出すと、未完の大作「ハイペリオンの歌」の創作を再開した。彼は、ギリシア神話の神々と英雄の関係が、いまの状況によく似ていることに気づく。もう少しで完成というところでシュライクが現れ、サイリーナスは連れ去られる。
行方不明になっていた聖樹船〈イグドラシル〉船長ヘット・マスティーンが瀕死の状態で現れるが、謎を残したまま死んでしまう。脳死状態に陥ったレイミアは行方不明になる。領事はホーキング絨毯に乗って宇宙船へ向かおうとするが、墜落してしまう。デュレ神父は谷の奥へ進んでいった。
ついにソル・ワイントラウブと娘レイチェルが残された。ソルの前にシュライクが現れ、彼はレイチェルを差し出した。そして、〈時間の墓標〉が開いてゆく――。

第2のジョン・キーツの復元人格であるジョセフ・セヴァーンは、連邦CEO(最高運営責任者)マイナ・グラッドストーンに呼び出され、夢を中断させられたことに腹を立てた。彼は夢で見た巡礼たちの状況をグラッドストーンに報告した。
ウェブ〉では暴動が起きてきた。セヴァーンは図書館を訪れ、ジョン・キーツのオリジナル原稿を目にする。
ブローン・レイミアのアナログと、その恋人である復元人格ジョニイは、〈メガスフィア〉にいた。〈雲門 (うんもん) 〉は神のように2人に語りかけ、いとも簡単にジョニイを消滅させてしまう。

セヴァーンは惑星〈パケム〉へ転移した。聖ペテロ大聖堂には、モンシニュオール・エドゥアールとポール・デュレ神父がいた。デュレ神父は、惑星〈ハイペリオン〉での出来事を語る。グラッドストーンの腹心リイ・ハントがやって来て、セヴァーンとともに首都惑星TC2(タウ・ケティ・センター)へ向かおうとするが、見たことのない惑星の表面に転送されてしまう。あてどもなく歩いていると、セヴァーンは喀血する。ジョン・キーツが罹患していた結核だった。

セヴァーンと分かれたポール・デュレ神父は、惑星〈ゴッズ・グローヴ〉へ転移し、森霊修道士の〈世界樹の真の声〉セック・ハルディーンに会見する。そこには、シュライク教団の司教もいた。彼らはシュライクこそが予言の存在だと主張するが、デュレは遙かな未来からやって来た機械だと断言する。両者の議論は平行線のまま、デュレはTC2へ戻ろうとするが、ハルディーンの妨害に遭う。ハルディーンは人類と〈コア〉の共生関係が狂気の元凶だという。だが、ハルディーンの目論見通りにはならず、〈アウスター〉はゴッズ・グローヴを滅ぼしてしまう。間一髪で脱出したデュレは、グラッドストーンに会う。

アウスター〉は〈ウェブ〉に総攻撃を仕掛けてきており、惑星〈ハイペリオン〉も戦乱の最中にあった。九死に一生を得た領事は、偶然、かつて部下だったシオ・レイン総督に救出される。グラッドストーンは領事に〈アウスター〉と交渉させるため、領事の宇宙船を解放したという。2人は宇宙港へ向かうのだが、途中、シオは大怪我を負う。運良く、メリオ・アルンデス博士と出会い、彼のスキマーに乗って、3人は領事の宇宙船に乗り込む。宇宙船はグラッドストーンからのメッセージを告げる。グラッドストーンは人類を救うために、領事に〈アウスター〉と交渉を求めていた。
領事は、〈アウスター〉船団のフリーマン・ヴァンズらの諮問を受け、〈ウェブ〉攻撃の驚くべき真相を知る。

スフィンクス〉の入口でレイチェルの帰還を待っていたソル・ワイントラウブだが、突然、〈翡翠碑〉にブローン・レイミアが現れた。レイミアは、シュライクに捕らわれた詩人マーティン・サイリーナスを救出するため、〈シュライクの宮殿〉へ向かう。
フィドマーン・カッサード大佐はモニータとともにシュライクと戦っている。彼はモニータとともに〈時間の墓標〉の未来へ向かい、人類とシュライクの最終決戦に身を投じ、戦いの中で死んだ。彼の遺体は〈クリスタル・モノリス〉に葬られる。

