『日本の中小企業』――ピンチはチャンス

関満博=著
表紙 日本の中小企業
著者 関 満博
出版社 中央公論新社
サイズ 新書
発売日 2017年12月21日頃
価格 880円(税込)
rakuten
ISBN 9784121024688
方程式が所与の時代は、問題解決型対応で済んだものが、新たな時代には前例もなく、問題そのものを発見していかなければならない。(205 ページ)

概要

著者は、明星大学経済学部教授で、中小企業や地方創生に関する活動や著作が多い関満博さん。

冒頭で、わが国の製造業事業所が 1986 年の約 87 万 4 千をピークとして、2016 年には約 45 万 4 千に半減していることを指摘する。わが国は 2008 年を境に人口減少時代となり、2015 年には 4 人に 1 人以上が高齢者となった。高齢化率は、欧米や中韓と比べても極端に高い。そんな中、起業は停滞し、廃業が増加している。
とくに製造業では、3K色が強い鍛造、鋳造、熱処理、メッキなどの廃業が続いており、高性能で高額な機械設備が求められる金型業界でも新規参入は難しくなっている。このままでは国内で一通りのモノが作れなくなってしまう。一方、IT関連や医療・福祉関係は成長している。

レビュー

わが国には、企業を支援するインキュベーション施設やマネージャがいる。第2章では、既存事業部門でインキュベーションを用いて起業した事例を見てゆく。モノづくりのためには複数の企業が連携することが不可欠だが、リーマンショックで倒産した企業を再生させた例もある。
アパレルや食品といった既存分野では、「80 年代半ば頃からは、差別化された商品の要請が強まり、多種少量生産、高級品生産が求められるようになった」(66 ページ)ことから、新規参入の余地が生まれているという。

第3章では、新たな事業分野に踏み込む創業企業として、IT 分野や大学発ベンチャー、農業・水産業周辺の取り組みを見てゆく。
関さんは、「最近では IT関連業種も 3K職種とみなされる部分も多く、スタッフの確保が最大のテーマとなっている。拡大意欲の強い IT 企業の場合、技術者を求めて、ベトナムなどの東南アジア諸国への進出も不可欠であろう」(82 ページ)とアドバイスする。
環境変化や社会問題を解決するために、あらたな事業分野を開拓できる。関さんは「若者の起業意識が低下していることが気になる」(102 ページ)と心配するが、今までとは違うきっかけで起業するのが、これからのスタイルではないかと、私は楽観的に見ている。

第4章は事業承継だ。身近でも承継できずに廃業する中小企業が後を絶たない。「中小企業の約 3 分の 1 には承継の候補者がいないとされている」(144 ページ)という。これは大問題だ。
金融機関は個人保証はとらないというが、キリギリのところで個人保証を取られるという実態があり、従業員に承継させるためのハードルとなっている。結局は、息子、娘、娘婿が承継せざるを得ない。関さんは、家族や親族による事業継承も、「その事業をベースにしながらも、新たな要素を付け加えていくなどして、希望のもてる事業に変えていくことが不可欠」(126 ページ)と指摘する。

第5章では、人口減少・高齢化といった国内環境の変化、海外生産へシフトしている製造業のトレンドを踏まえ、あらたなビジネスモデルを展開した事例を見てゆく。ピンチはチャンスと言われるが、その通りである。

終章では、ニクソン・ショック以前の固定相場制でわが国の製造業が活況を呈したこと、ニクソン・ショックの直後に返還された沖縄は工業化の契機をつかめなかったことに触れ、1985 年のプラザ合意以降の円高でバブル経済が勃発したこと、その後、中国・アジアの存在感が大きくなったと振り返る。
そして、世界に先駆けて、超少子高齢化、人口減少社会に入った。いま、わが国は世界の最先端にいるのである。関さんは、このことについて「方程式が所与の時代は、問題解決型対応で済んだものが、新たな時代には前例もなく、問題そのものを発見していかなければならない」(205 ページ)とアドバイスする。

さて、地球上の生物は、何度かの大絶滅を超え、あらたな進化を見せ、空席になったニッチを埋めるように反映してきた。会社もまた生き物である。廃業が続くのは一時的なことで、ヒトがいる限り、ニッチを埋める事業が登場するであろう。
本書に即発されて、わが国の人口推移をシミュレーションするプログラムに、生産年齢人口減少に伴う企業(事業所)数の減少を推計する機能を加えてみた。ご利用になった感想をいただければ幸いである。
(2018 年 10 月 2 日 読了)

参考サイト

(この項おわり)
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