脳を老化させるタンパク質「FTL1」

2026年4月27日 作成
脳を老化させるタンパク質「FTL1」
2025年(令和7年)8月19日に、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究者などが、脳の老化を促進する「FTL1」と呼ばれるタンパク質を特定し、その量を減らすことで記憶力や神経接続を回復させることを実証した研究報告を発表しました。
研究チームが若いマウスと老齢マウスの海馬の遺伝子やタンパク質を比較したところ、加齢に伴って神経細胞内のFTL1(鉄の貯蔵に関わるタンパク質)が異常に増えていることが判明しました。
脳を老化させるタンパク質「FTL1」(要約)
この研究は、老化に伴う認知機能低下の分子メカニズムを解明し、回復を可能にする新たな治療標的を特定することを目的としています。研究チームは、加齢マウスの脳、とくに学習と記憶を司る海馬において、鉄代謝に関与するタンパク質であるフェリチン軽鎖1(FTL1)が増加していることを見いだしました。このFTL1の増加量は、認知機能低下の程度と強く相関していました。

遺伝子発現解析および質量分析を用いた検討の結果、老齢マウスでは神経細胞内のFTL1が特異的に増加していることが確認されました。さらに、若齢マウスの海馬神経細胞でFTL1を人工的に増加させると、シナプス形成の低下や認知機能の悪化が引き起こされ、老化した脳に類似した状態が再現されました。これはFTL1が単なる老化の指標ではなく、認知機能低下を促進する「老化促進因子」として機能していることを示しています。
一方で、老齢マウスの海馬においてFTL1の発現を抑制すると、シナプス関連分子の発現異常が改善され、記憶や学習能力が有意に回復しました。この結果は、加齢による認知機能低下が不可逆的な現象ではなく、分子レベルの介入によって回復可能であることを示しています。

さらに研究では、FTL1が神経細胞の代謝にも影響を与えることが明らかになりました。FTL1の増加は、鉄の酸化状態の変化を伴い、ミトコンドリア機能やATP合成などのエネルギー代謝を低下させていました。神経核RNAシーケンス解析により、代謝関連経路の抑制が確認され、NADH補充によってこれらの代謝機能を強化すると、FTL1による老化促進効果が緩和されることが示されました。

以上の結果から、本研究はFTL1を老化脳における重要な分子制御因子として位置付け、鉄代謝と神経細胞エネルギー代謝の調節を通じて認知機能を回復させうる新たな治療戦略の可能性を提示しています。本論文は、脳の老化が可塑的であり、将来的な認知症予防や治療への応用が期待される重要な知見を提供しています。

参考サイト

(この項おわり)
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