グラッドストーンは、〈コア〉を代表するアルベド顧問官を呼び出し、〈アウスター〉の襲撃を予測できなかった責任を問いただす。だが、アルベドは予測通りだと主張する。アルベドが連れてきたナンセン顧問官は、〈コア〉が開発した最終兵器〈死の杖〉(デスウォンド)を披露する。それは、熱や放射線を発することなく、シナプスにダメージを与える――つまり、動物だけを殺す兵器だ。
電脳空間に飛び込んだ人のイラスト(男性)
セヴァーンの意識は〈メガスフィア〉にあった。彼は〈雲門〉に出会い、対話を通じて、〈コア〉に派閥があることや、各々の目的や、その存在する場所を理解する。
セヴァーンはハントに〈メガスフィア〉で理解したことを詩の形で伝え、自分が〈先触れ〉であることを告げる。セヴァーンは、かつてジョン・キーツが死んだときのように、スペイン広場を見ながら息絶える。そこはオールド・アースだった。
ハントはセヴァーンを埋葬すると、突然シュライクが現れ、墓を見つめている。ハントは転送ゲートを見つけるが、まったく動かない。
神父のイラスト
治療を受けて眠っているデュレ神父の夢に、ジョンを自称する人物が現れ、〈パケム〉へ行くように告げる。
15分の仮眠をとったグラッドストーンは、夢に現れたセヴァーンの言葉を信じ、最後の作戦に打って出る。
レイミアは妊娠していた。〈シュライクの宮殿〉に入ったレイミアはサイリーナスを見つけ、シュライクと対峙し、宙を舞いながらサイリーナスを担いで逃げ延びる。
ワイントラウブは、アブラハムが神への愛ゆえに息子を差し出したのではなく、神を試したのだと悟った。そして、機械の神と人間との戦いの意味を悟った。そして、彼の前に、赤ん坊を抱きかかえたレイチェルが現れる。そこへ領事シオ・レインレイミアサイリーナスがやってきた。レイチェルは自らの素性を明かす――。

すべてが終わってから5ヶ月後、レイミアは仲間に別れを告げ、領事の〈宇宙船〉に乗って旅立ってゆく――。
表紙 エンディミオン 上巻
著者 ダン・シモンズ/酒井昭伸
出版社 早川書房
サイズ 文庫
発売日 2002年02月28日頃
価格 1,144円(税込)
ISBN 9784150113896
サイリーナス「あんたはな、ヒーローになりたいんじゃ」(124ページ)
表紙 エンディミオン 下巻
著者 ダン・シモンズ/酒井昭伸
出版社 早川書房
サイズ 文庫
発売日 2002年02月28日頃
価格 1,144円(税込)
ISBN 9784150113902
アイネイアーとうさんは、人間同士のほんとうの友情は、人間の自然に対する共鳴よりも高次のものだと考えていたけど、人間が到達しうる最高のレベルは愛だと考えていたの」(18ページ)

