『ものづくりをあきらめるな!』――三鷹光器の物語

新井洋=著
表紙 ものづくりをあきらめるな!
著者 新井洋
出版社 すばる舎
サイズ 単行本
発売日 2004年06月
価格 1,540円(税込)
ISBN 9784883993550
中村会長の「必要なものをつくれ」というのは、単にものづくりの原理原則といった精神論を意味するものではない。そうではなくて、一種のマーケティング論になっている点も看過してはならない。(51ページ)

概要

望遠鏡のイラスト
東京都三鷹市にある光学機器メーカー「三鷹光器」のドキュメント本である。私は大企業でシステム開発に携わっているが、技術者の心構えとしては、小さな機械メーカーである三鷹光器と同じだと思う。

三鷹光器の理念は単純だ――「必要なものをつくる」。
だが、これが企業ビジネスになると、なかなかやりにくい。顧客ウケするシステムを提案したり、消費者に余計な機能を押し付けるだけのシステムを販売したり、と。
コンピュータ・システムの特長は、
  1. 早い
  2. 正確
  3. 忘れない
の3点に集約できる。何でもかんでもシステム化すればいいというものではなく、これら3点の特長が発揮できる業務だけに絞ってシステム化すべきである。これを間違えている経営者は少なくない。
一方、つくる側でも勘違いしている技術者がいる。応答速度の遅いシステムや、計算結果の誤差が激しいシステム、システムダウンでクラッシュしてデータを失ってしまうようなシステムは論外である。

三鷹光器の社長は社員に対し、「一人で3つ以上のことをマスターせよ」と檄を飛ばしているという。これはシステム開発でも言えることだ。データベースやネットワークのスペシャリストがいると心強いが、データベースしかできないというのでは困る。こうしたスペシャリストの寄せ集めの場合、インターフェース部分に必ずバグが発生する。
落ちないシステム、止まらないシステムをつくるのは、マニュアル化できない。職人の勘のようなものが必要とされる。新人プログラマを手取り足取り教えてやっても、大したSEには成長しない。

また、技術の原点を天文に求めるのも同感である。私自身、天文が好きなこともあるのだが、新天体の軌道計算プログラムをつくるスキルがあれば、およそどんなシステムにも応用が利くと考えている。軌道計算を行うためには、三角関数や微積分などの数学の基礎が要求されるほか、どんな事務系システムでも必要なカレンダー計算を行わなければならない。
インターネットが普及した今日のシステムで、世界各地の時差を考慮しないサーバ・アプリケーションを設計するようではお話にならない。
まあ、これらは私の個人的なモノの見方なのだが、ともかく、一度本書に目を通してほしい。忘れられた昭和の“何か”が読み取れるはずだ。
(2007年1月5日 読了)

参考サイト

(この項おわり)
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