『時計の科学 人と時間の5000年の歴史』

織田一朗=著
表紙 時計の科学 人と時間の5000年の歴史
著者 織田 一朗
出版社 講談社
サイズ 新書
発売日 2017年12月14日
価格 1,058円(税込)
rakuten
ISBN 9784065020418
最も神に近い存在である教会にとって、ミサの時刻を正確に守ることは、神への忠誠心の証しであり、重大な責務でした。(52ページ)

概要

著者は、服部時計店で営業・宣伝・広報・総務を勤めた時の研究家、織田一朗さん。
日時計から始まり、砂時計、花時計から機械時計へ進化していく時計の歴史を、各国の事情を交えながらわかりやすく紹介する。規格ではないのに時計の針は万国共通で右回りになっていることや、文字盤にゼロがない背景も、本書を読めば納得である。
最先端の光子時計は、300億年に1秒の誤差だという。時計の精度は、宇宙年齢をも正確に測定できるほどになった。

レビュー

人類初の時計は日時計だという。ところが、中国や日本では日時計はほとんど作られず、水時計からスタートした。
その後、日時計、砂時計などが考案されるが、自然を活用した花時計も作られた。花時計と言っても、花壇の中に長針と短針がある「花壇時計」のことではない。生物の分類学を創始したリンネが、開花時刻が明確な草花を円上に植えたものだ。日本の風土でできる花時計を考えたのが、日本標準時の子午線が通る明石市に住む生物学者の十亀好雄 (そがめ よしお) 氏である。

14世紀に入ると、ヨーロッパで機械式時計が製作されるようになる。巨大な機械式時計が教会に設置された。中世キリスト教会にとって、ミサの時刻を正確に守ることは、神への忠誠心の証であり、重大な責務だったという。
ガリレオが発見した振り子の等時性を利用し、時刻を正確に刻む振り子式時計を実用化したのは、同じ天文学者のホイヘンスで、1657年にオランダ議会に設置された。時計は教会から市民の手に移ってゆく。
ゼンマイによって時計は持ち運びが可能になり、さらに1759年には日差1.8秒のクロノメーターが完成した。19世紀半ばになると電気時計が考案される。

工業標準規格はないのに、時計の針は万国共通で右回りである。これは、北半球の日時計の影の動きが右回りだったことに倣ったものだという。南半球では左回りなのだが、古代の日時計は北半球でしか使われてなかったため、右回りが定着したという。

時計は、駆動エネルギーが電気になり、トランジスタやクオーツを使って、どんどん正確な時を刻むようになってゆく。1969年のクリスマス、月差5秒以内のクオーツウオッチ「セイコークオーツアストロン35SQ」が発売された。価格は45万円で、当時の「国民車」カローラより高価だった。
一方、1955年にはイギリスでセシウムを使った原子時計が製作され、3000年に誤差1秒程度と桁違いの精度を実現した。さらに、東京大学大学院工学系研究科の香取秀俊教授が2001年の学会で発表した光格子時計は、300億年に1秒の誤差にとどまるという。
時計の精度は、宇宙年齢をも正確に測定できるほどになった。
(2018年07月15日 読了)
(この項おわり)
header