エンディミオン - あらすじ

宇宙船のイラスト(母艦)
惑星アーマガスト上空にある〈シュレーディンガーの猫ボックス〉で、ロール・エンディミオンは処刑された――はずだったが、彼は救出され、故郷の惑星〈ハイペリオン〉の廃墟エンディミオンで目覚めた。彼を救ったのは、275年前、〈時間の墓標〉を開いた巡礼の一人で千年近い年を渡ってきた詩人のマーティン・サイリーナスだった。エンディミオンは幼い頃、サイリーナスが書いた巡礼の物語〈詩編〉を読み聞かされていた。
スフィンクスとピラミッドのイラスト
サイリーナスはエンディミオンに、ヒーローになって、〈時間の墓標〉の〈スフィンクス〉に現れるブローン・レイミアの娘アイネイアーを迎えに行ってほしいと依頼する。彼女こそ人類の救世主だという。エンディミオンは、サイリーナスに長く仕えてきたアンドロイド、A・ペティックを連れ、かつて領事のものだった宇宙船に乗って〈時間の墓標〉へ向かった。
十字軍のイラスト
大崩壊〉の後、連邦に代わって宇宙の覇権を握ったのは惑星〈パケム〉のキリスト教徒たちが率いる〈パクス〉だった。彼らは〈ハイペリオン〉から盗掘した〈聖十字架〉を利用し、復活の奇跡を司っていた。〈パクス〉の機動艦隊〈東方の三博士〉(マギ)を率いるフェデリコ・デ・ソヤ神父大佐は、6千光年彼方の宇宙空間で〈アウスター〉の軌道森林を焼き払っていた。そこへヴァチカンから急使が訪れ、ソヤは大天使級急使船に乗って惑星〈パケム〉へ向かう。
大天使級急使船は、従来のホーキング航法を大幅に上回る速度で飛ぶことができる代わりに、乗組員はズタズタに引き裂かれ、ジャムのような遺体になってしまう。だが、〈聖十字架〉によって復活することで再び役目を果たすことができる。
洋式のお墓のイラスト
死と復活を経験したデ・ソヤは、ヴァチカンの荘厳さに感極まり、シモン・アウグスティノ・ルールドゥサミー枢機卿から、レイミアの娘を確保する命令を受諾する。絶大な権限をもった〈教皇のディスキー〉を受け取ったデ・ソヤは、大天使級急使船を〈ラファエル〉と名付け、これに乗って惑星〈ハイペリオン〉を目指す。
教会の正史と禁書〈詩編〉の語る歴史は異なっていた。275年前の〈崩壊〉の時、デュレ神父は教皇テイヤール1世となったが、彼が人類は進化して神に合一できると説いた説は明らかな痛んであり、デュレが事故死した後に復活したルナール・ホイト神父が教皇ユリウス6世となり、〈パクス〉の基盤を築いた。ホイトは死と復活を8回繰り返し、現在はユリウス14世として教会を統治していた。
ジャンヌ・ダルクの似顔絵イラスト
エンディミオンは、宇宙船に積んでいた領事のホーキング絨毯に乗り、〈スフィンクス〉へと向かう。だが、〈スフィンクス〉の周囲は、デ・ソヤ神父大佐が率いる数万の陸軍と宇宙艦隊が包囲していた。彼らもまた、アイネイアーが出現する場所と時刻を正確に知らされていたのだ。
ついに、〈スフィンクス〉から少女アイネイアーが現れた。と同時に、シュライクが出現し、〈パクス〉の軍隊を相手に大殺戮が行われ、上空の宇宙艦隊も破壊されてしまう。デ・ソヤは、グレゴリウス軍曹に救わる。
じゅうたんのイラスト
ホーキング絨毯に乗ったエンデュミオンは、砂まみれになったアイネイアーを救出した。救世主の第一声は「このろくでなし!」、そして次の言葉は「ばかやろう」「くそったれ」だった。
無事、宇宙船に乗り込んだエンディミオンアイネイアー、A・ペティックの3人は、惑星〈パールヴァティー〉経由で惑星〈ルネッサンス・ベクトル〉へ向かうことにした。宇宙船内で3人は交流を深め、アイネイアーは自分の立場が〈教える者〉であり、そのために建築を学べる惑星へ向かうのだと語った。
デ・ソヤ神父大佐は、グレゴリウス軍曹とキー伍長をともない、惑星〈パールヴァティー〉に先回りし、〈パクス〉の艦隊を率いて、3人が乗る宇宙船を待ち構えていた。
パールヴァティー〉で実体化した宇宙船にデ・ソヤの部隊が取り付くと、アイネイアーの映像通信が始まった。彼女は次々にエアロックを開放し、地獄へ落ちると脅してきた。アイネイアーに〈聖十字架〉が付けられていないことを知っていたデ・ソヤは、舞台を引き揚げさせ、宇宙船は再び量子化した。
空間の歪みから宇宙船の次の目的地が惑星〈ルネッサンス・ベクトル〉であることを確認したデ・ソヤは、〈ラファエル〉で先回りすることにした。
惑星〈ルネッサンス・ベクトル〉へ向かう途中、アイナイアーは〈テテュス河〉へ行きたいという。かつて、かつて連邦の転移ネットワークを利用した観光川下りであったが、〈大崩壊〉によって転移ネットワークは使えなくなっているはずだ。

惑星〈ルネッサンス・ベクトル〉で宇宙船を待っていたデ・ソヤは夢を見た。夢の中で娘となっていたアイネイアーは、〈聖十字架〉の秘蹟を受けられずに病死したデ・ソヤの姉が大切にしていた磁気のユニコーンを、ポケットから取り出して見せたのだった。
宇宙船が実体化した。ふたたびデ・ソヤの部隊が宇宙船に取り付くが、アイネイアーは自力で宇宙港に着陸すると懇願する。
宇宙港に着陸する寸前で宇宙船は向きを変え、〈テテュス河〉にある動かないはずの転移ゲートに突入した。デ・ソヤの部隊は宇宙船を攻撃するが、残骸も遺体も見つからないまま、宇宙船は忽然と消えてしまった。
デ・ソヤ神父大佐らは惑星〈パクス〉へ帰投し、処分を待った。教会は、デ・ソヤに引きつづきアイネイアー捜索を命じた。デ・ソヤは、かつて〈テテュス河〉が結んでいた200余りの惑星をすべて訪れてでも――つまり、200回以上の死と復活を繰り返してでも――彼女を探し出す覚悟だった。

宇宙船は、位置も名前も分からない惑星に不時着した。だが、攻撃で損傷を受けており、自動修復に6ヶ月はかかる。エンディミオンアイネイアーA・ペティックの3人は、筏を作り、〈テテュス河〉を下っていくことにする。動かなくなったはずの転移ゲートは、どうやらアイネイアーを通すことができるようだった。
いかだを漕ぐ遭難者のイラスト
エンディミオンアイネイアーA・ベティックの3人は筏に乗って〈テテュス河〉を下っていた。次に訪れたのは惑星〈マーレ・インフィニトゥス〉だった。海に浮かぶプラットフォームに人がいた。偵察に向かったエンディミオンは捕らわれるが、瀕死の重傷を負いながらも脱出し、アイネイアーとA・ベティックに救出される。だが、ホーキング絨毯と拳銃を失ってしまった。
3人は次の惑星〈ヘブロン〉に入った。ニューエルサレムはヘブロン最大の都市で、つい数週間前まで人が暮らしていた痕跡はあるものの、いまは誰もいなかった。復活の奇蹟を受けられないニューエルサレムでは医療施設が充実しており、エンデュミオンの治療に専念することになった。
次の惑星は〈ソル・ドラコニ・セプテム〉で、重力は1.7Gもあり、惑星全体が凍り付いていた。行く手を氷の壁にはばまれた一行だったが、原住民チチャタクに救われ、盲目のグラウコス神父に出会う。神父は3人と語り、オールド・アースで第一次大戦に従軍し、地質学者で考古学者だったテイヤール・ド・シャルダン神父が唱えた進化理論は、異端として裁かれなかったことを知らせる。そして、現教皇であるルナール・ホイト神父が恐れテイヤールの異端とは、人類が努力して神聖な存在を目指そうとする〈希望〉のことだと明かす。
世紀末感のある人のイラスト(女性)
惑星〈パケム〉に戻ったデ・ソヤ神父大佐は、検邪聖省による異端審問を受けた後、ルールドゥサミー枢機卿からアイネイアーの脅威を知らされる。彼女は〈テクノコア〉が派遣したウイルスのような存在で、転移ゲートやシュライクを使って人類を滅ぼそうとしているというものだ。そして、枢機卿はアイネイアーが惑星〈ソル・ドラコニ・セプテム〉にいることを告げた。そして、新設した〈キリストの軍団〉の女戦士ラダマンス・ネメスを伴い、デ・ソヤに再びアイネイアーの捕獲を命じた。
ラファエル〉は、惑星ソル・ドラコニ星系で実体化した。デ・ソヤらが復活している間に、ネメスは降下艇に乗り込み、地上へ降りた。彼女は神経探針を使ってグラウコス神父の脳から情報を吸い上げ、神父を殺した。
彼女は、惑星〈ソル・ドラコニ・セプテム〉の転移ゲートにアクセスし、アイネイアーらが惑星〈クム=リヤド〉に転移したことを知る。そして、次の転移先は惑星〈ゴッズ・グローブ〉であった。
ラファエル〉に戻ったネメスは、惑星に着陸した痕跡を消去し、〈ゴッズ・グローブ〉へ向かう命令を書き加えた。
ラファエル〉内で復活したデ・ソヤは、〈ゴッズ・グローブ〉へ向かう命令を聞いたが、コーヒーバルブの把手の向きが変わっていたことに不安を覚え、ネメスを疑う。

惑星〈クム=リヤド〉に到着すると、アイネイアーは急に発熱と痛みを訴えた。住民は姿を消していたが、エンディミオンA・ベティックは彼女を医療施設に担ぎ込んだ。
目を覚ましたアイネイアーは、グラウコス神父が死んだことを告げ、後ろから何か恐ろしいものがやって来ると言った。アイネイアーによると、自分を追っているものが〈コア〉で、〈パクス〉と〈コア〉が手を結んでいるという。
筏の上にはシュライクがいたが、3人には見向きもしなかったので、そのまま〈テテュス河〉を下っていくことにした。

ラファエル〉が惑星〈ゴッズ・グローブ〉に到着すると、デ・ソヤらが復活している間に、またしてもネメスは降下艇に乗り込み、転移ゲートの周囲にモノフィラメントで罠を張り巡らせた。
転移ゲートを出た3人の前にネメスが現れた。モノフィラメントの罠でA・ベティックは左腕を切断し、瀕死の重傷を負う。ネメスはエンディミオンアイネイアーを襲うが、シュライクがネメスと対峙した。ネメスは旧型のシュライクをあしらい、アイネイアーに襲いかかるが‥‥。
落水荘
3人は最終目的地〈地球〉に到着した。そこには〈落水荘〉があった。アイネイアーによれば、彼女を呼び寄せた存在は、地球で人間性の実験を行っているという。一方、デ・ソヤ神父大佐は〈パケム〉へ帰投した。
表紙 エンディミオンの覚醒 上巻
著者 ダン・シモンズ/酒井昭伸
出版社 早川書房
サイズ 文庫
発売日 2002年02月28日頃
価格 1,144円(税込)
ISBN 9784150113896
アイネイアーロール、均質性を信じてはため。あれは――あの存在たちはいつでも虎視眈々と狙っているの。変化と多様性を葬りさろうと」(338ページ)
表紙 エンディミオンの覚醒 下巻
著者 ダン・シモンズ/酒井昭伸
出版社 早川書房
サイズ 文庫
発売日 2002年02月28日頃
価格 1,144円(税込)
ISBN 9784150113902
サイリーナス「さんざっぱら待たせたあげく、いまごろになってのこのこもどってきおって、なんちゅうグズッタレじゃい、おのれは」(654ページ)

エンディミオンの覚醒 - あらすじ

十字架のイラスト
惑星〈パケム〉では教皇ユリウス14世が崩御した。シモン・アウグスティノ・ルールドゥサミー枢機卿と腹心のモンシニョール・ルーカス・オティが暗躍する。
その翌日、大天使級急使船〈ラファエル〉に乗っている3人の男女は、プランク空間を通過した際にも死なずに惑星〈ゴッズ・グローヴ〉に降り立ち、地中に埋まっていたラダマンス・ネメスを救出した。
教皇として崩御したルナール・ホイト神父が57年ぶりに復活する前に現れたのは、あの神父だった。ルールドゥサミー枢機卿は彼を地獄へ送り返し、〈コア〉から派遣されたアルベド顧問官がその様子を伺っていた。ホイト神父は、ウルバヌス16世として即位した。ルールドゥサミーは、かつて十字軍を招集したウルバヌス2世の名を思い起こした。
ジャンヌ・ダルクの似顔絵イラスト
一方、地球で建築を学んでいた90人のグループの中で一番若い16歳のアイネイアーは、いつしかリーダー的な存在になっていたが、師であるフランク・ロイド・ライトが他界し、いよいよ地球を去らなければならなかった。アイネイアーA・ベティックを残し、ロール・エンディミオンは一人カヤックに乗って、川を下りながら転移ゲートをくぐる冒険の旅に出発した。アイネイアーは最後に地球を出発し、惑星〈天山〉(テイエンシャン)でエンディミオンに合流するという。
牧師のイラスト
一方、パクス艦隊司令長官の副官マージット・ウー大佐は、砂漠惑星マドレ・デ・ディオスに流されたフェデリコ・デ・ソヤ神父大佐の元を訪れ、復隊を命じた。デ・ソヤは一緒に戦ってきた巨体の持ち主グレゴリウス軍曹を呼び戻し、新造された大天使級戦闘艦〈ラファエル〉の艦長として、無敵の〈ギデオン〉機動艦隊に加わり、再び〈アウスター〉討伐に向かう。だが、産まれたばかりの〈アウスター〉の乳児を殺戮する中で教会のやり方に疑問を感じた〈ラファエル〉の乗組員たちと反乱を企て、艦隊を離脱してしまう。
惑星〈ルーサス〉でエンディミオンは腎臓結石の痛みで七転八倒したが、現地で治療を受け、〈パクス〉の追っ手を振り切り、転移ゲートに飛び込んだ。だが、転移先に川はなく、巨大ガス惑星の上空に飛び出した。アイネイアーに教わった非常用ボタンを押すとパラセールのような帆が開き、墜落は免れたが、荒れ狂う雲の渦に巻き込まれ、巨大生物に飲み込まれてしまう。
パクス〉を資金面で支える〈トーラス・マーカンティラス〉のCEO、ケンゾー・イソザキは密かにアルベド顧問官に会い〈コア〉との接触を望むが、アルベドは〈聖十字架〉を使ってペットをしつけるように罰を与えた。
かつて連邦の軍事基地があった火星に教会の一部勢力が駐留していたが、突然シュライクが現れ全滅する。シュライクは彼らから〈聖十字架〉を剥ぎ取り、二度と復活できないようにした。
パクス〉の重要人物は〈ガンドルフォ城〉に集まり、そこに教皇ウルバヌス16世とアルベド顧問官が現れた。アルベドは〈パクス〉と〈コア〉の関係について説明し、アイネイアーが〈聖十字架〉を破壊するウイルスをばら撒き、教会と〈パクス〉を滅ぼし、人類という種族の抹消を謀ろうとしていることを告げる。
莫高窟
エンディミオンが目を覚ますと、そこは、かつて修理のために別れた宇宙船が沈んでいる惑星だった。彼は宇宙船に乗り込み、治療を受けながら、惑星〈天山〉を目指す。宇宙船によると、到着まで客観時間で5年以上もかかるという。
惑星〈天山〉で再会したアイネイアーとA・ベティックには仲間が増えており、ダライ・ラマの依頼で岩山に寺院〈懸空寺〉(シュアンコンスー)を建設していた。
ポタラ宮
アイネイアーは仲間たちとの問答を通じて、〈コア〉の進化の歴史を語る。かつて、コンピュータのRAMに挿入された80バイトのプログラムは、システムに寄生し、自己増殖を続け、人工生命として繁栄したという。
エンディミオンアイネイアーと愛し合った。そんな中、ダライ・ラマのいるポタラ宮に、〈パクス〉の使節が訪れた。
お坊さんの男の子のイラスト(将来の夢)
エンディミオンアイネイアーは少年法王ダライ・ラマによってポタラ宮に招かれ、検邪聖省長官フアン・ドメニコ・ムスタファ枢機卿らと会合した。真紅のドレスをまとった怪物ラダマンス・ネメスが同行していた。突然、シュライクが現れ、会場は騒然となったが、2人は辛くも脱出し、〈懸空寺 (シュアンコンスー) 〉に生還した。
アイネイアーは仲間たちと問答を続け、自分の血を飲むことで〈虚空界〉へアクセスする能力を獲得できること、ただし、それにより二度と〈聖十字架〉を取り付けることができなくなると告げた。
エンディミオンは、アイネイアーと行動を共にしているレイチェルが、ソル・ワイントラウブの娘であること、シオ・バーナードが領事の部下で〈ハイペリオン〉総督となったシオ・レインの子孫であることを知らされる。そして、アイネイアーが結婚して子どもをもうけたことを知り、絶望する。
泰山
一方、アイネイアーの噂が広まり、〈パクス〉領内の多くの惑星で反乱が起きていた。ルールドゥサミー枢機卿は、デ・ソヤ神父大佐が率いる反乱艦〈ラファエル〉の討伐のため、58隻の惑星型大天使を、〈天山〉星系へ派遣した。
エンディミオンアイネイアーA・ベティックは凧に乗り、霊山〈泰山〉(タイシャン)へ向かった。
頂上にある〈玉皇殿 (ぎょくこうでん) 〉で、〈ラファエル〉から脱出し重傷を負ったデ・ソヤ神父大佐、グレゴリウス軍曹ら4人を発見する。エンディミオンは宇宙船を呼び寄せ、彼らを治療する。
宇宙船に乗って〈懸空寺〉へ戻ると、ネメスがダライ・ラマを人質にアイネイアーの引き渡しを要求してきた。エンディミオンの捨て身の活躍でネメスは谷底へ落ちていった。

重傷を負ったエンディミオンが目覚めると、そこは、森霊修道会、〈アウスター〉、エルグらが共存する宇宙空間の巨大な樹木の球殻〈生物圏 (バイオスフィア) 〉にいた。そこには、死んだはずのフィドマーン・カッサード大佐ヘット・マスティーン、巨大ガス惑星で彼を飲み込んだ気球生物アケラタエリがいた。
一方、〈パクス〉は300隻の惑星型大天使を〈生物圏〉討伐に向かわせた。聖樹船〈イグドラシル〉でディナーパーティが開かれ、アイネイアーは〈聖十字架〉の正体を語る。彼女は〈虚空界〉の声を聞き、〈アウスター〉や地球外生物だけでなく〈コア〉も生物であると見なし、生命で満ちあふれた銀河を目指して多様性が大切であることを説く。アイネイアーは未来を関知することができるが、それは確定した未来ではないという。だから全員に、「選べ、もういちど」と言って話を結んだ。
ダイソン球
パクス〉艦隊は〈生物圏〉を蹂躙し、もう少しで〈イグドラシル〉に攻撃が及ぼうとしているところで、アイネイアーは聖樹船を転移させた。彼女は〈イグドラシル〉を転移させながら、火星にカッサード大佐を、マーレ・インフィニトウスにグレゴリウス軍曹を‥‥100余りの惑星に仲間の1人1人を転移させた。そして、A・ベティックを宇宙船に乗せて〈ハイペリオン〉へ向かわせた。
バチカン
最後に残った、アイネイアーエンディミオン、デ・ソヤは惑星〈パケム〉のヴァチカンに転移した。ちょうど教皇ウルバヌス16世はミサを行っており、アイネイアーは教皇めがけて突進していった。
だが、彼女は捕らわれ、拷問され死んでしまう。デ・ソヤは行方をくらました。エンディミオンは再び〈シュレーディンガーの猫ボックス〉に収監され、この物語を書いている。
電脳空間に飛び込んだ人のイラスト(男性)
エンディミオンは〈虚空界〉の声を聞き、アイネイアーを想い、そして〈パケム〉へ転移していた。ヴァチカンは一面焼け野原となっていたが、キー伍長やデ・ソヤ神父大佐と再会した。エンディミオンは惑星〈ハイペリオン〉へ転移すると、A・ベティックが迎えに現れた。老詩人マーティン・サイリーナスは「さんざっぱら待たせたあげく、いまごろになってのこのこもどってきおって、なんちゅうグズッタレじゃい、おのれは」と叱責し、地球に還りたいとエンディミオンに願った。
地球
聖樹船〈イグドラシル〉は、サイリーナスの館ごと廃都エンディミオンを丸ごと収容し、ソル陽系へ向かった。火星でカッサード大佐を収容し、その先に見えた惑星は‥‥こうしてハイペリオンの物語は大団円を迎える。

レビュー

ダン・シモンズ
ダン・シモンズ
『ハイペリオン』の冒頭で、領事が「やはりワーグナーは、雷鳴のなかで聴くにかざる」と独白するが、これは万国共通、28世紀の未来にも通用するのか――と、親近感を覚え、どんどん読み進んだ。
所々に名前が登場するジョン・キーツは、19世紀初めのイギリスの詩人。哲学的叙情詩「ハイペリオン」「ハイペリオンの没落」は未完に終わり、1818年に発表した「エンディミオン」は、評論家から厳しく批判され、失意のうちに結核で他界する。これらをジェフリー・チョーサーの「カンタベリー物語」風に再構築したのが、「ハイペリオン」シリーズである。
カメラで撮影をしている人のイラスト
したがって、SFではあるものの、宗教ネタあり、哲学ネタあり、そして技術ネタありの、てんこ盛り。登場人物の名前の由来も掘り下げてみると面白い。
かつての天文少年としては、ハイペリオンと聞いて、まず土星の衛星を思い浮かべた。もちろん本書ではそのエピソードも取り上げており、水も漏らさぬ仕上がりだと感じた。
レイミアが暴漢を追うシーンで、群衆の誰も協力しようとしないが、日本人観光客だけはイメージャー(デジカメのようなものか)をかまえて一部始終を記録しているという記述に笑ってしまった。
さて、元ネタになったキーツの作品は、ギリシア神話、ローマ神話、アラビアン・ナイト、フェアリーテールから中世騎士物語、ダンテ、ミルトン、シェイクスピアと非常に幅広い題材を扱っている。シモンズは、これらを取り込んだ上で、さらに、あらゆるSFの分野――スペースオペラ、銀河帝国、ニューウェイブ、ポスト・ニューウェイブ、サイバーパンク、タイムトラベル――を持ち込んだ。そのうえで、あらゆる小説の技法――一人称、三人称、日記体、夢想、カットバック――を使って書き上げた。
初めてSFを読む方には少々ハードルが高いかもしれない。だが、他ジャンルのSFや小説を読んだ後で、あらためて「ハイペリオン」シリーズを読み返すと、ニヤリとさせられること請け合い。何度読んでも味のある作品である。

ハイペリオンの没落』は、〈時間の墓標〉へ下りていった巡礼たちのその後の様子を描きながら、前作と異なり、宇宙空間における〈アウスター〉の攻撃というスペースオペラ的な描写が並行してゆく。
巡礼を中心とする主要登場人物の各々が別の場所、別の時空で戦っており、その場面がめまぐるしく切り替わっていくので、読む方も一苦労させられる。

ハイペリオン・シリーズは、1990~2000年代の国内のSFファンの人気を鷲づかみにした。その理由は、解説で話題に出されたアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』との類似性にあるからではないだろうか。古今東西のSFのエッセンスを抽出した上で、ハリウッド映画顔負けの情景描写を盛り込みつつ、ホラーや推理トリックをちりばめ――私は、場面展開の早さに騙されないよう細心の注意を払っていたのだが、最後の100ページで完全にやられた😰

圧倒的な火力を見せつける宇宙戦闘シーンは、E・E・スミスのSF「宇宙のスカイラーク」「レンズマン」シリーズを、シュライクと人類が戦う未来のシーンは映画「ターミネーター」を、聖樹船〈イグドラシル〉はアニメ「天地無用!」を、〈メガスフィア〉のシーンは映画「マトリックス」を連想させる。
ただ過去のSFを下敷きにしているだけでなく、宗教的・哲学的な重厚さも備えている。
ダンテ『神曲』
ダンテ『神曲』
〈雲門〉の語りは禅問答だし、デュレ神父が語る惑星〈ハイペリオン〉での出来事はダンテの『神曲』だ。
そして、思わせぶりな旅立ちをしたデュレ神父とレイミアが、次のシリーズで重要な位置を占めることになる――。
〈コア〉と接触する場面では、AIの倫理について取り上げている。『AI倫理』(西垣通/河島茂生=著,2019年)でも議論されているが、AIに〈死〉の概念がない以上、人類と同じ知能を期待するのは難しいという仮説は説得力がある。
メーテルと鉄郎(小倉駅新幹線口)
メーテルと鉄郎(小倉駅新幹線口)
後続の作品『エンディミオン』『エンディミオンの覚醒』において、人類を含む銀河系の知的生命が、これとは別の生存戦略を提示するが、この流れは〈永遠の生命〉に疑問を投げかけた松本零士「銀河鉄道999」を想起させる。
ハイペリオン・シリーズは全4巻だが、各々が上下巻に分かれており、計8冊。しかも文庫本1冊が500ページという大ボリューム。『エンディミオン』は3番目に当たるから、起承転結の〈〉――『ハイペリオンの没落』の解説で比較されたアニメ「エヴァンゲリオン」の新劇場版で言うなら「Q」にあたる。それもあってか、ともかく面白い――というか、笑える。
シュレーディンガーの猫ボックス〉で絶体絶命の危機にある主人公を救ったのは、前シリーズの英雄の一人で、トリックスターたる詩人のサイリーナス。〈自由意志〉で主人公に同行したいと申し出るA(アンドロイド)・ペティックは、アイザック・アシモフのSFにおけるロボット「R・なんとか」。エンディミオンとの会話の中で、アシモティヴエイターという三原則を組み込まれているわけではないと語る。地球がブラックホールによって隠されたという設定も、アシモフの未来史を彷彿とさせる。
ランプの魔人のイラスト
サイリーナスが隠していた領事の宇宙船の造形は「マグマ大使」(しかも喋るし)、ホーキング絨毯は「アラジンと魔法のランプ」、〈時間の墓標〉の先にある未来世界は映画「ターミネーター」、〈時間の墓標〉の迷宮を滑走するシーンは映画「インディ・ジョーンズ」、お姫様の救出を頼まれるのは映画「スター・ウォーズ」、宇宙空間で活動できるよう遺伝子改良した〈アウスター〉はアニメ「翠星のガルガンティア」‥‥前作に引きつづき、古今東西のSFネタが詰まっているだけでなく、情景描写も洗練されてきている。
(「ハイペリオン」シリーズは1989年~1997年に発表されており、1995年の「エヴァンゲリオン」は微妙に被るものの、「翠星のガルガンティア」は2013年と後年の作品)
12歳のお姫様アイネイアーの言葉が悪いのは、サイリーナスが育てたせいに違いない。

エンディミオン』に登場する惑星の名前だが、ハイペリオンはギリシア神話、パールヴァティーはヒンズー教、ルネッサンス・ベクトルは西欧のルネッサンス時代、マーレは海を意味するラテン語、ヘブロンはユダヤの古都、リヤドはサウジアラビアの首都、パケムは平和を意味するラテン語。
解説にもあるが、どんな非難を浴びようとも自分に課せられた役職の範疇から逸脱せずに命令を遂行するデ・ソヤ神父大佐は、アニメ「ルパン三世」の銭形警部のようである。一方、終盤に登場する女性戦士ラダマンス・ネメスとシュライクの戦いは、映画「ターミネーター2」のようだ。

最後に登場する〈落水荘〉だが、帝国ホテルの設計で知られるフランク・ロイド・ライトの手になるもの。特撮テレビ「サンダーバード」に登場するトレーシーアイランドに似ていると思うのは私だけだろうか‥‥。
ウルバヌス2世
ウルバヌス2世
エンディミオンの覚醒』でも、下敷きにしている作品の数々が連想できる。
第1部は、ウルバヌス16世が即位するが、これは十字軍遠征を招集したウルバヌス2世を連想させる。巨大ガス惑星でエンディミオンがカヤックに帆を張って、雲と雷の乱気流を行様は、アニメ「天空の城ラピュタ」だ。惑星〈天山〉では、日本人になじみの深い高野山や弘法大師の名前が出てくる。弘法大師は〈天山〉におり、世が改まれば目覚めるという設定。
ポタラ宮
ポタラ宮
ポタラ宮はもちろん、天山、泰山、玉皇殿は実在の地名・観光名所。〈生物圏〉(バイオスフィア)はダイソン球(ダイソンスフィア)、気球生物アケラタエリは木星の浮遊生物として一昔前に流行った。
終盤でアイネイアーが仲間たちを転移させていくシーンは、どこかで見たような、読んだような記憶があるのだが‥‥日本武尊の白鳥伝説?「魔法少女まどか☆マギカ」?
(こちらはエンディミオンより後世の作品だ)。ちなみに、エンディミオンは最後の最後まで〈覚醒〉しない。「魔法少女まどか☆マギカ」は、これをなぞらえたのかもしれない。
にしても、すさまじいボリュームと筆力だ。『エンディミオンの覚醒』上下巻だけでも1,400ページあまり。その情景描写は、昨今のラノベ(ライトノベル)の対極にあると言っていいだろう。想像力を膨らませることで、ハリウッドですら及ばない映像世界に脳を浸すことができる。

シリーズの中で一番好きな登場人物は、と問われたら、詩人のマーティン・サイリーナスを挙げたい。すべての登場人物の中で最も長い時間を生き、生にしがみつき、最後に、エンディミオンに向かって「さんざっぱら待たせたあげく、いまごろになってのこのこもどってきおって、なんちゅうグズッタレじやい、おのれは」「すみませんですんだら警察はいらんわい」と悪態をつき、戻ってきた地球へ連れて行けと無茶な注文を出す。自分に正直な生き方をすることは、最高の幸せに違いない。
(2022年6月20日 読了)

参考サイト

(この項おわり)
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